第61話 祐紀、御神託の内容を話す 5

文字数 2,374文字

 祐紀(ゆうき)は一つ深呼吸をすると話し始めた。

 「大川(おおかわ)の氾濫で閻魔堂(えんまどう)が流されます。」
 「閻魔堂が、か?」
 「はい。」

 「もしや! 閻魔堂が流されると地龍が出るのか?!」
 「はい。」
 「そうか・・、閻魔堂の伝説は誠にあったということか・・。」
 「おそらくは、そうかと。」
 「・・・。」

 佐伯は瞑目する。
そして、佐伯は事の重大さが分かると、祐紀に糺す(ただす)

 「閻魔堂を守るには、大川の治水工事をすればよいのか?」
 「やるにこしたことは御座いません。」
 「どういう意味じゃ?」
 「佐伯様は、どのような大雨でも堤防工事をすれば氾濫しないと思いますか?」
 「・・・。」
 「自然災害は人知を超えます。」
 「う・・む・・。」

 佐伯は何も言えなくなった。
大川は確かに今まで氾濫したことはない。
しかし、過去には増水により堤防が決壊しそうになったことがある。
そのため、何度か堤防の補強工事などを行っているのだ。
そのことを考えると、辛うじて氾濫はしていないと言うべきかもしれない。

 大川で氾濫が起きないようにするには、堤防を高くすればよい。
では、どの位の高さで、どこから何処まで行うのか?
そして堤防工事をする費用はどうするのかという問題もある。
現状を考えると、予算の捻出は難しい。
堤防工事を殿と他の重役に認めさせるのは至難の業(しなんのわざ)であろう。

 それにもし工事ができたとしても懸念事項がある。
それは閻魔堂を守る工事をし、別の場所で堤防が決壊した場合だ。
その場合、民が黙っているとは思えない。
閻魔堂と自分達とどちらが大事なのだと、一揆がおきる可能性がある。
他国の間者により、そのように煽動された場合、国の一大事となりかねない。

 佐伯は祐紀に策がないか(たず)ねた。

 「祐紀よ、堤防工事で何かよい方法は無いのか?」
 「堤防工事については私にはわかりません。」
 「?」

 「神は大雨が降り大川が氾濫すると告げただけです。」
 「では、そのお告げは何のためなのだ?」
 「神は人の災害を知らせるだけで、後は人のすることだと考えます。」
 「?」

 「大雨で洪水するかどうかは、人の努力の問題です。」
 「つまり、予算をけちると洪水がおきるということか?」
 「極論ですが、そういうことです。」
 「そうじゃな・・、しかし堤防工事だけに湯水のように税は使えぬ。」

 佐伯は腕を組んで苦渋の表情をした。
 
 「佐伯様、できるのは二つです。
 できる範囲での堤防の工事が一つ。
 雨を観察し、異常だと判断したら民の非難です。」

 「うむ・・、そうじゃな。」
 「それと、あと一つ、閻魔堂の対策をすべきです。」
 「・・・予算が取れるかは分からんぞ?」

 佐伯の困り果てた顔に、祐紀は困った顔をする。

 「閻魔堂の保護に関して、方法はあることはあるのですが・・。」
 「ほう・・・、それはどんな方法じゃ?」
 「・・・。」
 「どうした、申してみよ。」

 祐紀は口を噤んだまま佐伯の目をじっと見た。
佐伯は、その様子に一抹の不安を覚える。
祐紀は重たい空気をまとい口を開いた。

 「殿にだけ話そうと思っていたのですが・・。」
 「・・・・・。」
 「()の国の姫御子(ひめみこ)様の協力を仰ぎ、閻魔堂の結界を強固にします。」
 「何? 姫御子様じゃと・・。」
 「はい。」
 「それは・・、無理じゃろうな・・。」

 佐伯は呆れた顔をして祐紀を見た。
かりにも陽の国の姫御子だ。
祭事に国賓として呼ぶのがせいぜいである。
我が国が友好関係にあるとはいえ、我が国が姫御子を拉致しないう保証はないのだ。
陽の国としても、霊能力者の頂点にある姫御子は国外には出さないであろう。
それに仮に陽の国が了承したならば、法外な見返りを求められるであろう。

 祐紀は、その佐伯の言葉には動じず淡々と話す。

 「殿が陽の国に要請すれば可能かと思います。」
 「可能じゃと?・・」
 「はい、しかし、単にこちらからの一方的なお願いでは無理でしょう。」
 「では、どうするのだ?」

 「こちらも姫御子様を助けることを条件にすればよいのです。」
 「助ける? 何を?」
 「私は姫御子様が御神託(ごしんたく)を受けていることを知っております。」
 「それがいかがした?」
 「その御神託は姫御子様だけでは困難です。」
 「?」

 「その御神託を私が陽の国に行って手助けをすることを約束すればよいかと。」
 「な!! 馬鹿なことを申すでない!」
 「では、閻魔堂の件は(あきら)めますか?」
 「う!・・・。」
 「国の一大事をどうするか、佐伯様、よくお考え下さい。」
 「・・・。」

 佐伯はしばし押し黙った。
そして、腕を組んで厳しい顔をして目を瞑る。
沈黙の時間が流れた。

 そして佐伯は徐に目を開き、言葉を発する。

 「う、む・・・、分かった。 殿に取り計らおう。」

 そういうと佐伯は腕をほどいた。
そして祐紀に質問をする。

 「ところで祐紀よ、何故(なぜ)姫御子様の御神託を知っておる。」
 「・・・。」
 「話せる範囲でよい。」
 「・・・。」
 「儂が信じられぬか?」

 祐紀は佐伯の言葉に観念し話し始めた。

 「私も姫御子様と同時に同じ御神託を受けたからです。」
 「な!・・・、そんな事があるのか?」
 「はい、普通はあり得ないことです。」
 「う、む・・。」
 「御神託の内容は話せませんが、そういうことです。」
 「そうか・・。」
 「はい。」
 「つまりは、お前は最初から陽の国に行くために殿に会いたかったのだな。」
 「はい・・、申し訳ございません。」
 「お前が謝ることでもあるまい、御神託のためであろう?」
 「・・・はい。」

 佐伯は考えこむ。
祐紀にとっては長い時間に感じた。
やがて佐伯は祐紀に確認をした。

 「殿に、その御神託の経緯は話してよいか?」
 「やむを得ないことかと。ただし殿だけにして下さいますか?」
 「うむ、分かった。」

 佐伯は祐紀の了承を確認すると再び目を瞑る。
沈黙が二人の間に再び流れた。
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