第126話 閻魔大王への報告・・

文字数 2,136文字

 帝釈天(たいしゃくてん)閻魔(えんま)大王の執務室に赴い(おもむい)た。
そして閻魔大王の執務室のドアをノックする。

 コンコン!

 「ええい! 五月蠅い(うるさい)、これ以上仕事を回すな!」

 閻魔大王の怒鳴り声が響く。
声の大きさにドアが振動した。

 やれやれと帝釈天は思う。
これじゃあ、部下も怖がって入れなくなるんじゃないか、と。
まあ、実際、閻魔大王に書類を持ってきた部下は萎縮しているように見える。

 閻魔大王は情が深いくせに見た目が悪すぎる。
それに声も怖ろしい。
それさえなければ、いいオッサンなんだけどな。
いや、まて・・、それさえ無ければと思ったけど無理だ。
見た目と声って、直せと言っても直せないじゃん?
だめだな、これは。
そう思う帝釈天であった。

 帝釈天は閻魔大王の許可を取らずにドアを開けた。

 閻魔大王は書類しかみていない。
手が慌ただしく印を押している。
その作業を中断することなく、顔も上げずに怒鳴る。

 「誰が入って良いと言った!
もう、今日はこれ以上書類は受け付けん!
帰れ!」

 「え? 帰っていいの?」

 その帝釈天の声に、思わず閻魔大王は顔を上げる。

 「・・・帝釈天?」
 「ああ、そうだけど、出直そうか?」
 「あ! いや、待てまて、そこに座れ!」
 「そう? それじゃそうするか・・。」

 帝釈天は応接セットのソファーに腰掛けた。
閻魔大王は、大声を上げる。

 「誰か! 茶を持て!」

 その言葉に即座にお茶を持った側仕えがドアを開け入ってきた。

 「閻魔大王様、怒鳴るのではなく、ベルでお呼び下さい。」
 「そういうお前もドアをノックしないではないか?」
 「もうお忘れですか?」
 「?」
 「前にノックしてお茶をお持ちしたら、ノックなどいらん!
そう仰ったのは誰ですか?」
 「え?」
 「あの日は、決済直後でかなりお怒りのようでしたが。」
 「あ!・・・。」

 どうやら閻魔大王に心当たりがあるようだ。
目が泳いでいる。
おそらくいらいらして、直ぐにでもお茶が飲みたかったのだろう。
なのに、ドアをノックして許可を得る側仕えがもどかしく怒鳴り散らした。
そんな所であろう。

 こんな短気で怖ろしい閻魔大王だが、側近で()めていく者はいない。
前述したように、閻魔大王は情が深く他人を思いやる神だからだ。
見た目と合わぬ不思議な神である。

 側使えは二人分のお茶をテーブルに置くと出て行った。

 閻魔大王はお茶を取り、一口飲む。

 「熱い!」

 そう言ってドン!と音をたてて茶器を置きアタフタする。
この体格で猫舌なのだ。
似合わないにも程がある。

 両手で口を隠し、どうやら舌をだしているようだ。
ヒーヒーと悲鳴を上げたいが、帝釈天がいる手前できないようだ。
帝釈天は、それを見て吹き出した。

 「笑うでない! 人の不幸を喜ぶな!」
 「くっ、くっくっくっ! 笑うなという方が無理でしょう?」

 そう言って帝釈天は腹を抱える。
閻魔大王は恨めしそうに帝釈天をみていた。

 帝釈天が落ち着くのを待って閻魔大王は声をかける。

 「今日は、何の用事だ?」
 「牛頭馬頭(ごずめず)の件、片づきましたよ、閻魔大王様。」
 「なに! やけに早く片づいたな?」
 「私もそれほど暇人ではないので、早めに片づけました。」
 「そうか・・。」
 「それに阿修羅(あしゅら)がよく動いてくれました。」
 「・・・そうか・・。
彼奴にも礼を言わんといかんな・・。
帝釈天よ、よくやってくれた。
この通り、礼をいう。」

 そういって閻魔大王は深々と頭を下げた。

 「な! やめて下さい!」

 帝釈天は慌てる。
なんとか下げた頭を上げさせようとした。
だが、閻魔大王は頭を上げようとしなかった。

 帝釈天は頭をかきながら、どうしたものかと思った。
仕方なくその状態で話しかける。

 「それでは、母にもこの件は片づいたと言って下さい。」
 「え?」

 閻魔大王は帝釈天の言葉に、あわてて顔を上げた。
だが、そこに帝釈天の姿はなかった。

 どうやら次元転送し、もとの仕事をするため帰ったようだ。

 「彼奴(あやつ)、母である奪衣婆(だつえば)から逃げたな?
奪衣婆はお前と話しをしたくて待っているというのに。
それにだ・・・。
お茶菓子は何にしようか、食事はどうしようかと楽しみにしておった。
そんな母に挨拶もせずに、あちらの世界に逃げるとは何事だ!
・・・
ううぬ~・・・!
どう奪衣婆に言えばいいというのだ。
奪衣婆は()ねると大変なんだぞ!
(わし)の身にもなってみろ!
親不孝者めが!」

 そう言って閻魔大王は頭をかかえた。
その時だ、ドアをノックする音が聞こえた。
閻魔大王は頭を抱えたまま怒鳴る。

 「ええい! 五月蠅い(うるさい)! 儂は今、忙しいんだ!」
 「あら、そうは見えませんけど?」

 閻魔大王はギョッとして顔を上げた。
そこにはドアを開けて奪衣婆が立っていた。
閻魔大王は再び頭を抱えることとなった。
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