第111話 阿修羅・牛頭馬頭の説得と・・・

文字数 2,351文字

 阿修羅(あしゅら)牛頭馬頭(ごずめず)に負けを認めるよう説得を始めた。
その様子を帝釈天(たいしゃくてん)は見守る。

 だが、説得中に何故か阿修羅は口角(こうかく)を上げた。
説得しながら、何かを思いついたようだ。
阿修羅が口角を(わず)かにあげた時は、要注意だ。

 帝釈天は直ぐさま阿修羅に、精神干渉(かんしょう)で何を考えているか聞こうとした。
だが、思いとどまる。
下手に聞けば、阿修羅はここぞとばかりに俺をからかうだろう。
毒の件で怒っている彼奴(あいつ)に、これ以上火に油を注ぐような事はしたくない。
そう思ったからだ。

 やがて阿修羅は話しを終えたらしく、こちらに歩いてくる。
それもわざとらしくユックリと。

 帝釈天は()れて、阿修羅との精神干渉を試みた。
だが、阿修羅は話しに応じてこない。
此奴(あいつ)、絶対に俺に毒が効いているのを楽しんでやがるな。
そのため毒にどれだけ耐えられるか、あらかじめ聞いたにちがいない。
くそう、お仕置(しお)きのつもりか?

 一方、阿修羅はといえば帝釈天に精神干渉をされないように歩いていた。
精神干渉が出来る者ならば、相手からの精神干渉を拒否できる。
普通の会話でいうと耳を塞い状態だ。

 そもそも阿修羅は帝釈天の所まで歩く必要はない。
牛頭馬頭と普通の会話をし、帝釈天と精神干渉で話しをすればよいだけだ。
なのに牛頭馬頭と帝釈天の間を歩いては伝えるメッセンジャ-役をしているのだ。

 つまりメッセンジャー役になる事で、余計な時間をあえて作っていたのだ。
帝釈天が毒で苦しむ時間を長くして()らしめるために。
これで、二度と毒など飲みたくないと思えるようにだ。

 阿修羅は、心の中で帝釈天に悪態を吐く。

 あのバカには反省が必要だ。
奪衣婆(だつえば)様が、どれだけお前の事を心配していたことか。
お前が勝手に人間界に行った時、奪衣婆様がどれだけ心配した事か。
そういう事を知らんから、お前は今回のような事をするのだ。

 (いち)解脱(げだつ)の件でお前をサポートにつけた時もそうだ。
奪衣婆様は、お前から片時も目を離してはいない。
そんな奪衣婆様のお心をお前は知らんだろうな。
本当に色々と奪衣婆様に心配をかけやがる。

 よりによって今回は毒を自分から飲む始末だ。
バカの(かがみ)だ、お前は。
奪衣婆様がそれを知れば、どういう思いをするか考えやがれ!

 本当は、あまり奪衣婆様に心配をかけさせたくない。
だが、今回はあえて報告する。
今回のような事を二度とさせないようにするために。
心配している人がいることを知るべきだ。
バカ帝釈天よ。

 阿修羅がそう考えているうちに、帝釈天の側に着いていた。
阿修羅が側にくると直ぐに、帝釈天は抗議をする。

 『おい、ユックリ歩き過ぎじゃないか?
 それに、わざわざ此処(ここ)に来て話す必要があるのか?
 あの場から精神干渉で話せばいいだろうが!』

 『へ~、俺のやることが気に入らないんだ。
 じゃあ、俺が彼奴らの説得をするのも気に入らないんだよな。』

 『あ、いや、待て!
 お前がいなければ、話しが長引くか収拾(しゅうしゅう)がつかなくなる。
 そうなれば、俺は彼奴等(あいつら)を半殺しか、殺しかけてしまう。
 悪かった、機嫌(きげん)をなおせ!』

 『・・・まあ、良かろう。
 ああ、そうだ、お前、俺に何か(おご)れよな。』

 『へ?』
 『お前の居場所が分からず閻魔(えんま)大王様の所に行ったんだぞ。』
 『・・・そういうことか。』

 『で、驕るのか、驕らないのか?』
 『分かった、驕る、ただし1回だけだぞ!』
 『ちっ!』
 『何が、ちっ! だ。』
 『まあ、仕方ないか、手を打とう。』

 『それで、彼奴等(あいつら)は?』
 『ああ、そうだった。
 引き分けにしろだとさ。』

 『引き分けだ~!!!
 この状態でか?』

 帝釈天は、まさかの要求に唖然とした。
しかし、少し考えたあと・・。

 『分かった。』
 『え? 引き分けにするのか!』
 『ああ、そうだ。
 今の俺は毒で体の制御がうまくいかない。
 手加減がうまくできないからな。』

 『つまり、殺したくないからか?』
 『そういうことだ。
 だが、組織は潰すと言って説得、いや通告してくれ。』
 『はぁ~・・・、まあ、よかろう。』

 そういって阿修羅は再び牛頭馬頭(ごずめず)の所に行く。
それもユックリと。

 帝釈天は思う。

 阿修羅の野郎、またユックリと歩くか・・。
まあ、いいだろう、甘んじて受けよう。
だが、それにしても、と思う。
母と閻魔大王様から頼まれて安易に引き受けたのはいいが・・。
めんど臭いな~・・・、この仕事。
やめようかな~・・。
・・・。
まあ、今更そいう訳にはいかないか。

 そう思い溜息を吐こうとした。
だが、毒により溜息はつけない。
吐こうとしたことで、かえって苦しさを感じた。
それにより、帝釈天は徐々に確実に毒が回っているのを感じた。
そして、すこし眉間(みけん)(しわ)がよる。

 やがて阿修羅が牛頭馬頭に伝言を伝え終えて戻って来た。

 『伝えてきたぞ、帰るぞ。』
 『ああ、分かった。』

 『じゃあ、肩を貸そう。』
 『いや、自分で次元転送はできる。』
 『止めとけ! 毒がより早く回るぞ!
 やせ我慢はするな。
 それに俺の気持ちもすんだ。』
 『そうか・・。じゃあ、頼む。』
 『よし、行くぞ。』
 
帝釈天と阿修羅は自分達の次元に転移した。
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