第102話 対決

文字数 2,489文字

 帝釈天(たいしゃくてん)は不適な笑顔を浮かべた。
そして、牛頭馬頭(ごずめず)に問いかけた。

 「ところで俺を叩きのめすと言っていたな。」
 「そうだ。」

 帝釈天の言葉に、今度は馬頭(めず)が不適な笑みを向ける。
帝釈天は馬頭の言葉に頷く。
そして牛頭馬頭に、再び聞いた。

 「俺は神ぞ。叩きのめせるのか?」

 帝釈天の声は穏やかであった。
だが、この声を聞いて牛頭馬頭の背筋には冷たい汗が流れる。

 威圧・・いや、違う・・。
神のオーラと言えば分かり安いだろうか?
牛頭馬頭は思わず(ひざまづ)きそうになった。
だが、牛頭馬頭は一瞬身じろいだだけだった。
何とか(こら)えたのだ。

 馬頭(めず)は、帝釈天に言葉を返す。

 「ああ、神であるお前を叩きのめす。
 だが、ハンディはもらう。
 俺と牛頭(ごず)の二人がかりだ。」

 「いいだろう。 で、どこで戦う?」
 「ここの庭でどうだ?」
 「よかろう。で、その庭はどこにある」
 「そこの窓から見える。」

 そういって牛頭は窓の方をチラリと見た。
帝釈天は立ち上がり窓際に行く。
そして外を見て頷いた。

 帝釈天は牛頭馬頭に再び聞いてきた。

 「窓から出るが問題あるか?」
 「無い。 それに窓以外から今は降りられないだろう。」

 それを聞いて帝釈天は(うなず)いた。
帝釈天がここ5階を目指すときに歓迎を受けた跡が残っている。
爆弾やら手榴弾などの爆発の跡だ。
各階の廊下、階段は破壊され、瓦礫(がれき)が散乱している。
惨憺(さんたん)たる有様だ。

 とはいえ、帝釈天にとって瓦礫など障害でも何でも無い。
神力を軽く出せば、瓦礫など吹き飛び簡単に撤去できる。
だがそれだと各階にいる組織の者達も一緒に吹き飛ぶだろう。
組織を潰すなら、一石二鳥なのだが・・・。

 だが、帝釈天は()えてそれを選択しなかった。
理由は簡単だ。
瓦礫を吹き飛ばすのが面倒だったのだ。
だから窓から外に出ることにしたのだ。
物ぐさな帝釈天の一面である。

 牛頭馬頭はこのことに気がついていない。
いや、神力というものが分かっていないのだ。
だから、瓦礫を撤去しながら進むと時間がかかると考えている。
帝釈天も説明が面倒なので、あえてその点は指摘しないでいた。

 帝釈天は途惑う(とまどう)ことなく窓から飛び降りる。
5階からだというのに着地したときに物音一つ立てなかった。

 牛頭馬頭(ごずめず)も帝釈天に続き窓から飛び降りた。
ただ帝釈天のように物音を立てずにという訳では無かった。
膝を軽く曲げ、ドスン!という音を立てて地面に降り立ったのだ。
この音だけ聞けば、骨折をしていそうに聞こえる。
だが、なんとも無いようだ。

 庭は帝釈天が建物に入ってきたのを表とすると、裏にあった。
庭自体は100m四方の正方形で、周りを木が取り囲んでいる。
組織の者達の訓練場のように見える。
怪我を防ぐためであろうか、庭は芝生で覆われている。
だが、激しい訓練を行ったのか芝生の所々が剥げている。
決闘にはよい場所といえるだろう。

 帝釈天は庭の中央に、散歩でもするかのように軽やかに進む。
牛頭馬頭はその様子を見て、少し遅れてから後に続いた。
やがて庭の中央に辿り着いた帝釈天は立ち止まり、振り返った。

 帝釈天はニヤリと笑いながら牛頭馬頭に言う。

 「ルールはどうする?」
 「ルール?」

 「ああ、そうだ。
 息の根を止めるまでか?
 それとも気絶するまでか?」

 「決闘と言えば息の根を止めるまでだろう?」
 「まあ、そうなんだがな・・。
 オッサンがそれを望んでおらん。」

 「度々出てくるオッサンとは誰なんだ?」
 「だからお前等に教える義理はないと言っただろう?」
 「・・・。」

 「とりあえず気絶するか戦闘不能で良しとしようではないか。」
 「・・わかった。
 だが、殺す気はなくても弾みということはあるだろう?」

 「まあ、故意でなければ互いが遺恨をのこさん、それでいいか?」
 「ああ、分かった。」

 「で、武器はどうする?」
 「帝釈天様はどうしたい?」

 「そうだなぁ・・、俺は素手で良い。
 お前等は武器を使おうとかまわんぞ?」
 「えらい自信だな・・。」
 「俺は神だからな。」

 「なら、俺等も素手でいい。」
 「?・・、良いのか?」
 「ああ、いい。」

 「それから、他に助っ人を頼んでもいいぞ。」
 「俺達二人だけでいい。」
 「ほう、俺を相手にずいぶんな自信だな。」
 「ふん、雑魚が何人いても意味ないだろう?」
 「まあな、試合途中からでも頼みたければ頼めばいい。」
 「ずいぶんと優しいな?」
 「ああ、これでも俺は神なのでな。」

 このとき牛頭馬頭には勝算があった。
先ほど帝釈天が飲んだ茶には毒を入れてある。
無味無臭透明な毒である。
自信満々で敵地に来て茶を飲んだ自分のバカさ加減に後悔するがいい・・。
そう内心で毒づいていた。

 その毒であるが・・。
飲んだからといって速効で効果を発揮する毒ではない。
この毒は特殊なものなのだ。
激しい運動をすると、体内で毒となる。

 簡単にいうと口から摂取して血液に入り込むだけでは無毒である。
だが、激しい運動をし体内に多くの酸素を取り入れようとした時、それを阻害するのだ。
青酸カリによく似た毒ともいえる。
急激に大量の酸素を取り入れようとした時、突然酸素の取り入れを阻害する毒なのだ。
怖ろしいのは一度毒と化したら、全く呼吸ができなくなる点である。
だから武人には、もっとも怖ろしい毒といえるであろう。
牛頭馬頭もこの毒は飲んでいるが、解毒剤をあらかじめ飲んでいた。
卑劣といえば卑劣であるが、地獄では騙された者が悪いのだ。

 帝釈天は決闘のルールが決まったことで、嬉しそうに笑う。
そして、牛頭馬頭に告げる。

 「では、決闘を開始しようではないか。」
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