第114話 牛頭馬頭とは?・・ 3

文字数 3,054文字

 阿修羅(あしゅら)は注がれた酒を一口飲む。
そして(おもむろ)に話し始めた。

 「帝釈天(たいしゃくてん)牛頭馬頭(ごずめず)の事だ。」
 「ああ、何か分かったのか?」

 「部下から報告が上がってきた。
 牛頭馬頭が地獄界に送られた来た時の書類が偽造されていた。」

 「偽造?」
 「ああ、彼奴(やつ)らは人間界にいたことになっていた。
 そして閻魔(えんま)大王が裁いて地獄に送っている。」

 「書類のサインは?」
 「閻魔大王の本物のサインだ。」

 「で、何が偽造されていたんだ?」
 「魂の鑑定書だ。」

 魂の鑑定書、それは・・。
字の如く魂に刻まれた情報が記された鑑定書だ。
魂には固有の指紋のようなものがある。
例えば、その一つに生きていた時の次元情報がある。
生きた次元が特定できる情報だ。

 なぜ魂の鑑定書があるのか。
それは、この世界が多次元で構成されているからだ。
閻魔大王が裁くにあたり、どの次元で生きてきたかは重要なのだ。

 神界、地獄界は特殊な次元とされる。
それ以外の多岐に渡る次元は一般的な次元だ。
当然、次元毎に生き物の生態系があり、文化がある。
そして各次元に宇宙が存在し惑星が存在する。
惑星毎に多様な生物、文化が存在するのは言うまでも無い。

 生をうけた魂は、その次元のエネルギーが魂にきざまれる。
輪廻転生は特殊な事情が無い限りは同一次元で行われる。
よって魂は通常、一つの波長が刻まれるだけだ。
だが例外もある。
一つの次元以外に転生するケースが希にあるのだ。
その場合、生きた次元の数だけ魂に刻まれる。

 魂の鑑定書は地獄に送られた時に使用される。
地獄界に入る段階で、魂の鑑定書と魂の照合に利用されるのだ。
一致しなければ、調査が入ることになる。
それほど魂の鑑定書は重要であり厳正さが求められる。
そのため魂の鑑定書を偽造するなど普通はありえないのだ。
さらにいうならば、偽造された魂の鑑定書で地獄界に入れた牛頭馬頭が異常なのだ。

 情報部は牛頭馬頭の魂を極秘に鑑定したのだろう。
そして魂の鑑定書と照らし合わせた。
普通、地獄界の住人の魂など、地獄に送られた後に再び鑑定される事は無い。
神から見放された魂など、地獄に入れられた後は野放しにされるのだ。

 だが今回は阿修羅が調査を命じたため特例的な措置で見つけたのだろう。
優秀な部下を持ったものだと帝釈天は思った。

 帝釈天は阿修羅に確認をする。

 「つまり牛頭馬頭は人間界の次元の者ではない、と。」
 「そういうことだ。」
 「まあ、そうだろうな・・。」
 「ああ、人間が神力など使えるはずもないしな。」

 「・・・気がついていたのか?」
 「ふん、気がつかない方がおかしいだろう?
 お前の蹴りがかすっただけとはいえ生きてんだ。」
 「ああ・・なるほどな。」

 「で、お前が俺に報告したいという内容はなんだ?」
 「ああ、まあ重複するかな・・。」
 「言って見ろ。」
 「まず、神力を使えることだ。」
 「ああ、それはいい。」
 「いや、そうでもないんだ。」
 「?」

 阿修羅は帝釈天が何を言いたいのかわからず困惑する。
帝釈天は報告を続ける。

 「彼奴(やつ)らは神力を知らなかった。」
 「?!・・。」
 「知らずに無意識で使っているんだ。
 神力を殺気だと言ってな。」

 「意味がわからん。」

 「例えばだ、奴等が絶対絶命の状況の時だ。
 馬頭は生きたいがために強烈な殺気を放ったそうだ。
 すると殺気で敵がひるんで隙ができ、幸運を得たと言っている。
 神力の行使で助かったのを、殺気による幸運だと思っている節がある。」
 「ふむ・・・。」

