第153話 忍び寄る影・・・ その1
文字数 2,144文字
小泉神官が視界から消え、神薙の巫女は深いため息を吐く。
今回の小泉神官の訪問により、神薙の巫女は自分の弱さを思い知らされた。
中央にいるときに小泉神官から濡れ衣を着せられた時は、養父、そして祐紀に
そのため小泉神官が怖いとか、不気味などと思う余裕など無かったのだ。
結果としてこの辺鄙な教会に幽閉されることとなった。
ここに来て神薙の巫女は平静を取り戻した。
長閑なこの田舎にゆったりと流れる時間と、澄んだ空気が心の武装を解除したのだ。
そんな矢先、
心が無防備となっていたため、小泉神官に恐怖を
・・・いや、そうでは無い。
私は元々弱かったのだ。
その弱い心を、小泉神官は容赦なく切り刻んできた。
その痛手は深く私の心に根付いてしまった。
自分ではそのことに気がつかなかっただけだ。
もしこの教会に頼る人がおらず私一人ならば、小泉神官に良いように
だが私は一人ではなかった。
一つには教会の神父様が養父様を尊敬している方で私に気遣ってくれたこと。
そして養父様が手を差し伸べて下さった事だ。
それは祐紀様の養父・・、いや助左を私の護衛として下さったのだ。
助左が養父様のかわりに私を小泉神官から守ってくれた。
そればかりではない。
私の心は、あの方の言葉で救われたのだ。
とはいえ小泉神官への恐怖が無くなったわけではない。
けれど小泉神官とまた会ったとしても、今回のような事にはならないだろう。
神薙の巫女は空を仰ぎ見た。
雲一つない青空だ。
冬の冷え切った大地に映える青さだ。
それを見て何故か
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小泉神官が去り1週間ほど過ぎた頃、巡礼者が教会を訪れた。
巡礼者が訪れるのは差ほど珍しい事ではない。
だが、この冬場に訪れるのは
教会の庭を掃除しているときに、その巡礼者は教会に辿り着き神薙の巫女に声をかけてきた。
若い女性である。
「もし、すみませんが礼拝と神父様へのお目通りをお願いしたいのですが・・。」
「分かりました、礼拝を先にしますか?」
「そうですねぇ・・、では神父様にお会いしてから礼拝をします。」
「分かりました、では、ご案内します。」
「ありがとうございます。」
神薙の巫女はその巡礼者を神父の執務室へと案内をした。
廊下を歩いていると
そして神薙の巫女を見るやいなや訴える。
「巫女さま~ぁ!」
「どうしました助左?」
「神父様が怖えんです! なんとかしてくんねぇずらか!!」
「あの・・、今はこの巡礼の方を案内しております。後程お聞きしますね。」
「ええ~、後でってぇ? 後って何時頃にぃ・・あ!」
助左の言葉は突然途切れた。
「?・・、助左?」
助左は呆けた顔をして押し黙る。
「助左? どうしました?」
「はぃや~、こりゃ、べっぴんさんずら!!」
「え?!」
助左は神薙の巫女の後ろにいた巡礼の女性を見て
かと思ったら神薙の巫女の横を突然通り過ぎ、突然に巡礼の女性の手を握る。
「きゃっ!」
「おめえ様、べっぴんずら!!」
「へ?」
巡礼の女性は驚き、突然握られた手をふりほどこうとする。
だが助左は手を固く握って離そうとしない。
神薙の巫女は挨拶もせず突然手を握る無礼な助左に唖然とした。
「こ、これ! 助左!」
「巫女さま、この人、ええなぁ!!」
「助左! 無礼ですよ!」
「へ? べっぴんて言うたら無礼になるずらか?」
「え?! そ、そんな事を言っているのではありません!」
神薙の巫女は助左のトンチンカンな応答に困惑した。
だが、助左はまったく意に介していない。
「おめぇさま、ここに滞在するだか?」
「え?! あ、えぇ、数日そうしようかと・・。」
「そりゃええ!! おら助左だ、お前様は誰だべ?」
「え、わ、わたし? わ、私は
思わず巡礼の女性は自分の名前を言ってしまったようだ。
神薙の巫女は、助左の様子に違和感を感じる。
「助左?」
神薙の巫女は助左に声をかける。
どういう理由で巡礼の女性にこれほど興味をしめすのか聞こうとしたのだ。
だが・・。
助左は神薙の巫女の呼びかけにちょっとだけ神薙の巫女の方を振り向いた。
だが直ぐにまた巡礼の女性の方を向いた。
そして・・
「お鶴さんよぉ!!」
「は、はぃ?」
「旦那、おるずらか?」
「え?」
「だから、旦那がおるか聞いてるずら!」
「・・い、いません・・。」
「なら、おらはどうだ!!」
「えっ?・・・。」
「これ助左!! 止めなさい!」
「巫女様、じゃませんでくれ!! 一生の一大事だ!」
神薙の巫女はあきれた。
どうしたというの、助左?
本当にこの巡礼の女性に一目惚れ?
?・・・
いや、そんな事は考えられない。
だって巡礼の女性へ話しかけている言葉使いが可笑しい。
本当に口説くなら自分の素の言葉を使うだろう。
何か理由があり口説いているに違いない。
そうに違いないのだけど・・。
それにしてもなんて自然に田舎言葉で口説いているの?
いや、そこに感心している場合ではない。
どうしたらいいの、私?