第155話 忍び寄る影・・・ その3

文字数 2,052文字

 神薙(かんなぎ)巫女(みこ)はお鶴を部屋に案内すると、一度自室に戻った。
するとそれを見計(みはか)らったかのように、部屋のドアをノックされた。

 コン、コン・・

 「・・・どなたですか?」
 「助左(すけざ)です。」

 これは不味いのではないか?
私は助左に部屋での謹慎(きんしん)を言いつけた。
その助左が部屋を抜け出してきたのが見つかると不味い。
慌ててドアを開けた。

 だが、巫女として男性を部屋に入れることはできない。
困惑する神薙の巫女の表情を見た助左はニコリとした。

 「大丈夫です。
私の布団の中に服などを入れてふくらませ、私がふて寝をしているように見せています。
それとこの部屋の周りに人はいませんから安心して下さい。」

 「そうですか・・。
あの部屋へは・・。」

 「心配しなくても入りませんよ。
そんな事をしたら(せがれ)(なぐ)られます。」
 「祐紀(ゆうき)様が殴るなどと・・。」

 助左はいたずらに成功したような笑顔をする。
それにつられ神薙の巫女もつられて笑った。
神薙の巫女は、小さな声で咳をし、そして助左に聞く。

 「もしかして、先ほどの巡礼者の件ですか?」
 「ええ、一つお聞きします。」
 「なんでしょうか?」

 「あのお鶴(おつる)という女性は、この教会に泊まるのでしょうか?」
 「何故それを?」
 「やはり・・。」
 「あの・」
 「外で話しをしましょう。」
 「え? ええ・・。」

 神薙の巫女が玄関に向かおうと体の方向を変えたとき、助左がそれを止めた。

 「そちらではなく裏口から外に出ます。」
 「え?」

 助左は裏口の方にどんどん歩きだす。
あわてて神薙の巫女は後を追う。

 「あ、あの・・。」
 「話しは外に出てから。」
 「・・・はい。」

 助左は神薙の巫女に有無を言わさず裏口から外に出た。
そして生け垣に隠れ寄り添うように歩く。
人目を避けているのだ。
神薙の巫女は緊張し無言で助左の後ろをひたすら歩いた。

 裏口を出て10分も歩いただろうか・・・。
すこし見通しの良い場所に出た。
目の前に巨岩があり、そこに体を隠すように回り込んだ。

 「あの・・助左?」
 「お鶴は間者(かんじゃ)です。」
 「え?」
 「歩き方が武芸者のものでした。」
 「え?」

 「それにお鶴の手を握って確かめたのですが、手にタコがありました。」
 「タコ?」
 「おそらくクナイなど投げ道具の使い手でしょう。」
 「それであの巡礼の女性に突然積極的に求婚を?」
 「求婚?」
 「え、ええ・・。」
 「ああ、手を握るためそう言えばしましたね。」
 「・・・。」

 「まあ、そんな事はどうでもいい。
神薙の巫女様、彼奴(あやつ)の側に近づかないようにして下さい。」
 「え?」
 「何を考えてここに来たかわかりませんが、あの身のこなしは()の国の流派の者です。」
 「緋の国ですって!」

 「ですから近づかないように。」
 「・・・無理です。」
 「え?」
 「私はあの者の面倒を見るように神父様に言いつかっております。」

 「では神父様にお願いして・」
 「できません。」
 「え?!」
 「この教会の習慣により、最初に巡礼に声をかけられた者が世話をする事になっています。」

 「くっ!! やられたな、これは。」
 「え?」
 「おそらくそれを知っていて貴方に最初に声をかけたんでしょう。」
 「え?・・・。」

 助左は何か考え始めた。
その様子に神薙の巫女も何も言わずにじっと助左を見つめた。
やがて絶えきれなくなり神薙の巫女は助左に話しかけた。

 「あの・・。」
 「そうですね、このまま何もわからない振りをしましょう。」
 「え?」
 「緋の国が考えそうな事は、貴方の拉致(らち)でしょう。」
 「拉致?!」

 「おそらく小泉神官はこの教会の警備や、この村から出るルートを確認しに来たのでしょう。」
 「まさか!」
 「いえ、そう考えれば小泉神官の動きが説明できます。」
 「・・・。」

 「目的が貴方(あなた)の拉致ならば、貴方に危害は加えることはないでしょう。
そういう点では、ある意味安全といえるでしょう。」
 「・・・安全・・ですか。」
 「ええ、命を狙うことや怪我を負わせることはないので。」
 「安全と言えるのでしょうか?」
 「ふふふ、まぁ拉致という点では安全ではないですけどね。」
 「・・・。」

 「おそらく貴方を拉致するための者達がこの教会の周辺に集まってきているでしょうね。」
 「そう・・なのですか?」
 「ええ、ですから彼奴等(あやつら)が行動を起こしたときに一網打尽にしましょう。」
 「え! 武芸者は助左だけで、軍もここから離れた村の出入り口に数人しかいないんですよ!
それなのに私を拉致にくる者達を捕らえられるとは思えません!」

 「そう? まぁなんとかなるでしょう。」
 「・・・。」
 「大丈夫、心配しなくても。私と最高司祭様を信じて下さい。」
 「養父様を?」
 「ええ、信じられるでしょ貴方の養父である最高司祭様を。」
 「それは・・・はい、信じておりますが・・。」

 「ではそういう事で。では戻りますよ。」
 「・・・はい。」
 「くれぐれも自然体でお鶴に接して下さい。」
 「はぃ・・努力します。」

 こうして神薙の巫女はお鶴に気付かれないよう面倒をみることとなった。
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