 「神力を使えることから神の系列であることは間違いない。
 だが、神力を覚える前に地獄界に送られたことになる。
 あるいは神力の知識を消去されたかだ。」
 「・・・。」

 「さらに彼奴らは幼児、おそらく5歳から8歳の年齢で地獄に来たらしい。」
 「何だと!」

 「彼奴らから直接聞いたので、本当なのだろう。」
 「地獄界は魂の形成が確定した者しか送られないはずだ。
 その歳では地獄に来ることは無く、転生させられるはずだ。」

 「俺もそう認識している。
 それに、さらに何か可笑しな事に気がつかないか?」
 「?」

 「地獄界で幼児が生き残れるとお前は思うのか?」
 「・・・なるほど、確かにな。
 生き残るなど不可能だ。」

 「ああ、成人した人間でもペットか奴隷にされ長生きはできん世界だ。
 神の系列とはいえ幼児で神力を知らなかったのだ。
 すぐに殺され魂は無に帰すのが普通だろう。」

 「それにしてもよく生き残れたな。」
 「そこなんだ。」
 「?」

 「自分達で食べ物を得られる知識や体力が付くまで(ほどこ)しを受けていたようだ。」
 「施しだと?!
 地獄で施しなど行う者がいるというのか!」

 「まあ聞け・・、さらにだ・・。
 施しをする者があるときいなくなったそうだ。
 すると、直ぐに別の者が現れ施しをしてくれたそうだ。」

 「・・・・。」

 「そしてなんとか自活ができるようになると、施しをする者がいなくなった。」
 「まるで地獄界で生き残れるように見守っていたとでも?」
 「そう考えるのが妥当だと思わんか?」
 「・・・。」

 「これらの情報はすべて本人から聞いたのだ。
 間違いはないだろう。」
 「だとすると・・、厄介だな。」

 「ああ、確かにな。」
 「神の系列であること。
 地獄界に極秘に送られたこと。
 生きるすべができるまで見守られたこと。
 導かれるのは・・。
 神の国では生きられない者だな。
 だか生きていて欲しい子・・か。」

 「たぶん、そうだろうな。
 神界では、表だって話してはならない存在なのだろう。
 あるいは一部の人間だけが知っている秘密事項なのかもしれぬ。
 そして閻魔大王と母が知っている。
 そうなると高位の神に纏わる事項かもしれぬ。」
 「うむ・・。」

 「さて、どうしたものかな。」
 「俺達の手に負えると思うか?」
 「彼奴らの素性など、探らなければいい。
 俺達は何も知らない。
 牛頭馬頭らの組織のいざこざを偶々、俺が見つけたんだ。
 地獄観光をしてな。
 どうだ?
 これなら、なんとかなるだろう?」
 「そうだな、そういうことで進めよう。」
 「俺達は、極秘に次元転送を諦めさせるだけだ」
 「・・・うむ。」

 「情報部の奴等は秘密にできるのか?」
 「ああ、俺の腹心だ。
 その点は心配しなくてよい。」
 「悪いな・・。」
 「ふん、今さら何をいってやがる。」

 その言葉に帝釈天は肩を(すく)める。
阿修羅はソッポを向いた。

 そして二人は互いに押し黙り、ゆっくりと杯を傾けた。
なんどか杯を空けては酒を注いだ時、帝釈天がボソリと呟く。

 「なあ、お前さ、母へ毒の事を言う事は無かったんじゃないか?」
 「それをまだ言うか?
 奪衣婆様に、全部バラしてもいいんだぞ?」
 
 「え!」

 「あんな事や、こんな事、選り取り見取りだ。」
 「ま、待て!
 悪かった、俺が悪かった。
 お灸をすえてくれて、感謝だ! 感謝!」

 それを聞いて阿修羅はフン!と、鼻で笑った。
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