第112話 牛頭馬頭とは?・・

文字数 2,172文字

 牛頭馬頭との決闘を終え、阿修羅(あしゅら)帝釈天(たいしゃくてん)は天界に戻って来た。
帝釈天の治療を行うためだ。

 阿修羅は帝釈天を治療師の元に連れて行き、慌ただしく何処かに行ってしまった。
帝釈天は大人しく治療師の言う事を聞き治療を受ける。
治療といっても解毒剤を体内に取り込んだだけではあるが・・。

 治療後、帝釈天は治療師から安静を言い渡される。
命に別状はなかったが、一歩間違えると死んでいたのだ。
当然の措置といえよう。

 だが、帝釈天は治療師の元を去ると自分の職場に足を向ける。
安静なぞしていられるか、そう思ったからだ。
だが、途中で考えを変えた。
もし、安静にしていなかった場合の阿修羅の事を考えたのだ。
怖くなったからだ。

 そして、向かった先はなぜか阿修羅の家であった。
自分の家には帰りたくなかったのだ。
帰れば母である奪衣婆(だつえば)の説教が待っている・・・
そう思ったのだ。
だから阿修羅の家で、静養をとることに決めた。
これなら阿修羅も文句は言うまいと、ニンマリとした。

 道すがら、帝釈天は今回の決闘について考えていた。
最初に考えたのは毒についてだ。
今回の毒を、甘くみたことを反省する。
いや、牛頭馬頭を甘く見ていたというべきであろう。

 帝釈天は武将であり、毒には詳しい。
とはいえ薬師ほどではない。
毒に詳しいのには理由がある。

 一つには、あの方の警護を務める理由からである。
いざというときには、毒味をする必要があるからだ。

 だが毒味で死んだら警護の意味がない。
そのため、毒を飲まずに毒を判別する知識に長け(たけ)ていた。
また致死に至らない程度に、毒味をする方法も身についている。
そして毒に強くなるよう毒の摂取をし耐性も習得しているのだ。

 そのため慢心していたのかもしれない。
牛頭馬頭の所で飲まされた毒にはトラップがあったのだ。
一見はたいした毒には見えなかった。

 無色無臭の毒であった。
だが味があったのだ。
常人では気がつかないほどの、ほんの僅かな味。
それに帝釈天は気がついた。
そして帝釈天は毒の種類、作用を判断したのである。

 だが、これがいけなかった。
毒性が弱い毒の味に近づけた猛毒だったのだ。

 一点補足しておくとしたなら・・
天界以外にある猛毒では、神殺しはそう簡単に行えない。
とはいえ毒がそれなりに効くことは確かだ。
おそらく牛頭馬頭は神殺しが猛毒でできると考えていたのであろう。
今回、その誤算により帝釈天は助かったともいえる。
もし、牛頭馬頭が神について熟知して毒を容易していたら危なかったかもしれないのだ。

 帝釈天は自分が慢心していたことを深く反省していた。

 そして第二の反省点である。
それは阿修羅とのホウレンソウである。
そう、あの報告、連絡、相談の一般的な決まりである。
阿修羅との連絡方法を決めなかったことを後悔していたのである。

 確かに阿修羅がきてくれたおかげで牛頭馬頭を殺めることはなかった。
その点は阿修羅がきてくれた事を感謝している・・・。
だが、自から毒を飲んだことを阿修羅に知られてしまったのだ。

 連絡方法をキチンとしていれば阿修羅が地獄界に来ることはなかったのだ。
その点については、ものすごく帝釈天は反省をしていた。
それというのも阿修羅は母である奪衣婆(だつえば)とツーカーの仲だからだ。
阿修羅は母に毒の件を話すことはほぼ100パーセントだ。
話さないはずはないのだ。
母に怒られだけなら、なんとかその場を(しの)げる。
だが、毒を飲んだ事で母に泣きつかれたらたまったものではない。

 なんとか回避する方法はないかと考える。
だが、良い考えは浮かばなかった。
母から逃げるためにも阿修羅の家が一番安全な事は確かである。
帝釈天は考えるのをやめて、阿修羅の家に転がり込んだ。

ーーー

 帝釈天が阿修羅の家に転がり込んでから数時間経過した頃だ。

 帝釈天は我が者顔で、阿修羅のリビングで(くつろ)いでいた。
それもソファーに深く腰掛け酒を飲んで。
毒の治療を受けた直後であるというのにだ。

 阿修羅の側仕え達は、その様子に(あき)れた。
治療の件もあるので、側仕え達はあの手、この手で(いさ)めはした。
だが、体内の毒の消毒(?)には酒の消毒が一番だと言い張られたのだ。
側仕え達は黙るしか他なかった。

 しばらくして阿修羅が家に帰ってきた。
玄関先で側仕えは阿修羅に帝釈天の事を報告しようとする。
だが、阿修羅はそれを(さえぎ)った。

 阿修羅は客人を連れて来ていた。
側仕えは慌てて客人に跪き挨拶をする。
客人もそれに答えた。

 阿修羅は玄関を上がり客人をリビングへと案内をする。
リビングには帝釈天がいる。
慌てて側仕えはそのことを阿修羅に伝えようとしたが遅かった。
阿修羅がリビングのドアを開けてしまったのだ。
ドアを開けた阿修羅は、リビングに入らずそこで立ち止まった。

 阿修羅はリビングにいる帝釈天を見つけたのだ。
帝釈天もそれに気がつき、阿修羅を見る。

 阿修羅は帝釈天に声をかけた。

 「なんでお前が、俺の家にいる?」
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