第132話 悶々とした日々・・

文字数 1,842文字

 祐紀(ゆうき)は神隠しから戻ってきてから、悶々とした日々を送っていた。
それというのも、

から神薙(かんなぎ)巫女(みこ)(もと姫巫女(ひめみこ))についての情報が入ってこないからだ。

 

の協力を切望している。
もし協力がなければ、陰の国では地龍が封印されている御堂から出てしまう。
そうなれば、過去にあった惨劇が繰り返されてしまうからだ。

 だが

は神薙の巫女の協力を拒否した。
そればかりでなく姫巫女という地位にあったのを、一介の巫女にしてしまったのだ。
そして地方の教会に幽閉し、神薙の巫女と名乗らせている。

 陽の国はその件について対外的に発表をしておらず、沈黙している。
そしてこの件については箝口令(かんこうれい)()かれているようだ。
他国はこれらの件については、知る(すべ)がない。

 一方

の神殿は国とは違い

に協力的であった。
それというのも、

(もと姫巫女(ひめみこ))の御神託(ごしんたく)を実行するには祐紀の助力が必要だからだ。
そのため、姫巫女が一介の巫女になった情報は、陰の国の神殿からもたらされた情報である。
だが、神殿からそれ以降は一切連絡が無い。

 祐紀は悶々としながら、神殿から連絡を待つしかなかった。
それは陰の国の城主も同じである。

 祐紀には、川の氾濫(はんらん)が起こり地龍を閉じ込めている御堂(閻魔堂)が壊れることが分かっていた。
それは御神託(ごしんたく)によるものである。
だが、その氾濫の時期はわからない。
御神託とは曖昧(あいまい)で大まかにしかわからないものであるからだ。

 神は御神託を与え、人の努力を見極める(みきわめる)と言われている。
つまり、真摯に御神託に対応をしないと神は人を見放す(みはなす)と言うことだ。
見放されたらどうなるか、考えれば怖ろしい事だ。
だから神官や、宮司らは御神託を授かると真摯に対応をする。
国を治める者ともなれば、なおさらだ。

 だが、陽の国の国主はこの点を見誤っていた。
だから陽の国の神殿は、国主()に逆らわずに何とか御神託を実行しようと手を尽くしているのだ。
そういう点で、祐紀は神社の跡取りでもあることから陽の国の神殿を信頼している。
寺社奉行(じしゃぶぎょう)佐伯(さえき)も、陽の国の神殿は信頼しているようだ。

 佐伯も祐紀も神薙の巫女に対し、本来ならば何らかの対応をすべきであろう。
だが、佐伯も祐紀も動けなかった。
それは陽の国の神殿から安易に動くな、と、書簡で釘をさされていたからだ。

 今回、陽の国の国主が陰の国からの姫巫女への援助要請を断った原因は佐伯にあった。
配慮が足りないことから起こったのだ。

 佐伯は陽の国の状勢はある程度把握していた。
そして為政者(いせいしゃ)為人(ひととなり)も。
だが、人が動くための大義名分、行動原理は生まれ育った環境で異なる。
それが他国となると言わずもがなである。
他国に住んで肌で感じてみないとわからない知識だ。
頭で聞いた事を理解しても、機微(きび)というものは分からない。
それを見誤ったのだ。

 だから下手に動いて陽の国の権力者を刺激し、神殿の動向を阻害しないためにも動けないでいた。

 そんなある日、祐紀は寺社奉行の佐伯から呼び出された。

 「佐伯様、なんでございましょう。」
 「お前、養父と連絡を取っているか?」
 「・・・いえ?」

 「お前の養父と連絡がとれん。」
 「え?」
 「それで(わし)の部下を、お前の養父の神社に先日向かわせた。」
 「・・・。」

 「神社の者によると、お前が神隠しにあった日に旅へ出たそうだ。」
 「旅・・ですか?」
 「彼奴(あやつ)は昔、武者修行だと言って何も言わずによくいなくなった。
酷いときは3年帰らぬ時もあった。
未だに放浪癖があるようじゃのう。」

 「そうなんですか?」
 「なんだ、知らなかったのか?」
 「はい。」
 「まあ、よい、祐紀、彼奴(あやつ)の行く場所に心当たりは?」
 「・・・ありませぬ。」
 「そうか・・・。」

 そう言って佐伯は黙りこんだ。

 「あの、佐伯様・・。」
 「なんじゃ?」
 「養父様に何かあったと思うのですか?」

 佐伯は祐紀を無言で見つめる。

 「佐伯様は養父が姫巫女様・・いえ、神薙の巫女様のために動いていると?」
 「何故、そう思う?」
 「いえ・・、ただ何となく私はそう思っただけです。」

 佐伯は何も言わず、もう良い、と言わんばかりに手を振る。
帰れということだろう。
祐紀はそれを見て、佐伯をさらに問いただそうとした。
だが、佐伯は寺社奉行だ。
立場上、何か言えないものがあるのだろう。
そうでなければ、祐紀には話してくれているはずだ。
そう思い、祐紀は口を(つぐ)んだ。

 祐紀は佐伯に礼をして、その場を去っていく。
その後ろ姿を見ながら、佐伯は腕を組み深いため息を吐いた。
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