第107話 決闘後・・帝釈天対策

文字数 2,770文字

 牛頭馬頭(ごずめず)は、今、(ねぐら)にいる。
先ほどの決闘で帝釈天(たいしゃくてん)から受けたダメージはなかなか消えそうもない。

 馬頭(めず)は、先ほどの決闘を思い返していた。

 「なあ牛頭(ごず)よ、神力ってなんだ?」
 「帝釈天様の言っていたやつか?」
 「ああ・・。」
 「俺には分からん。」
 「・・・。」

 「なあ、お前は殺気だといい、帝釈天様はそれを神力だと言ってたよな。」
 「ああ、確かにそう言って神力だと言われたな。」
 「前から不思議だと思っていたんだ。」
 「何をだ?」
 「死線を彷徨(さまよ)った時、不思議な事がなかったか?」
 「?」

 「窮地(きゅうち)(おちい)れば陥るほど幸運な事があった。」
 「・・・。」
 「もし、それが神力によるものだとしたら?」
 「・・・幸運だったのではなく、神力だったと?」

 牛頭は、暫し馬頭の目を見つめた。
そして、馬頭に語りかける。

 「窮地を脱した時のことを覚えているか?」
 「何時の事だ?」
 「まだ駆け出しの頃、地域の勢力者の事務所に呼ばれた時だ。」
 「ああ、あれか・・、あの時は死ぬかと思った。」
 「そうだな、俺も助かるとは思わなかった。」

 「確か罠に嵌まり、逃げ出して袋小路に追い込まれたときだな・・。」
 「ああ、そうだ。
 あのとき俺等は騙されて武器を事務所で取り上げられていた。
 そして相手は2人。
 二人とも真剣で一斉に切りかかってきた時の話しだ。」

 「互いに絶対絶命だと思ったな。」
 「あのとき、お前を()ろうとした(やいば)が不思議な軌道を描いたよな。」
 「ああ、あの時、俺は死んでたまるかと強烈に思った。
 そして、刀を振るった奴に猛烈な殺意を抱いたんだ。
 その瞬間、刃の軌道が変わった。
 それが幸運を招いて、そいつを始末できた。
 あの時は、殺気で相手がひるんだと思っていたんだが・・。」

 「そうだな、あの時は殺気によるとしか説明のしようがなかった。」
 「ああ、そう二人で話したな。」

 「もし、それが殺気でなく神力とかいう力だったとしたら?」
 「神力で刀の軌道を変えたと言いたいのか?
 いや、待てよ・・
 神力が相手の動作を変えたという考えもあるか。」

 「いずれでもかまわんが、神力のせいだとしたら?」
 「ふむ・・。」

 馬頭(ばず)は、暫し考え込んだ。
そして、(おもむろ)に思い出した事を聞く。

 「そういえば、あの時、お前も別の奴から斬りかかられていたな。」
 「ああ、あの時は俺も運に助けられたと思った・・。」
 「まあ、確かにな・・。
 お前が刀を左腕で止めようとして刀が折れたからな。
 刀が安物で痛んでいたんだろうと決めつけていたよな。」

 「ああ、そうとしか言いようが無かったからな。
 俺は腕一本を無くすのを覚悟していたというのに。
 刃を受けた腕にはかすり傷さえ負わなかった。
 服は切り裂かれていたというのにな。」

 「まあ、あの時は幸運だったとしか説明のしようがなかった。」
 「ああ、そうだ。」

 「あの時は聞かなかったが・・
 刀が折れたのは腕に当たった瞬間か?」

 「ああ、刀が腕に当たった瞬間に折れた。
 腕に刀が当たった衝撃を感じたから間違いない。
 だから腕が切り下ろされると覚悟した。
 そして、激痛に備えたんだ。
 だが、腕は無事だった。
 幸運という以外、説明のしようがない。」

 「そうだよな、あの時はそう考えた。」

 「ああ、あの時はな。
 だが、今思えかすと、他にもある。」
 「?」

 「お前、敵対する支部のボスを倒したときのことを覚えているか?」
 「ああ、あれか・・。
 覚えているさ。
 まさかあの時に、不覚を取るとは思わなかった。」

 「そうだな、事務所にはボスしかいなかった。
 だから気が緩んでしまった。
 そして、二人で事務机に座っているボスに安易に近づいた。」

 「ああ、そして突然後ろから斬りかかられたんだったな。」
 「そうだ、ロッカーみたいな物の中に隠れていた奴にな。」
 「お前が直ぐに気がつき、よせばいいのに俺を庇おうとした。」
 「まあな、頭で考える前に体が動いていた。」

 「しかし、普通素手で刀を止めようとしないだろう?」
 「しかたあるまい、あの時はボス一人だけだと思ったんだ。
 あちらも武器を構えていなかったしな。
 だから、お前と一緒に持っていた武器をしまった。
 その直後に襲われたからな。
 素手で立ち向かうしかないだろうが。」

 「まあな。
 で、あの時、お前は拳で刀を弾いて相手の顔面を砕いたんだったな。」

 「ああ、そうだ。
 刀を拳で弾いて相手を殴れると、何故かその時思ったんだ。
 なぜそんなバカな事を考え実行したのか今も分からん。
 だが、実際できたんだ。
 填めていた指輪が刀に当たり、刀をそらすという幸運でな。
 打ち出した拳は、そのまま相手の顔面を捕らえ打ち砕いた。
 偶然の賜物だと思った。」

 「そうだよな、こじつけるとしたらそれしか無かったな。」

 そう話し、暫く二人は黙った。
そして(おもむろ)牛頭(ごず)馬頭(めず)に提案をする。

 「馬頭(めず)よ、俺と決闘をせんか?」
 「何だと! バカな事を言うな!」
 「帝釈天様に勝つためにはそうすべきだ。」
 「?!」

 「それしか無いだろう?」
 「神力を身につけるためか?」
 「・・ああ、そうだ。
 なにせ俺等が神力を出したのは決闘のときだけだからな。」

 その言葉に馬頭は一瞬押し黙った。
そして・・

 「・・・決闘を行い神力を習得するしかないか。」
 「そうだ・・。」
 「死ぬ危険性があるぞ?」
 「相手は帝釈天様だ、そのくらいしないとな・・。」
 「・・・確かにそうだな。」

 「決まりだな。 で、何時決闘をする?」
 「決闘するなら、今するのがいいと思わないか?」
 「?」

 「今、俺等は帝釈天にやられボロボロだ。」
 「なるほど、今の方が死にやすい、か・・。」

 二人は目を合わせ、ニヤリと笑う。
牛頭が窓に向かい走ると、そのまま窓から外へ飛び降りた。
馬頭もそれに従う。

 5階から飛び降りた二人は、すぐさま庭の真ん中に行く。
そして2メートルくらいの距離を置いて向き合った。

 「では、始めるか・・・。」
 「ああ、やろうぜ。」

 こうして二人の決闘が庭で開始された。
部下達は、突然の二人が決闘をしはじめて呆然とした。
そして、余りに壮絶な戦いに手を出せず見守る事しかできなかった。
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