第23話 都に行ってみるか・・、岩場を覗き見する。

文字数 1,387文字

 祐紀はマタギの後を追いながら、かなり山奥に入った。
そして、やはりマタギではないと確信した。

 マタギ姿の男は、地面を見て歩いていない。
獲物を見つけるには、足跡を見落とさないように地面を見るだろう。
それと、草に踏まれた後がないかとか、枝が折れていないか、または熊などが木にテリトリー表示をしていないかなど、注意深く歩いていくはずだ。
その様子が一切ない。

 どうやら、山の中腹にある岩場をめざしているようだ。
たしか、このあたりは国との境界が近い。
そして、材木に適した木も、薬草もない雑木林と、岩場の場所だった。
さらに、隣国からここに来るには、難所続きで他国からの侵入はないと思われる場所だ。

 なんで、このような場所に?・・・。
 
 そう思い、マタギが(かろ)うじて見える程、距離を空けながら様子をみていた。
すると、岩場からマタギの姿が消えた。
一瞬焦って駆け抜けそうになるのをこらえた。

 そうだ・・、鎮守の森にも岩場に洞窟がある。
入り口は人が通れるくらいでも、中が広い洞窟が・・。
おそらく、ここもそうに違いない。
だから、突然、見えなくなるのだろう。

 しばらくジッとして見ていると、時間をおいてから先ほどのマタギが少しだけ頭を覗かせ、周りを確認する。
危なかった・・。
あのまま不安に駆られて走っていれば、見つかっただろう。

 ドキドキする心臓の音を聞きながら、林の影からマタギのいる岩場を監視する。

 すると一人、二人と岩場から人が現れる。
全てマタギ姿だ。
いや、その後に出てきたのは行商人の姿をしている。
行商人は祐紀が来た峠道に向かい歩き始めた。
幸いにも祐紀が隠れている場所から外れたルートで向う。

 岩場をさらに監視すると、さらに一人、岩場から出てきた。
着ているものは比較的上等なものだ。
雰囲気からして商家ではなさそうだ。
たぶん、庄屋ではないだろうか・・。

 その男は手にハトを持っていた。
そのハトを離した。
ハトが飛び立った方向は・・・。

 !

 そう、陰の国と敵対している隣国・()の国だ。
なんか焦臭い(きなくさい)な・・。

 やがて庄屋らしき者は、祐紀が来た峠道へ、先ほどの行商人と同じルートで歩き始めた。
外に出ていた数人は、庄屋が見えなくなるまで周りを警戒していた。
庄屋の姿が見えなくなると、また岩場から消えた。

 祐紀は暫く岩場を監視した。
すると、岩場からまた頭を出し、庄屋の向った方向を確認している。
用心深いものだ。
追跡者がいないかの確認だろう。
祐紀がもし庄屋を追っていたら見つかったことだろう。

 しばらくしたらマタギは岩場から消えた。
祐紀は、庄屋が誰か確認しようと決めた。

 祐紀は馬できている。
幸いにこの峠道は人通りがすくない。
おそらく庄屋は籠ではきていないだろうし、庄屋が馬に乗るとは思えない。
しかも、旅人姿でない庄屋の恰好をした者は、この峠道では珍しいだろう。
峠道を馬で行けば、庄屋との接触はほぼ確実にできるはずだ。

 祐紀は慎重に岩場から見えないように道を選んで峠道を戻り始めた。
どうせ、彼らはマタギではない。
祐紀が山道を歩いた痕跡は、枝などを折らない限りはみつからないだろう。
そう思い、はやる心を宥め、馬を留めた場所を目指した。
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