第103話 対決 2

文字数 2,479文字

 帝釈天(たいしゃくてん)が決闘の開始を宣言した。
その瞬間、牛頭馬頭(ごずめず)が動いた。

 二人は帝釈天に対し、瞬時に一列に並だのだ。
帝釈天から見ると牛頭(ごず)しか見えなくなった。
馬頭(めず)が牛頭の後ろに隠れたのだ。

 その体制で牛頭は帝釈天に向かって駆けだした。
帝釈天はユックリと体を斜に構えた。
空手の型に似ている。

 牛頭(ごず)が間合いに入り、(こぶし)を突き出す。
同時に牛頭の後ろから馬頭(めず)がジャンプをした。
牛頭を飛び越えてきたのだ。

 帝釈天は牛頭の突きを、右手の挙で受け止めた。
その瞬間牛頭はすかさず後ろにステップする。

 馬頭は空中で足を振り上げた。
そして、そのまま打ち据えるかのように(かかと)を振り下げる。
帝釈天の脳天を狙った()りである。
まともに人間が喰らえば死ぬだろう。

 だが、帝釈天は軽く後ろにステップして下がった。
帝釈天のいた場所に馬頭の蹴りが地面に炸裂した。

 ドスッ!

 馬頭は地面に穴をあけ着地をした。
着地すると同時に立ち上がり帝釈天と対峙(たいじ)する。
帝釈天からは馬頭の後ろにいた牛頭が見えなくなった。
だが、牛頭に動く気配はない。

 帝釈天は感心し言葉をかける。

 「見事だ。」
 「何を余裕をカマしていやがる!」
 「まぁな、だが結構な破壊力だ。
 素直な感想を述べただけなんだが?」

 帝釈天が言い終わる前に、馬頭(めず)が突然しゃがんだ。
その馬頭を飛び越え、牛頭(ごず)が回し蹴りを放つ。

 「おっと!」

 帝釈天は上体を後方へ反らし回避する。
牛頭は空中で一回転して地面に着地した。

 「おお、いいコンビネーションだ。
 危ない、危ない・・。」

 「くそ~! 良く言うぜ。
 余裕で(かわ)しておいて!」

 「まあ、そういうな。
 もし、まともにくらっていたら危なかったぞ。」

 「気にいらね~な!
 なんだ、その余裕は!」

 そう牛頭(ごず)はいうと同時に、帝釈天の右サイドに移動した。
それに合わせ馬頭(めず)は立ち上がりながら、(あご)をねらって右手を振り抜く。
帝釈天はステップで牛頭(ごず)がいる逆側に、瞬時にずれた。

 その帝釈天にめがけ牛頭は頭を狙って回し蹴りを出した。
帝釈天は軽くバク転をして数歩先に立つ。

 だが、その時、帝釈天の顔が一瞬曇った。

 「くっ!」

 その様子を牛頭馬頭(ごずめず)は見逃さなかった。
牛頭が帝釈天に言い放つ。

 「やっと効き始めたか。」

 その言葉に帝釈天は応えない。
肺に空気をいれようと深呼吸をするのだが息ができないのだ。

 帝釈天は人間と桁外(けたはず)れな肉体を持っている。
その分、基礎代謝が大きいのだ。
そのためバク転や急激な動きをすると、常人の倍以上の酸素を必要とする。
そのため毒が一気に回ったのだ。

 だが、帝釈天の様子を見て牛頭馬頭は目を見張る。

 「何故・・倒れない!」

 呼吸ができず、体が酸素を急激に必要としているはずだ。
(もだ)え苦しんで倒れないはずがないのだ。
なのに、なぜ平然と立っていられる?

 確かに帝釈天の顔色は悪くなっている。
だが寸分の隙もないのだ。
近づいたら反撃に()うのは間違いない。
呼吸もできないのに、なぜ動けるんだ。
化け物め!
そう牛頭馬頭(ごずめず)は思った。

 牛頭馬頭は互いに顔を見合わせた。
その一瞬の隙を、帝釈天は見逃さなかった。

 一気に間合いをつめ、回し蹴りで二人同時に蹴り倒した。
それを喰らった二人は空中を飛んだ。
そして数メートル先の地面に激突して、数回跳ね帰りながら地面を転んでいく。

 牛頭馬頭は強力な回し蹴りに、脳震(のうしん)とうを起こして気を失った。
でも、それは一瞬の事だった。
すぐに意識は戻った。
だが、立ち上がろうとしても意識が朦朧(もうろう)として、立ち上がれない。

 虚ろな意識の中で、牛頭(ごず)は帝釈天のいる場所を見る。
すると帝釈天は片手を地面に着け、ひざまずくかのような体制だった。

 「なんて奴だ。
 毒を喰らっても、なおあの回し蹴りかよ・・。」

 「牛頭(ごず)、大丈夫か?」
 「ああ、大丈夫だ馬頭(めず)。」
 「立てそうか?」
 「直ぐには無理だ。」

 「俺もだ。
 だが、今、帝釈天様に止めを刺さないと・・。」
 「わかっている! 分かっているのだが・・。」
 「くそう! 神だけのことはあるな。」

 馬頭が恨めしそうに帝釈天を見ていると、帝釈天の横に何かが現れた。
それも突然に。

 「次元転送・・か?」

 馬頭は回らない頭で、この現象を冷静にそう解析した。

 現れたのは人のようである。
肌は赤茶色だ。
この世界ではあまり見慣れない肌色だ。

 顔は・・・少年ではないか!
少年が次元転送だと?
そんなバカな!
そう思いじっと帝釈天ら二人の様子を見た。
いや、見るしかなかった。
動けないのだ。

 帝釈天の傍らに現れた者は、立ったまま腕組みをする。
何故、すぐに帝釈天を助けぬ?
帝釈天の助っ人ではないのか?

 その者はあろうことか、帝釈天を見て笑い出したのだ。
帝釈天は苦しそうな顔をしながら、その者と何か会話している。
まるで笑っていることに抗議しているようだ。
だが、呼吸のできない帝釈天が話すことなどできるはずがない。

 それにしても・・。
信じられん。
呼吸ができない帝釈天をなぜ助けようとしない?
このままだと帝釈天といえども命が危ないはずだ。
神とは命を粗末にするものなのか?

 そう思っていると、その助っ人は牛頭馬頭(ごずめず)に向かって歩いてくる。
まずい!
まだ体が動かない!
このままでは、止めを刺される!

 恐怖で牛頭馬頭は後ずさりしようとする。
だが、体は動かない。
このままではやられる。
そう思った。
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