第237話 陽の国・これから・・・ その6

文字数 1,927文字

 脱線しかけた神一郎(しんいちろう)は話しを元に戻す。

 「裕紀(ゆうき)、よく聞きなさい。」
 「え?・・、あ、はい。」

 「よいか、今回()の国は神薙(かんなぎ)巫女(みこ)様を拉致して国に連れ帰るのが目的であった。
だから姫御子(ひめみこ)(くらい)から引きずり()ろしたのだ。」

 「やはりそうだったんですね!
拉致のために姫御子様を引きずり落とすなどとは非道にも程がある!」

 裕紀は激昂した。

 「怒りを収めなさい。拉致という目的のためなら何も不思議ではない。」
 「!・・・。」

 「さて、では何故引きずり下ろす必要があったか分かるか?」
 「え?!・・。」
 「ん? なんだ分からぬか?」
 「え? あ、はい・・。」

 「そういえば、猪座にお前はこの理由が分からぬと言っておったのう・・。
よいか、姫御子という位でいたなら、城中か教会の内部で警戒が厳重な場所から出ることはない。
お前が賊なら、拉致をするにはどうする?」

 「え? そうですね、厳重な警護をさせなくさせるには・・。
姫御子様を守るために厳重な警護・・・。
そうか! 姫御子という位から引きずり下ろせばいいんだ!
そうすれば警護は厳重ではなくなる!」

 「そう言うことだ。だが、裕紀、何か気がつかないか?」
 「え?」
 「引きずり下ろすだけなら、国主の不興を買わせる事まで必要だと思うか?」

 「・・・確かに、そうですね・・。
姫御子様に何か不手際があったように工作するだけで十分な筈ですね。
国主様の不興を買うと、へたをすれば極刑、よくて牢獄・・。
そんな事になれば拉致どころではないですよね・・。
何故、不興を買わせたのか理由がわかりませぬ。」

 「分からぬか・・。
お前の言うとおり、国主の不興(ふきょう)を買ったとなれば、極刑か牢獄だ。
だが、国で霊能力者の頂点に立つ者など極刑にするわけがない。
利用価値が高いからのう。
かといって仮にも姫御子様であった者を牢獄に入れたとあっては国の威信にかかわる。
そのような罪をするような者を姫御子様にしたかと笑われ、痛くもない腹を探られる。」

 「・・・そう言うことですか、だから神薙の巫女様が幽閉になった、と。」

 「そうじゃ、国主の不興は買ったが重罪にはしたくなかったのであろう。
だから、御触書には罪状は不興を買ったとだけ書き一介の巫女にしたとしか記さない。」

 「なるほど・・。」

 「裕紀よ、他に気がつかぬか?」
 「え?!・・、まだ、有るのですか?」

 「はぁ・・、まだお前は思慮がたらんのう・・。
一介の巫女になって幽閉されたその場所を、拉致したい者はどうやって探る?」

 「え?・・・。ええっと、警備が厳重で幽閉されそうな場所を探します」

 「以外とこの国は幽閉された者が多い。
警備の者もそれなりに周囲に気を配る。
へたに探りまくると、役人に気がつかれるぞ?
怪しい動きがあると分かると、神薙の巫女様の警備や幽閉先を見直す事になろう。」

 「・・・。」

 「分からぬか? 巫女が幽閉される場所は一般人と違う。」
 「あ! そう言う事ですか!」

 「そうだ・・。
巫女の幽閉先となると教会となる。
国主の不興を買ったのだ、(みやこ)周辺などにするわけがない。
御神託ならどこに居ても受けられるからのう。
安易に考える官僚ならば辺鄙(へんぴ)な場所を選ぶだろう。
閉鎖的な集落ならば、見慣れない者が何かと嗅ぎまわれば目立つ。
警備するにはもってこいだとな。」

 「・・・。」

 「だが、辺鄙な場所に幽閉などするなどバカがすることだ。
そのような沙汰を出させるよう緋の国が誘導し実現したらどうなると思う?」

 「・・・・。」

 「人の口に戸は立てられぬ。
辺鄙な場所ならなおさらだ。
娯楽の無い場所の方が、何かと(うわさ)を立て直ぐに広がるものだ。
特に辺境の地で警備が厳重になり、その上、新任の巫女が来たならばな。
そして辺鄙な地域で教会のある場所は少ない。
その周辺に行商人として行き、周辺の村などで噂を興味本位に聞けばよい。
誰も不審には思わず、喜んで噂話しをしてくれる事であろう。
箝口令の敷かれた城中で情報を探すより、地域に出向き噂を拾った方が確実で安全に情報が手に入る。
それも簡単にな。
緋の国にとっては願ったり叶ったりだ。」

 「緋の国の考える事は恐ろしいですね。」

 「ああ、国のためだ、必死に最善の方法を考えるであろうよ。
裕紀よ、お前は(さと)い。
だから常に考えよ、絶えず自分に自問自答をせよ。
そして政治や、商売などの情報を絶えず拾うようにしなさい。
神社を守るためにも、お前自身を守るためにも。」

 「はい!」

 亀三(かめぞう)はこの親子の会話を聞いて、唯々(ただただ)、関心した。
なるほど、裕紀様が鋭いのはこのように育てられてきたからだと。

 そして猪座(いのざ)はといえば、只々(ただただ)(あき)れていた。
この親子、我が国の情報機関より情報量といい、解析力といい上をいっているのではないか、と。
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