第69話 祐紀・殿と老中への説得 5 (注意:残酷な描写あり)

文字数 1,650文字

 殿や老中が呆然としているなか、佐伯はすぐに我に返った。
そして、あわてて祐紀を見た。

 祐紀は額に脂汗を浮かべ、ぐったりとしていた。

 「祐紀!」

 祐紀は佐伯の声に、のろのろと顔を上げ佐伯の方を振り向いた。

 「祐紀、どうした!」
 「・・大丈夫です・・。」
 
 そういうと祐紀は、両手を突き上体を支えた。
慌てて佐伯は祐紀の元にかけより、祐紀を支えた。

 殿や老中も我に返り、佐伯と祐紀の様子を見ていた。
殿が祐紀に声をかける。

 「祐紀よ、いかがした?」
 「・・・すみませぬ、神の力を借りるのは人には負担なのです。」
 「?」
 「本来、人には無い力を使うわけですから、霊力が枯渇するのです。」
 「そう・・なのか? 大事ないか?」
 「はい・・、少し休めば多少はよくなります。」

このやり取りに堀田が割り込む。

 「茶番をするでないわ!」

 この言葉に佐伯は、堀田を思わず睨んだ。

 「堀田様、茶番とは酷い言いぐさですね。」
 「ふん、あんな幻術など使いおって!」
 「幻術?」
 「そうであろう! 南蛮渡来の何かであろうが!」

 「堀田様、祐紀が地龍を見せる前に言った事を覚えておいでか?」
 「?」
 「お忘れですか?」
 「何かいったか、偽霊能力者が?」
 「堀田様、祐紀は正真正銘の霊能力者ですぞ。」
 「ふん、どうだか、な。」

 「今までの祐紀の御神託をご存じでしょう?」
 「たまたまであろうが、あんな御神託であたった災害など。」
 「ば、馬鹿なことを申されるな!」
 「思ったことを言ったまでよ。」
 「ありがたい神のお言葉を、なんと心得まする!」
 「ふん、御神託などとまがい事を!」

 その言葉を聞いて、祐紀は荒い息をしながら堀田に忠告する。

 「堀田様、これ以上は言われない方がよろしいかと。」
 「何をぬかす、神主風情が!」
 「・・・。」
 「殿、こんな茶番を信じてはなりませぬぞ、神罰などあるわけがない。」

 そう言い捨てると堀田は立ち上がり、広間の廊下に歩いて行った。
そして晴天の空を仰ぎ見て大声で言い放す。

 「天罰とやらを儂にあたえてみよ!」

 そう怒鳴ると両手を広げた。
晴れ渡った空は穏やかで、風がない。

 「どうだ、祐紀、天罰なぞないであろうが!」

 そういって堀田は大声で笑った。

 「天罰だと! ふん、神など居るわけがない。」
その堀田の言い分に祐紀は再度警告をする。

 「堀田様、本当にもうやめた方がよろしいですよ。」
 「まだ申すか、この偽霊能力者が!」
 「私のことは愚弄してもよいですが、神様へはお止め下さい。」
 「ははははは、御神託なぞ・」

 そういった直後であった。
晴天にかかわらず眩しい稲光とともに轟音が響いた。
ドン!

 雷が落ちたのだ。
それも堀田に直撃した。

 堀田は口を開き呆けたような顔をし立っていた。
やがて(まげ)から煙が上がり、髪が燃え上がる。
しかし堀田は表情を変えない。
熱さを感じていないかのようだ。
髪は燃え続ける。
やがて、体が少し揺らいだ跡、ゆっくりとそのまま、俯せ(うつぶせ)に倒れた。

 殿、老中、佐伯は目を見開き、その様子を目に焼き付けた。
佐伯は祐紀から離れると、慌てて堀田に駆け寄った。
慌てて己の(かみしも)を取り払うと、裃を堀田の頭にかぶせたり叩いたりして火を消した。
髪の毛の焦げる臭いが広間に流れ込んでくる。
殿や、老中達は(わず)かに顔を顰め(しかめ)、この様子を固唾(かたず)を呑んで見ていた。

 佐伯は堀田を仰向けにし、鼻へ手を翳す。
そして、慌てて首に手をあて脈を見た。

 佐伯はゆっくりと殿の方に顔を向けた。
そして首を横に振った。
殿はそれを見て、脇息にガクリとよりかかり俯いた。
そしてボソリと呟く。

 「馬鹿者が・・・。」

 その殿の声を聞いて老中は皆、俯いた。
誰も何も話さなかった。
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