第163話 巫女・教会への帰還

文字数 2,485文字

 助左(すけざ)神薙(かんなぎ)巫女(みこ)の手を取り、朽ち果て(くちはて)かけた神殿から外に出た。

 すると神薙の巫女の目に黒装束(くろしょうぞく)の者達が地面に倒れているのが飛び込んできた。
さらに少し離れた場所を見ると、黒装束の二人が別の黒装束の男に取り抑えられている。

 助左はその様子を見ても動じた様子はない。
それどころか、二人を取り押さえている黒装束の者達にかるく手を振った。

 神薙の巫女はその様子から状況が分かった。
倒れている者と、捕らえられている黒装束は自分を拉致した者達で、他の者は自分を助けに来てくれたのだろうと理解した。

 そう考えていると黒装束の中の一人が、ゆっくりと此方(こちら)に近づいて来る。
神薙の巫女は無意識に体を固くする。

 神薙の巫女の傍まで来ると、その者は恭しく(うやうやしく)神薙の巫女に挨拶をした。
 
 「私共は教会の情報部の者です。
最高司祭様から助左様の補佐を行うよう指示を受けておりました。」
 「え? 養父・・、いえ、最高司祭様から、ですか?」
 「はい。」
 「そう・・ですか。最高司祭様はご健勝でしょうか?」
 「はい。」
 「よかった・・。」

 「神薙の巫女様・・最高司祭様は貴方様を姫巫女(ひめみこ)に戻すために動いております。
もう少しのご辛抱を。」
 「ありがとう御座います。最高司祭様にあまり無理をなさらないようお伝え願えますか?」
 「分かりました、そのようにお伝えします。 他には?」
 「・・いえ、ありません。」

 「神薙の巫女様を拉致しようとした下手人は、残さず捕縛(ほばく)しました。
もう()の国の手の者はいないでしょう。
安心して下さい。」

 「感謝いたします。」

 黒装束の者は神薙の巫女の言葉に軽く(こうべ)()れた。
そして、助左の方を向く。

  「助左様、では、私共はこれで失礼します。」
  「ああ、ご苦労であったな。」
  「後日、最高司祭様からお呼び出しがあるかと思います。」
  「わかった。」
  「ではこれにて。」
  
  そういうと黒装束の男達は、小泉神官と捕らえた男達を引き立てて行く。
その様子を助左と神薙の巫女は見送る。

 彼らが見えなくなると、神薙の巫女は、そういえば、という顔をした。
そして助左に(たず)ねた。
  
  「あの、助左、ところでここは何処なのでしょうか?」
  「ああ、ここは教会のある村から12キロ程離れた場所です。」
  
  そう言って助左は、ハッとした。
  
  「そうであった! 神薙の巫女様は素足でしたね!」
  「え?!」

 神薙の巫女は助左の言葉に慌てて足下を見る。
素足であった。
それはそうであろう・・、寝所で寝ているところを拉致されたのだから。

 「あ、あの、どうすればいいでしょう? これでは歩いていけませぬ。」
 「困りましたな・・。」
 「・・。」
 「では、こうするしかないですね。」
 「え?!」
  
 助左は神薙の巫女をお姫様抱っこした。
  
 「ええ! す、助左、ちょ、ちょっと!!」
 「なんですか?」
 「お、降ろして下さい!」
 「では素足で歩きますか? 石や木が散乱し雪が所々に積もっている道を?」
 「え? あ、そ、それは・・・。」

 「私の履き物でよければお渡ししますが、大きさが合わないでしょう?」
 「は、はい、お借りしても歩けないかと・・。」
 「後はオンブでしょうか・・。」
 「え、あ、いや・・、それは(いや)です。」

 「そうですよね、子供みたいですし、私が巫女様のお尻を手で抱えるのは問題もありますね・・。
でも、これらが全てだめとなると帰れませんよ?」
 「そう・・ですね。」

 「ああ、そうだ! 私が教会まで行って履き物を取ってきましょう。」
 「嫌です!!」
 「え?」

 「一人でここに残るのは嫌です!」

 そう言って神薙の巫女は涙目になる。

 こんな場所に一人取り残されるのはいやだ。
目の前には、倒された黒装束の亡骸(なきがら)がある。
それにこの荒れた境内や、朽ち果てそうな神殿は見るに()えない。
こんな所に一人でいたくない。

 神薙の巫女は首をふるふると、何度も何度も振り続ける。

 「そうですか・・、では・・この状態で帰りますがよろしいかな?」
 「・・・はい、その、すみませんがよろしくお願いします。」

 「次回は(せがれ)にしてもらって下され。」
 「えっ!! そ、そ、それは・・・、あの、その・・。」
 「ははははははは、まあ、倅にそんな度胸があれば、ですが。」
  
 神薙の巫女は(うつむ)き、そして真っ赤になる。
助左は柔和な笑顔を向け、黙々(もくもく)と歩いていく。

 神薙の巫女の顔の火照りは暫くするとおさまった。
ふと空を見上げる。
すると満天の星が目に飛びこんできた。

 ああ、なんて綺麗な夜でしょう・・・。

 あまりの綺麗さに思わず感嘆の声を漏らしそうになる。
しばらく星に見蕩(みと)れるていると、なぜか祐紀(ゆうき)の顔が思い浮かんだ。

 会いたいな・・・。

 そう思った瞬間、また顔が赤くなり俯いた。

 助左は、腕の中で星を仰ぎ見て目をきらきらさせていたと思ったら、突然顔を赤くして俯いたりする神薙の巫女に困惑する。
  
 「どうなさいましたか?」
 「え! い、いえ!! な、何でもありません!」
 「そうですか?・・、ならいいのですが・・。」

 助左は神薙の巫女の様子が心配であったが、何でもないときっぱりと、そして何故か慌てながらも強く言われたので、それ以上は何も言えなかった。
  
 やがて二人のホノボノとした道中は教会に辿り着き終わる。
辿り着いた教会は、神薙の巫女がいない事に気がついたのであろう・・・
蜂の巣を(つつ)いたような騒ぎであった。

 助左は神薙の巫女を抱えたまま、教会にある住居の玄関へとユックリと歩を進める。
すると、そんな二人の姿を教会の下僕(げぼく)が見つけた。
  
 「か、神薙の巫女様だ!! 皆、神薙の巫女様だ!」

 その大声に、教会が一瞬静まった。
そして、教会の中や、教会の周りからワラワラと人が駆けだしてきた。

 駆けだしてきたなかの一人の巫女が、何故か神薙の巫女を抱えた助左を目を見開いてみる。
そして震える手で指差して、口をパクパクとさせた。
やがてその巫女は少し落ち着いたのであろう・・・
開口一番に怒鳴(どな)った。

 「す、助左! お前が神薙の巫女様を(さら)ったのか!」

 その一言に助左はポカンとした。
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