第172話 それぞれの思い・庄助 その3

文字数 2,468文字

 助左(すけざ)からの、神薙(かんなぎ)巫女(みこ)には(さら)われてもらうという言葉に庄助(しょうすけ)は驚いた。

 「なぜだ? なぜ攫われる必要がある?」

 「一つには拉致(らち)に携わっている人数が分からんからだ。
拉致の実行犯だけが賊の全員とは限らんだろう?
賊は一網打尽にしたいからな。
そうでなけば今回失敗してもまた同じことを画策する。
だから神薙の巫女が拉致され連れ去られる先を確認してから始末する。」

 「待て! それでは神薙の巫女に危険がおよぶのではないか!」

 「彼奴(やつら)らが欲しいのは神薙の巫女の御神託(ごしんたく)能力だ。
そんな巫女に危害など加えん。」

 「・・・・う・・む、確かに・・。」

 「それにだ・・、今回の拉致(らち)画策(かくさく)している奴等は異常に用心深い。
そのような(やから)は、神薙の巫女の拉致が成功してから協力者へ報酬を払うだろう。
そのため拉致をして、何処かで落ち合うであろうよ。
これは好機だ。
その時に、一網打尽にできる。
もし拉致に来たものだけ捕まえても、残った賊や協力者により神薙の巫女はまた狙われることになる。」

 「・・・。」

 「分かったなら、深夜に怪しい連中がきても気付かれないように身を(ひそめ)めていてくれ。」
 「わかった。」

 「それから拉致して賊が戻る時にお前等の横を通り過ぎる。
それから遅れて儂が続くことになる。
その時、お前らの近くで儂はフクロウの鳴き真似で、儂が来たことを知らせよう。
お前達は同じくフクロウの鳴き声を返し、儂と合流してくれ。」

 「了解した。」

 「ところでお前の部下にクナイなどの投げ物に対処できる者はおるか?」
 「ああ、おるが?・・。」
 「ならば、神薙の巫女の拉致にその使い手がいるので、対峙した時は任せたい。」

 「なぜそのような者が居るとわかるのだ?」
 「其奴(そやつ)が教会に潜り込んでいるからだ。
おそらく賊らが忍び込むときに手はずをし、拉致後は一緒に行動をするであろうよ。」
 「・・・了解した。」

 そこまで話し終えると助左は箒で掃く振りをやめ、庄助の方を向いた。
そして大きな声で庄助に話しかける。

 「おい、お前様、行商(ぎょうしょう)にきたっちゅうに、こんなとこでサポってていいずらかね?」
 「え?!」

 突然の助左の問いかけに、一瞬、庄助は呆気にとられた。

 「オラでも仕事をしとるっちゅうのに、いいご身分だべ。」
 「な、何を言う! 行商は大変だから休憩しているだけだ!」
 「あんなぁ、大変て言うたら神父になる方がえっれぇ、てぇへんずら!!」
 「な、なんだと! 行商という仕事を()()()()よ!」

 「あん? あんた飴も売ってんだか?」
 「へ?」
 「()める飴っちゅうたら、棒付きずら?」
 「はぁ? いったい何を言っている?」
 「あの飴はよい、うんうん、オラの好物ずら。」
 「? 好物だから何だというんだ?」

 「(そで)触れ合うなかも何とかって神父様がいっていただ。だから一本おらによこせや。」
 「ば、ばかいうんじゃねぇ、商売品をただでやるわけがないだろう!」
 「そんなケチくせぇこといったら、天罰が下るずら!」

 助左と庄助が大声で叫ぶものだから、教会から神父と神薙(かんなぎ)の巫女が何事かと出て来た。

 「どうしました、助左?」

 神父の問いかけに助左は真面目な顔をして言う。

 「それが神父様、酷いんですよ、この行商人!」

 助左のこの言葉に、庄助は怒り出した。

 「な! なんで俺が酷いんだ!」
 「だってぇ、おらに御喜捨(ごきしゃ)をしねぇんだからよぉ。」
 「へ? 御喜捨?」
 「そんだ、飴ぐれぇ御喜捨しても罰は当たんねえだべ?」

 「これ、助左、御喜捨に飴なんかありませんよ?」

 神薙の巫女は(あき)れた顔をし、助左に注意をした。

 「巫女さまぁ、そりゃ~ねぇずら、おら、甘いもん、すきだぁ。」
 「はぁ~・・・、助左、お前はまだ神父見習いですよ?」

 今度は神父があきれて助左を(たしな)める。

 「え、そりゃぁオラぁ神父見習いだぁ。 だって神父様がまだオラを神父にさせてくんねえだからだぁ。」
 「あのね助左、御喜捨は教会にされるもので、それを受け取るのは神父なんだよ。
神父見習いが御喜捨をねだったり、受け取ったりできるものではないのだよ。
それに、そもそも御喜捨はおねだりをするものではないんだが・・・。」

 「そうなんか? しちゃいけねぇって神様がいっているだか?」
 「いや、神様は言ってはいませんよ。」
 「神様が言ってないならいいべ?」

 「助左・・、貴方の欲しい物をねだる、それは御喜捨ではありませんよ。
自分の欲しい物を誰彼とねだるのは物乞(ものご)いのする事ですよ?」

 神薙の巫女その言葉に助左はキョトンとし、そしてアワアワとした。

 「お、おらぁ、物乞いではねえぞ!!」
 「なら、御喜捨とか言ってねだるのは止めなさい。」
 「え?! でも、飴・・・。」
 「神父になるのを止め、物乞いになりますか?」
 「そ、そ、そんな! わ、分かった、分かっただよ!」

 神父はその様子を見て深い溜息をつく。
そして庄助に向き直り謝罪をした。

 「この者はちと頭が弱いゆえ、許してやってはくれないか?」
 「え? あ、いえ・・別に許すもなにも。それより私はこれで失礼します。」
 「そうですか・・、貴方に神からの祝福がありますように。」

 神父からのその言葉を、庄助は胸に手を当て受け取る。
そして庄助は踵を返すと、村の中心へと向かい立ち去っていく。

 助左はそんな庄助の後ろ姿に、手を差し伸べたあと名残惜しそうに下げた。
そして、溜息を一つ吐いて・・

 「あ~ぁ、オラの飴がいっちまっただ。」
 「助左・・・。」

 神薙の巫女がなんとも言えない顔をし、助左に何か言おうとしてやめた。
助左はというと、神薙の巫女から顔を背けた。
ソッポを向いたのだ。
そして下を向いて再び掃除を始めた。

 神父と神薙の巫女は互いに顔を見合わせ苦笑いをする。
そして礼拝堂へと二人して入っていった。

 ---

 庄助は教会から離れて、村の中を歩いていた。

 「さて、持ってきた商品は完売させるか・・。」

 そう言って、庄助は左手を口に当てる。

 「小物はいらんかねぇ、(くし)(かんざし)~ぃ、腹痛の丸薬(がんやく)もあるよぉ!」

 そう節をつけ歌うように叫びながら、村の中を歩いた。
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