第171話 それぞれの思い・庄助 その2

文字数 2,488文字

 庄助(しょうすけ)行商人(ぎょうしょうにん)に扮して神薙(かんなぎ)巫女(みこ)のいる村に入った。

 そして隠れて教会を遠くから監視する。
助左(すけざ)がどのような者か、直接離す前に遠くから(うかが)ってみたかったのだ。
庄助がしばらく監視していいると、教会から神父見習いが出て来た。

 「あいつが助左か・・。」

 庭を掃く助左に、(たま)に教会を訪れた村人が話しかける。
その様子をしばらく見てあきれた。

 「なんという田舎者なんだ、彼奴(あいつ)は・・・。
それに武芸者の所作(しょさ)微塵(みじん)もない。
隠しているとも思えん。
なぜ俺があんな者の言うことを聞かなくてはならない!」

 庄助は、途惑った。
とりあえず助左と話すことにした。
話すなら二人きりの方がよいだろうと機会をうかがう。
やがて助左の(そば)から村人が居なくなり、助左一人となり掃除を始めた。

 庄助は遠回りをして、あたかも今教会を見つけて来た振りをして話しかけた。

 「おはよう!」
 「あんた、誰だべ?」
 「俺かい、俺は庄助っていって行商をやっていんだ。」
 「ああ、行商ねぇ、ご苦労なこった。」

 そういうと助左は(うつむ)き加減になり、(ほうき)をまた動かし始めた。
だが、その体勢で突然(ささや)くような小さな声で庄助に言い放った。

 「俺はお前が武芸者に見えるのだが。」
 「何!」
 「声を落とせ。そして景色でも眺めているかの振りをしろ。
何時、誰がこれをみているかわからぬぞ。」

 助左にそう小声で庄助は叱咤(しった)された。
庄助は青空を仰ぎ、そして周りを見回す。
いかにも行商で来て教会の前で一息吐いたかのように見せる。

 助左は掃除を続けながら、庄助を見ないまま話しかける。

 「お前は最高司祭から(つか)わされた者か?」
 「最高司祭様を様付けで呼ばないとは不敬であろう!!」

 「俺は部下ではない。様をつけようがどうでもよかろう。」
 「なんだと!」
 「喧嘩越し(けんかごし)になるのはいいが、お前は俺と喧嘩をしにきたのか?」
 「い、いや・・そうではない・・。」

 「では、何と言われて来たのだ?」
 「お前の指示に従えと・・。」
 「なら、そうしろ。 お前が本当に最高司祭の部下ならばな。」
 「うぐっ!」

 「不服か?」
 「い、いや・・・従おう。」
 「それでいい。」

 庄助は、助左が不気味であった。
自分を挨拶をする短時間で武芸者だと見破ったのだ。
今までこんなに簡単にバレたことなど無かったというのに。

 さらに最高司祭様から遣わされた者だと直ぐに気がついたのだ。
いったいなぜそう思ったのだろう・・。
聞いてみたいが、長話しをするわけにはいかない。

 それにしても、村人と話していた時は違和感のない田舎言葉だった。
それが、今はまったく違う話方(はなしかた)だ。

 それに洞察力といい、頭の回転の速さといい普通ではない。
さらにいうなら中年だというのに、この覇気(はき)と研ぎ澄まされた様子は何なのだ?
こんなに近づかなければ分からない、この雰囲気は・・。

 これほど自分を隠蔽(いんぺい)する者など見たことはない。
庄助は驚きのあまり押し黙り、助左を見る。

 「どうした? まだ(わし)に何か言いたいことでもあるのか?」
 「い、いや・・、そうだ、俺はこれからどうすればいい?」

 「ふむ・・、お前に指図する前に聞きたいことがある。」
 「何だ?」
 「お前は先ほど儂を監視していたであろう?」
 「?!・・、気がついていたのか・・。」
 「気がつかないわけがなかろう。」

 庄助はそれを聞いて背筋が寒くなった。
庄助は気配を消すことは情報部でも一番だという自負がある。
実際、今まで観察対象に気がつかれた事はないのだ。
なのにあの短い時間観察した気配をこの男は感づいていたのだ。

 驚愕(きょうがく)していると助左は庄助に確認をしてきた。

 「お前は、儂を監視する前に回りに注意を払ったか?」
 「ああ、それがどうした?」
 「何か気がついたか?」
 「この教会の周りには怪しい者はいなかったぞ。」
 「ふむ、合格だ。」
 「合格?」

 「では、検問所はどうであった?」
 「そうであった、助左、検問所は監視されているぞ。」
 「それに気がつけば上々だ。」
 「知っていたのか!?」

 「驚くほどのことではあるまい。」
 「・・・。」

 「今日はこの教会の周りに監視者はおらん。
だが、数日前に監視者が初めて現れた。
明日にでも、この教会も常時監視されるようになるだろう。」

 「・・・。」
 「お前はこの後どうするのだ?」
 「行商として来たので今日明日は、この村で商いをする。」
 「その後は?」
 「それ以上は此処に居ると怪しまれるだろうから一度村を出る。」
 「うむ、それが妥当だろうな・・。」

 「どうする? もし俺がいる間に監視者が来たなら始末するか?」
 「いや、泳がせておけ。」
 「ならば、監視者を監視し、其奴等(そやつら)の後を付けてアジトを見つけるか?」
 「それもやめておけ。」
 「何故だ?」

 「もし、お前の気配が相手にバレたらやっかいだ。」
 「!・・、俺が失敗するとでも?」

 「もし、失敗したらやっと見せた神薙(かんなぎ)巫女(みこ)を狙う奴等(やつら)の尻尾が消えるぞ?
そうなると誰かが四六時中、神薙(かんなぎ)の巫女の護衛をしなければならぬ。
儂とてそうここにはおれん、そんな暇人ではない。
お前の部署でそれができるなら、そうすればよい。
お前を寄越すように要請したのは、近日中に神薙の巫女の拉致が起こるという確証を得たからだ。
この確証がなければ、最高司祭もお前等をここに寄越さないのではないのか?」

 その言葉に庄助は黙った。
いつ来るか分からぬ曲者に備え四六時中、神薙の巫女を護衛できない。
今は最高司祭の極秘依頼で、空いた時間をうまく利用して助左に協力しているに過ぎないのだ。
助左の言うことはもっともな言い分である。

 「俺はどうすればよい?」
 「行商を終え村を出たら、部下を引き連れて夜間、賊が来ないか監視しろ。
おそらく数日以内に神薙の巫女を深夜拉致(らち)に来るだろう。」

 「分かった、どこで監視すればよい?」
 「この村の検問の先に二股の道があるだろう?」
 「ああ、あの場所か・・。」

 「賊は深夜、神薙の巫女を拉致しにその二股の道の何れかからくる。」
 「待ち伏せして始末すればいいのだな?」
 「違う。」
 「?」

 「神薙の巫女には(さら)われてもらう。」

 その言葉に庄助は目を見開いた。
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