第36話 養父からの謎の質問

文字数 1,864文字

 しばらく考えこんだ養父は突然、妙な質問をし始めた。

 「其方から見て、祐紀殿はどのような男だ?」
 「突然、なぜそのような質問をされるのですか?」
 「まあ、よいから答えよ。」
 「・・・。」

 養父の突然の脈絡のない質問に姫御子は戸惑った。

 しかし、養父様が無意味な質問をするとは思えない。
しばらく考えてから、祐紀様に感じた事を述べた。

 「有能な霊能力者であり、信頼できる(かた)かと・・。」
 「ふむ・・、御神託を受けるのであれば納得できる感想だな。」
 「はい。」
 「他には?」
 「洞察力と行動力、決断力に()けてもいるかと・・。」
 「なぜ、そう思う?」
 「話し方、御神託に対する様子からです・・。」
 「そうか・・、他には何か感じたか?」
 「そうですね・・、人となりの把握がすぐれているように思えます。」
 「ふむ・・、なるほどな。」

 「あの、姫御子としての私の意見など何故お聞きになるのですか?」
 「気になるのか?」
 「え、ええ・・。」

 「其方の話した祐紀の人となりなのだが、情報部の調査と一致しておる。
要するにお前の人を見る目が、情報部が必死に調べた内容と同じということだ。
このことから祐紀殿は信頼できる者であろう。
そして、其方が他国で文化の違う人であっても、人を見抜けたということだ。
其方の有能さも証明できたということになる。
ただ、情報部では(まつりごと)を行える人材であるともあった・・。
いずれにせよ、お前の目は確かということだ。」

 「あの・・・、祐紀様は政が行える人材・・ですか?。」
 「そうだ・・、いや、その発言については、今は忘れなさい。」
 「え?・・、あ、はい・・。」

 養父様はちょっと余計なことを言ったという素振りをみせた。
しかし、すぐに何事もなかったかのように再び話し始めた。

 「それでは女子(おなご)から見た男性としてはどうだ?」
 「え?!」
 「考えを述べてみよ。」
 「それは・・、どうしてですか?」
 「其方の個人的な意見を聞きたいのだ。」
 「えっと・・、あの、確かに私は女ですから、女子から見たとなりますが?・・。」

 なぜ、そのようなことを聞いてきたのだろうか?
養父様は何を考えているか分からないけれど、答えるしかない。

 姫御子としてではなく、私個人の意見か・・。
さて、私個人の意見となると・・。
祐紀様の雰囲気、または滲みでる性格をどう捕らえているか言えばいいのだろうか?
すこし考える。
考えてみるが・・
どう答えればいいのだろうか・・。
感じたままを話してみよう。

 「祐紀様は・・、温厚で、物事に動じず、柳みたいに柔軟な考えかたをします。」
 「うむ。」
 「実直で、責任感があるのに、何かと惚け(とぼけ)本心を隠します。」
 「惚ける?・・・。」
 「ええ、でも裏表は無い性格かと。」
 「他には?」
 「なにかしら信念があり、信念を通す意思は(いわお)のような人かと。」

 養父が独り言を呟いた。
 「そうか・・、なるほどな・・。」
 「え?」
 「あ、いや、なんでもない。」
 「?」

 養父が小声で呟いたため、よく聞こえなかった。

 「祐紀殿は、女子(おなご)から見ると魅力的な男性か?」

 ?
なんでそんな質問をするのだろうか?
真意がつかめず困惑する。
そんな私をみて養父は苦笑いをした。
しかし、答えるよう目で促す。

 「魅力的かどうかと言われれば、魅力的ではないでしょうか?」
 「お前自身もそう思うか?」
 「えっ?」

 姫御子は養父の、この問いかけにキョトンとする。
自分は姫御子である。
神に仕える巫女の頂点にある私には、男性に対し一般女性のような感情はない。
あってはならない。
そのような娘の立場を知っていながら、この質問は何を意味するのだろう?

 「もし、私が姫御子でなかったならば、ですが・・。」
 「うむ。」
 「魅力的な男性に感じるかもしれません。」
 「そうか・・。」

 養父はだまり込んだ。
しばらく目を(つむ)(うで)を組む。

 姫御子は養父の次の言葉を待つ。
しかし、養父は暫くは微動(びどう)だにしなかった。

 養父様は何を考えているのだろう?
できれば、先ほどの質問の意味を聞きたい。
聞きたいのだが・・
養父の様子を見ると、質問ができる雰囲気ではない。
時間だけが静寂の中を通り過ぎていく。
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