第148話 来訪者・神薙の巫女 5

文字数 1,643文字

 神父から助左(すけざ)を護衛につける旨を了承させられた神薙(かんなぎ)巫女(みこ)ではあった。
だが、神薙の巫女には解せないものがある。

 それは他国の宮司(ぐうじ)、それも陰の国では有数な神社の宮司である。
そのような宮司が他国の一巫女の護衛など引き受ける理由があるのだろうか?

 神薙の巫女は、途惑いながら助左をジッと見た。
そして助左に問いかける。

 「あの・・、何故、私のような他国の巫女の護衛などを引き受けて下さったのでしょうか?」
 「疑問に思われるのですか?」
 「はい。」

 「そうですか、理由はそれは私が宮司だからです。」
 「え?」
 「私は神に仕えており、嘘偽りは言いません。」
 「え、ええ・・?」
 「まぁ、全く嘘を言わないという訳ではないですけどね・・人間ですから。」
 「はぁ・・、それは、そうですね、私も同じですので・・。」
 「ともかく嘘は言わない、言ったことは履行するのが神官です。」
 「はぁ?・・・。」

 「(せがれ)は貴方と約束をしたでしょ?」
 「え?」
 「貴方様の手助けをすると。」
 「!」
 「それも御神託の手助けを。」
 「あ!・・・。」
 「まぁ、それに・・。」
 「?」

 そこで助左はしまったという顔をして押し黙った。
神薙の巫女は途中で止めた言葉が気になり問い返す。

 「あ、あの、それにとは?」
 「あ、いや、気にしないで下さい。」
 「?」

 神薙の巫女は何か言いたげにジッと助左を見つめる。
助左も神薙の巫女を見つめ返す。
だが、神薙の巫女は一向に視線を外そうとしない。
折れたのは助左であった。

 「はぁ・・ついうっかりと言ってしまった。」
 「・・・。」
 「貴方様と()()()にとっては(はた)迷惑な話しかと。」
 「?・・。」

 助左は、はぁ~と溜息をつく。
そして観念したとでも言うかのように話し始めた。

 「愚息(ぐそく)には言わんで下さい。」
 「はい。」

 助左は言いにくそうに一瞬、口を(つぐ)む。
そして・・。

 「(せがれ)は自分の気持ちに気がついていないようですが・・。」
 「?・・・」
 「どうやら倅は神薙の巫女様に()れてしまったようなのです。」
 「「 え!! 」」

 神父も神薙の巫女も同時に驚き声を発した。

 「まあ、かなわぬ恋であっても養父としては見守りたい。
好きな相手に何かあって彼奴(あやつ)(なげ)くのを見たくはないというのが本心です。
倅は残念ながら武芸はカラッキシダメなので、彼奴(あやつ)では神薙の巫女は守れない。
だが、儂ならばできる。
これも護衛を引き受けた理由の一つで・・、え?どうしました?」

 助左がふとみると、神薙の巫女は俯いてしまいこちらを見ようとしない。

 助左は、しまった! と思った。
神薙の巫女は倅が好きでもなんでもないのだ。
好きでもない相手の養父が、倅の思いで護衛などされるのは迷惑以外のなにものではないという意思表示ではないだろうか?
そう思い助座は言葉を慎重に選び神薙の巫女に話しかける。

 「神薙の巫女様。」
 「は・・・、はい・・。」

 神薙の巫女は問いかけられても、俯いたまま助座を見ようともしない。

 「倅が勝手に貴方様に好意を持っているだけです。
倅自体、これが恋だと自分では気がついていない。
ですので、今、話したことを気にかける必要はない。
それに倅の思いと、貴方様を護衛するのは全く別の話です。
御神託をつつがなく実行するための手助けを私がするというだけの事なのです。
なぜならそれは宮司である私の勤めなのですから。
ですから倅が嫌いでも、私に貴方様の護衛をさせてくださらぬか?」

 「違います!!」

 助左の言葉に思わず神薙の巫女は顔を上げ叫んだ。
その顔は真っ赤であった。
その様子に驚いた助左は間抜けな声を出す。

 「へ?」

 「ゆ、祐紀(ゆうき)様が嫌いなどと! そんな事は言っていません!」
 「え? あれ? はぁ? はぃ?・・。」
 「で、ですから、あの・・護衛、宜しくお願いします、養父・・あ、助左様。」
 「え? あ、はぃ・・、あ、助左様ではなく、助左、ね。」
 「え? あ・・、はぃ、助左・・。」

 こうして宮司こと祐紀の養父は、助左として神薙の巫女の警護をする事となった。
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