第15話 姫御子の覚醒のために

文字数 1,373文字

 姫御子()は夢と思われる世界で困惑していた。

 目の前に妖艶な巫女が優しい微笑みを浮かべている。
それも、私とテーブルを挟んで。
姫御子も、巫女も椅子に座って見つめ合っていた。

 「あの・・貴方は?・・。」
 「私? 思い出さない?」
 「え? ええ・・。」
 「そう、その(ほう)がいいわ。」
 「え?」
 「いえ、こちらの独り言よ。」
 
 「あの・・。」
 「そうね、私は神の国の住人よ。」
 「神・・様?」
 「まあ、そんな所かしら。」
 「・・・」

 「そんなに緊張しないでいいのよ?」
 「え、でも・・」
 「ふふふふふ、リラックスして。」

 巫女の優しい口調と、微笑みに思わずつられて微笑んだ。

 「うん、良い笑顔ね。」
 「ありがとう御座います。」

 そう言って、姫御子はなんとなく目を反らした。
なんとなく恥ずかしい、そして(なつ)かしい。
あれ? なんで懐かしいなんて思うのだろう?
夢だから懐かしいなんて荒唐無稽な気持ちになるのだろうか・・。
そんな事を考えていると巫女が声をかけてきた。

 「ここは、神の国。」
 「神・・・」
 「そうよ。」
 「・・・・」

 姫御子は困惑した。
ここが神の国と言われるなんて、不思議な夢だ。
ただ、違和感がある。
夢のはずなのに、夢でないような気がしてならない。

 「お茶でも飲む?」

 そう言って、巫女はテーブルにあるお茶を入れ姫御子の前に置いた。
出していただいたものを飲まないのも失礼かと思い、姫御子は一口飲んだ。

 「あ! 美味しい。」
 「それは良かったわ。」

 そう言って巫女も自分のお茶を一口飲んだ。

 「あの・・」
 「まあ、慌てないで。」
 「でも・・」

 あらあら、どうしましょう? という感じで巫女がため息を吐いた。

 「ここに来て貰ったのは、貴方に前世の記憶を戻すためよ。」
 「?」
 「態々(わざわざ)、ここに来て貰う必要はなかったんだけど、貴方の顔が見たくてね。
遠くから(たま)に貴方をみていたんだけど、それじゃ私が寂しいでしょ?」

 巫女の話は良く分からなかった。
なぜ私を知っていて、私に会いたがるのだろう・・。
でも・・・嬉しい。
何故なんだろう?
あれ・・涙が・・。
何故、私は泣いているのだろう?・・

 そう思ったら、何時の間にか巫女は私の隣に来ていて、私を優しく抱いてくれた。
安心する・・・。
姫御子は、なぜか、この巫女を母のように思った。
そんなはずは無いのに・・。
巫女に抱かれて安心してしまったせいだろうか、なぜか眠くなってきた。

 まずい!
眠たくなるなんて・・。
神様であるこの巫女に失礼だ。
でも、抱かれていると安心して力が抜ける。
このまま眠りたい。
でも、どうして眠たくなるの?
なぜ・・・。
意識が段々と遠のいていく。
遠くから巫女の声が聞こえる。

 「いいのよ、そのまま眠って。
目覚めた時、あなたは記憶を取り戻しているから。
安心して眠りなさい。
市、貴方は今度こそ解脱をするのよ。
そして、私の元へ戻って来なさいね。」

 姫御子は、遠のく意識で巫女の言葉を聞いていた。
だが、おそらく今話しかけられた内容は覚えていないだろう。
やがて姫御子は眠りに落ちた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み