第124話 牛頭馬頭との決着 その2

文字数 2,144文字

 阿修羅(あしゅら)牛頭馬頭(ごずめず)に確認を取る。

 「俺が審判をする。 いいな?」
 「よかろう・・。」

 牛頭(ごず)が答え、馬頭(めず)(うなず)く。
帝釈天(たいしゃくてん)は、試合を受け入れたことにホッとした。
さすがは阿修羅だと感心もした。

 「さて、試合は寸止めだ。
まあ、多生のカスリは許そう。
欲求不満の解消のためにな。」

 この阿修羅の提案に、牛頭が問いただす。

 「(かす)るって・・、どの程度だ?」
 「ああ、この前の帝釈天の蹴りを食らったくらいだな。」
 「あれを掠るというのか?」
 「あの程度では、もう怪我をすることもないだろう」

 その阿修羅の言葉に、牛頭馬頭はニヤリとする。
神力を習得した自信から来るものだろう。

 「では、試合開始としようか?」
 「ここでか?」
 「ああ、ちょうどすり鉢状のクレータもある。
おもしろい試合ができそうだしな。」
 「わかった。」

 牛頭馬頭はちらりと帝釈天を見る。

 「俺ら二人に帝釈天様一人でいいのか?」
 「もちろん、それでよい。」

 帝釈天は軽く頷く。

 「ふん、余裕でいやがる、帝釈天様よぉ。」
 「ああ、お前らが相手ではな~。」
 「てめ~!!!!」

 殴りかかろうとする馬頭に阿修羅は制止をかける。

 「試合の開始合図はしてないぞ!」
 「くっ!」

 馬頭は帝釈天の鼻の2cm位手前で拳を止めた。
制止がもうすこし遅ければ、顔面に当たっていただろう。
だが、帝釈天は全く動じていなかった。
まるで、(ちょう)が顔にとまりに来たとでもいう感じだ。

 その様子を見て、馬頭が奥歯を噛みしめた。
歪んだ顔になる。

 阿修羅は、三人に声をかける。

 「では三人とも、庭の中央当たりに移動だ。」
 「庭だぁ? クレータで半分になっているが?」
 「クレーターから、10m位離れた位置に移動しろ。」
 「あ、ああ・・・分かった。」

 三人は指定された場所に行き、対峙する。
阿修羅は三人からすこし離れていた。

 そして阿修羅は試合開始を宣言する。

 「では、開始!」

 それと同時に牛頭馬頭は素早く帝釈天を挟むように移動した。
前回の決闘の時と速度とは比べものにならない。
移動すると同時に牛頭は顔面にストレートを放つ。
馬頭は右足で脇の下を狙い蹴上げた。

 ドン!

 地響きのような重たい音が響く。
帝釈天は右手の腕で牛頭の右手を受け止めた。
それと同時に左足を上げ馬頭の蹴りを受け止めた。

 牛頭馬頭は直ぐに後退り(あとずさり)、帝釈天の周りを回り始める。
それも凄い速さだ。

 「ほう、前とは比べものにならないな。」
 「何を余裕かましてやがる!」

 そう馬頭は言うと同時に、アッパーで帝釈天の顎を狙う。
それにタイミングを合わせ、帝釈天が仰け反って逃げないように牛頭が背後から右ストレートを後頭部に入れようとした。

 帝釈天は軽くしゃがむと同時に、右足で二人の足下を払う。
殴るため重心を腕にかけていた二人は、体勢を崩した。
だが、帝釈天の頭があった位置に二人の拳がそのまま勢いを殺さずに殺到する。
牛頭が出したストレートの拳に、馬頭のアッパーが炸裂した。
それと同時に二人は帝釈天の足払いにより、頭から地面に突っ込んでいった。
二人ともなんとか腕で顔を庇い、地面に激突をする。

 だが、二人とも額や、腕にかなりの擦り傷を負う。
そして、ノロノロと立ち上がった。
帝釈天は、追随する攻撃を加えず二人を静観した。

 牛頭は馬頭のアッパーを右手の拳にくらい、右手の拳を左手で(かば)う。
どうやら右手首を骨折したようだ。
馬頭の手はなんともないように見える。

 二人地面に激突したため、傷を負っていた。
地面に二人の血がポタリ、ポタリとおちる。

 馬頭は牛頭に言う。

 「すまぬ、俺の拳で怪我を負わせてしまった。」
 「なに、気にするな。
まさかあれほど俊敏に帝釈天様が動けるとは思わなかった。」

 「牛頭よ、お前は試合から外れてくれ。」
 「そうだな、これでは足手まといだ。」

 そう言って牛頭は、庭の隅にある木陰に向かう。
阿修羅が馬頭に確認を取る。

 「まだ、やるのか?」
 「当たり前だ!」
 「ふむ、よかろう、では、開始!」

 馬頭は今度はゆっくりと帝釈天に近づく。
帝釈天は自然体で立ったままだ。

 馬頭は自分の間合いに入った瞬間、飛び膝蹴りをはなった。
すばらしいジャンプ力である。
勢いも凄い。

 あわや帝釈天の左胸、心臓の辺りに炸裂するかのように見えた。
だが・・。

 帝釈天は右肘を振り下ろし、襲ってくる膝を打った。

 ゴキッ!

 鈍い音が響く。
それと同時に馬頭は地面にたたきつけられ、転がり回る。

 「ぐわっ!!」

 悲鳴にならない悲鳴を上げ、転がり回る。
どうやら膝の皿を割られたようだ。

 牛頭は呆然とその光景を見ていた。

 帝釈天は馬頭に近づくと、転がりまわっている馬頭の鳩尾を蹴った。
馬頭は気を失い、大人しくなる。

圧倒的な帝釈天の勝利であった。
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