第158話 忍び寄る影・・・ その6

文字数 2,505文字

 助左(すけざ)は深夜に目を覚ました。

 「周りの様子がおかしい・・、ついに行動を起こしたか。」

 そう助左は呟いた。

---

 10日ほど前であろうか・・
助左は神薙(かんなぎ)巫女(みこ)(そば)を離れ、村の入り口にある検問所によく行くようになっていた。

 助左が検問所に近づくと、見張り番をしていた者が気がついた。

 「またお前か・・・。」
 「ご苦労さんで。」
 「何がご苦労さんで、だ!」
 「ありゃ、何を怒っていなさるんで?」

 「お前な~、サボリにくるのはいいが毎日来るんじゃない!」
 「だども、神父のための勉強って(むずか)しすぎてよぉ~。」

 助左は涙目で見張り番に言い(つの)る。

 「あのさぁ、それ泣いて言うことか?
 お前神父になりたいんだろう?」

 「うんだ、なりて。」
 「だったらサボっていたらだめだろう!」
 「え?! あんたらだってサボって立っているだけずら?」
 「バカ者! これはサボってなどおらん、立って見張るのが仕事だ!」
 「え~、うそだぁ、立っているだけの仕事なら、オラにだってできるずら。」
 
 この言葉に後ろで手を組んでいた見張り番は、手をほどき(こぶし)を振り上げた。
殴る体勢だ。
それを見て助左は仰け反(のけぞ)って、避けようとした。
 
 「ぎゃぁ!! わ、悪かっただ!!」
 「悪いとわかったら帰れ。」
 「だ、だども!・・」
 「ええい、じゃまだと言っているんだ! とっとと消えろ!」

 「そ、そんな・・、まだ愚痴も少ししかいっとらんがな。」
 「ここはお前の愚痴を聞いてやる場所ではない!!」
 「そこを、も少し聞いてもいいだべ?」
 「お、お前なぁ!」
 「人間、腹立てちゃなんね、そう、神父様はおっしゃったぞ?」

 助左のその言葉を聞き、見張り番は上げた拳を下げた。
そしてニッコリと笑った。
それを見て佐助はほっとした顔をする。
だが・・。

 「そうか、お前にはこれが一番なようだな。」

 そう言って腰に下げた刀の(つか)に手をかける。

 「これ以上話しかけたなら斬る。」
 「わわわわわ! す、すまなんだ!!」
 「そうか、分かったか、じゃあ行け。」
 「それじゃあ、また()るべ。」
 「()んな!!」

 そう言って見張り番は刀を抜いた。
助左は泡を食って逃げる。
その姿を見やり、見張り番は溜息を吐きながら悪態をつく。
 
 「まったく彼奴(あいつ)は何なんだ・・・、毎日毎日きやがって。
 サボってばかりでは神父になんかなれっこないだろうに。」
 
 そういって再び手を後ろに回し姿勢を正し前を向く。
すると検問所の控え室から笑い声が聞こえてきた。

 「また、あいつが来たみたいだぞ。」
 「よく来るよな、あいつ・・。」
 「ああ、あれで神父見習いとはなぁ。」
 「頭も弱そうだし、喧嘩も弱そうだ。
 それで、あの神薙の巫女の付き人だからな。」

 「付き人だって? 俺は彼奴が最初に来た時は護衛だと言っていたぞ?」
 「本当か? 彼奴が護衛なのか?」
 「(うそ)に決まっているだろう、はったりだよ、張ったり。」
 
 そして一斉に笑う声が聞こえた。
 
 ここにいるのは北方警備隊で、自他供に認めるこの国の軍の精鋭部隊だ。

 元巫女姫(ひめみこ)が亡命をしようとした罪でこの村への幽閉が決まった。
そのため元姫巫女がこの村から逃げないようにするのと、亡命しようとした国の工作に備え配備されたのだ。

 この村は(がけ)で囲まれ、出入りはこの検問所を通らずに村には入れない。
そして、この村から他国に行くには抜け道のない一直線の街道がこの検問所から数キロ続く。
女一人で逃げ出そうとしても、検問所を避けては無理な地形だ。
あるいは連れ去ろうとしても検問所で直ぐに見つかるため逃げるのは困難だ。
完璧な監獄のような地形の場所である。

 そのような場所に、軍の精鋭部隊が検問所に常駐しているのだ。
元姫巫女がここを抜けるのは不可能と言える。

 だが、この村はあまりにも長閑すぎた。
隊員もだいぶ緊張感がなくなってきているのが現状だ。

 今日、見張り番として立っているのは小隊長だ。
本来は控え室であっても、検問所の様子を見て笑うのは(たる)んでいる証拠である。
だが、このような場所に娯楽はなく、隊員達もストレスが溜まっていることを小隊長は気にしていた。

 「(いさ)めるべきであるが、まあいいだろう。」

 そう小隊長は溜息を吐きながら、呟いた。

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 助左は検問所から戻る途中、周りの気配を探りながら歩いていた。
だが、(はた)からみたら田舎の神父見習いがノホホンと歩いているように見えたであろう。

 助左は検問所で小隊長と話していた時の事を思い出し、ポツリと呟いた。

 「検問所の様子を探る者がいたな・・。」

 助左は毎日検問所まで行っては、異変がないか見回りをしていたのだ。
それが数日前から検問所を監視する人の気配を感じていた。
その気配は検問所の外の林の中からであった。
おそらく検問所の人員、配置、交代時間、腕がどの程度たつかの確認であろう。

 助左は検問所の様子を思い出し溜息をついた。

 「あの弛んだ検問所では、容易に気付かれることなく間者どもは村に入れるかもしれんな。
 いや、それより隙だらけの検問所の者なぞ片付けるのも簡単な事かもしれん。」
 
 助左はそう独り言を呟く。
そして、空を見上げて思うのだった。

 「襲撃はあと10日くらい後にしてもらいたいものだ。」
 
そう呟いたのだった。


 それから12日ほど経った早朝のことだ。
教会前の庭の掃除をしていると視線を感じた。

 「ふむ・・、いよいよ来たか・・・。」
 
 林の中から教会に注がれる視線を感じながら、素知らぬふりをし様子を探る。
視線は、この教会の警備状況を探っているように助左は思えた。

 それにしても用心深い部隊だ・・。
検問所の様子を見極めてから、こちらに来たのが12日位であろう・・・。
この間、いったい何をやっていた?
考えられるのは検問所の警備体制を分析し、仲間を呼び込んだのであろうな。
検問所さえ無効化できれば大丈夫と考えているのだろう・・。

 う~む、このように慎重だとすると厄介な奴が頭なんだろうなぁ。
この様子だと神薙の巫女の拉致は、三日後くらいというところか。
 
 まあ、相手にあわせ気長に付き合ってやろうではないか。
そう考え助左は暢気(のんき)に口笛を吹きながら掃除を続けた。
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