第226話 裕紀・密入国をする・・ その8

文字数 2,167文字

 亀三(かめぞう)裕紀(ゆうき)ならば、雷を操作する能力があっても不思議はないと納得した。
なぜなら裕紀は陰の国の一番の霊能力者だからだ。

 亀三は裕紀に(たず)ねた。

 「裕紀様、雷や雨を操る力は霊力なのですか?」
 「わからないが、たぶん、そうだと思う。」

 「そうですか・・。
確かにこのような能力は人に知れては大変な事になりますね。
為政者(いせいしゃ)にとっては恐怖であり、また利用価値のある能力ですね。
それゆえ為政者から暗殺されたり、薬などで言うことを聞く便利な道具として使用されるかもしれませぬ。
宮司様が隠すように厳命するのは当然のことです。」

 「・・・。」

 「それにしても、あれほど近くにいた黒装束に雷が落ちたのに・・。」
 「ん? 何か腑に落ちないのか?」
 「ええ、まぁ雷の衝撃で飛ばされましたが、儂に直接雷の被害がないのが解せませぬ。」
 「ああ、それか・・。」
 「?」

 「雷の落ちる場所と、落ちてから雷がどう地面に抜けるか操作ができる。」
 「え?」

 「例えばお前が誰かと抱き合っていたとしよう。
私は抱き合っている者だけに雷の被害を与えることができる。
それとは真逆に、さほど密集していない数十人に一度に複数の雷を落とすことも。」

 「え!」

 亀三は言葉を無くした。
しばらく押し黙ったのち、亀三はなんとか言葉を紡ぐ。

 「そうなのですか・・、それは・・すごい。」
 「化け物かな、私は?」
 「まあ、ある意味、そうですね・・。」

 「私が怖い?」
 「それは有りませぬ。裕紀様は裕紀様ですからね。」
 「そう・・、それならば、よかった。」

 そう言って裕紀はニッコリと笑った。

 「ですが裕紀様に、人を殺め(あやめ)させてしまいました。」
 「・・・。」

 「大丈夫ですか?」
 「大丈夫だ。
そうしなければ亀三が死んでいたのだから。」

 淡々と答える裕紀には、人を殺した動揺がない。
いや・・、動揺はあるのであろうが落ち着いていた。
それを感じ取り、亀三はホッとし、裕紀に礼を言う。

 「裕紀様・・・、助けて下さりありがとうございます。」

 「いや、礼を言うのは私の方だ。
お前が黒装束の危機を感じ取って私を逃がしてくれたのだから。」

 その言葉に亀三は思わず微笑んだ。
だが・・。

 「ところで裕紀様・・。」

 亀三が微笑んだ後、真剣な顔をしたことに裕紀は身構えた。

 「私は裕紀様に隠れていて下さいと申しましたよね?」
 「え?」
 「言いましたよね?」

 「えっと、あ、そう・・だったかな?」

 「そうだったかな、では有りませぬ!
もし、黒装束が貴方様に気がついて向かっていたら殺されていましたよ!」

 「いや、でも、私には先ほど見せたような雷が・・・。」

 その言葉に亀三は自分の考えていた事をぶつけた。

 「裕紀様、雷は精神統一も何もせずに咄嗟に出せるのですか?」
 「え?! あ、そ、それは・・、その。」
 「相手が突然、裕紀様を襲ってきたときに間髪を入れずに出せるのですか?」
 「あ、いや・・。」
 「出せるのですか!」
 「・・・出せぬ。」

 「なら、今回行ったことは無謀だと理解しておりますか?」
 「・・・はい。」
 「良いですか、次回から私が危険でもこのような事はしないで下さい。」
 「やだ。」
 「え?」

 「お前にもしもの事があったら、同じ事をする。」
 「裕紀様、貴方様は神社の跡取りなのです!」
 「だから何だ?」
 「え?」

 「お前の命と私の命、重さが違うのか?」
 「違います!」
 「いや、違わん。
お前が私を守るなら、私もお前を守る。
なんと言おうと、そうする。」

 「裕紀様・・・。」

 亀三は裕紀の言葉に息を呑んだ。

 裕紀様は優し過ぎる。
使用人の命など切り捨てるのが普通だとうのに・・・。
・・・裕紀様らしいといえばそうなのだが・・。
いや、だからこそ私は裕紀様の盾とならねばならない。
それに神一郎(しんいちろう)様からのご命令でもある・・。
ともかく裕紀様にこのような力を使わせて、第三者にこの能力を知られてはならぬ。
亀三は裕紀と話しながらも、自分の決意を改めて固めた。

 裕紀は亀三に念を押した。

 「亀三がなんと言おうが、私の考えは変わらぬ。
これ以上、この話しは意味がない。」

 「・・・わかりました。」

 「で、亀三、歩けるか?」
 「はい。」

 そういって亀三は立ち上がろうとしたが、よろけて転んだ。
どうやらまだしびれ薬が効いているようである。

 そんな亀三を、裕紀はじと目で見る。
亀三はというと、裕紀の視線を感じ目をさまよわせた。
大丈夫だと思い、立ちあがっただけでよろけたのだ。
恥ずかしいにも程がある。

 そんな亀三に裕紀はニヤリとして亀三に声をかける。

 「亀三、歳か? 耄碌(もうろく)して腰が(くだ)けたか?」
 「と、歳!! 違いまする!」
 「そうか? では山道を歩いて疲れたんだな?」

 「な、何をおっしゃいます、先ほどまで休ませてくれと泣いた人は誰ですか!」
 「な、泣いてなどおらん!」
 「ほう・・、泣いて岩場で休もうと騒いだお方がね~・・。」
 「え! ちょ、ちょっと待て! ちょっとだけ、休もうと言っただけではないか!」
 「ほう~、息があがり今にも死にそうに歩いていた方がよく言いますね?」
 「か、亀三!」

 そう言って二人はにらみ合った。
そして、やがてどちらかとも無く笑い始める。

 「亀三、しびれ薬が切れたら出かけよう。」
 「はい、裕紀様。」

 そう言って二人はうなずき合った。
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