第55話 祐紀の目覚め 2

文字数 2,026文字

 祐紀は出された重湯を食べていた。
医者からの指示で布団から出ることを禁止されており、食事は布団の上で取っている。

 空腹感はあるのだが、思った程食べられない。 
さすがに2日間も寝ていたという事だけあると内心でぼやく。
ご飯茶碗で1杯半食べただけで箸を置いた。

 お紺からお茶が出され、一口飲む。
お茶が美味しい。
お茶を飲み干し、お代りをする。
お茶を半分ほど飲んだところで、湯飲みを両手でそっと包み込む。
手に伝わる

とした(ぬく)もりを()みしめる。
すると食事で体が暖まったためだろうか、睡魔が襲う。
(まぶた)が閉じそうになっては、ハッとして瞼を開く。
それを何回か繰り返す。

 その様子を見てお紺が笑った。
そして飲みかけの湯飲みを祐紀から受け取る。

 「祐紀様、寝られたらどうですか?」
 「いや、起きていようかと・・。」
 「どうして起きていようとするのですか?」
 「・・あ、うん・・・、2日間も寝て起きたばかりだからね。」
 「でも、無理して起きている必要はないと思いますけど?」
 「・・そうかな?」
 「はい、すこし横になられては?」
 「うん、そう・・するね・・。」

 そういうと祐紀は布団で横になった。
横になったとたん、睡魔に負けて寝息を立て始めた。
お紺はその様子を見て、一瞬不安になる。
また、起きなくなるのでは・・?と。
思わず声をかける。

 「祐紀様?」
 「・・・う・・ん。」

 祐紀が応えてくれたことでお紺は安心した。
どうやら大丈夫のようだ。
このまま寝かせてあげようと、祐紀の上掛け布団をかけ直す。
そしてお粥の膳を、音を立てないように気を付けながら運び去った。

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 祐紀が目を覚ますと、辺りは暗くなっていた。
どうやらいつのまにか寝てしまっていたらしい。
起きようとすると声がかかった。

 「祐紀よ、起きたか?」
 「あ! これは御奉行様!」
 「よい、そのまま寝ておれ。」

 そういうと佐伯は祐紀の肩を軽く押さえて寝かせつける。

 「すみません、御奉行様。」
 「御奉行様、ね~・・」

 そういうと佐伯は不満そうな顔をした。
祐紀は怪訝な顔をしたあとハタと気がついた。

 「あ、えっと、佐伯様、その、ご心配をおかけしました。」
 「おお、呼び方を覚えておったか?」
 「え、はい・・。」

 祐紀は、佐伯様と呼ぶのには抵抗があり困惑する。
そうとは言え、御奉行自らの指示のため、なんとか慣れようとしていた。

 「ご心配をおかけしてすみません。」
 「うむ、まあ、目覚めてなによりじゃ。」
 「はい。お手数をかけました。」
 「よいよい・・、そんなに恐縮するでない。」
 「・・はい。」

 「お前の養父から、お前が倒れたのは御神託によるものだと聞いておる。」
 「・・・。」
 「どのような御神託じゃ?」
 「それが・・、その、思い出せないのです。」
 「どういう事じゃ?」
 「前もそうだったのですが、時間と共に思い出すかと。」
 「そうか? そういうものなのか?」
 「いえ、普通はそのような事はないのですが・・。」

 「何か理由があるのか?」
 「それは、私にもわかりません。 神のなさることですから・・。」
 「そうか・・。」
 「はい。」
 「お腹は空いておるか?」
 「いえ、寝る前に食べたばかりですので。」

 「では・・、飲み物は?」
 「それも、今はいりません。」
 「そうか・・。」
 「・・・。」
 「まだ、横になっていた方がよいのでは?」

 その言葉に祐紀は瞬きをした。
そして何か言おうとしてグラついた。

 「これ! 祐紀、大丈夫か!」
 「あ、え、はぃ、ちょっと目眩が。」
 「寝ていなさい!」
 「え、でも・・。」
 「儂への気遣いは無用じゃ。」
 「・・。」
 「寝なさい。」
 「・・はい。」

 そういうと祐紀は横になった。
体が重く、また睡魔が襲ってくる。
(まぶた)が閉じそうになるのを()える。
瞼が閉じそうになっては開く様を見ていた佐伯が声をかけた。

 「目を閉じなさい。」
 「・・・はい・・。」

 祐紀は素直に目を閉じた。
すると睡魔が祐紀を包み込んだ。
祐紀はすぐに意識を手放した。
やがて(おだ)やかな寝息を立て始める。
そのようすを佐伯は暫く見届けた。
やがてゆっくりと佐伯は立ち上がった。

 佐伯は日が暮れる前に祐紀の側にきて、それからずっと付き添っていたのだ。
お紺が自分が付き添うからというのを断り側にいた。
祐紀の養父から預かったと言うことだけで無く、祐紀を気に入っており心底心配していた。
祐紀の寝顔を立ったまま確認をして呟く。

 「うん、寝息も穏やかで、顔色も大丈夫そうだ。」

 そう言うと、佐伯は音を立てないように、その場を去った。
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