第68話 祐紀・殿と老中への説得 4 (注意:残酷な描写あり)

文字数 1,757文字

 突然の天気の急変に驚いて庭をみていると、やがて雨が少し小降りになった。
急変した天気がすこし回復したのをみて、殿や老中らはホッとした。
あまりに異常な天気だったからだ。

 そして皆が小雨模様の空を見上げた時だった。
上空に何やら光る小さいものが雲間(くもま)に見えた。
皆が無意識に、その小さく光る点を見つめる。
その小さい光は、此方に向っているようで徐々に大きくなってくる。
かなりの速度だ。
異常な速度で大きくなりながら向ってくるため、思わず皆が後ろに仰け反る。

 やがて、近づいて来る物が何か分かった。
地龍である。

 目は不気味に赤く濁っている。
牙には血であろうか、べっとりとした赤い物がこびりついている。
よく見ると、口から赤いドロッとした液体が滴って糸を引いていた。
なんだろうと、目を眇め(すがめ)て口元を見ると・・
牙の間から、人の手と足が出ているのが見えた。
思わず息を呑んだ。
家老であろうか、 ヒッ! という短い悲鳴が聞こえた。

 やがて地龍は目の前でUターンをした。
巨大なんていうものではない。
恐怖で目が離せない。
目の前で鈍く光るどす黒い鱗が列をなし、ウネウネと揺れながら通り過ぎる。
そして、太いなんていうものではない胴が目の前から急に遠のいていく。

 その様子を皆が(ほう)けて見ていた。
地龍が見えなくなると、恐怖から解放され我にかえった。
ホッとして、お互いを確認しようとして固まった。
自分達が城中にいないことに気がついたからだ。
何時の間にか荒涼とした場所に移動をしていたようだ。
今居るのは、おそらく元は城下町だったのではないかと思える所だ。
家屋(かおく)は見る影も無く壊され、彼方此方(あちこち)(くすぶ)って煙が立っている。
屋根瓦の残骸が散乱し、折れた柱や木っ端が散乱している。
地震で壊れても、これほどに壊れることはない。
生やさしい壊れ方ではなかった。
辺りには人影はない。
しかし、遙か遠くで、子供であろう泣き叫ぶ声が聞こえる。

 散乱しているを見ると、土がドス黒く変色している。
よく見るとドス黒い中に何かある・・。
あれは人の腕ではなだろうか? 千切れて見る影も無い。
すこし離れたところには千切れた右足が転がっていた。
それも見渡すとものすごい数の手足が、あちらこちらに散らばっている。
土がドス黒いのは、血の跡なのではないだろうか・・。

 見るに堪えない光景に、皆は思わず目を(つむ)る。
しかし、再び目を開いて、さらに唖然とした。
景色が変わっていたのだ。
宿場町のような場所に自分達はいた。
自分達にいったい何がおきているかわからない。
分かるのは、先ほどと違う場所に自分達がいるということだけだ。
その場所は賑やかだった。

 往来には人が溢れ、活気に満ちていた。
人々は太陽の光を(まぶ)しそう見て行き来している。
ある者は微笑んで連れと会話をしたり、井戸端(いどばた)で騒いでいる。
また、旅籠の呼び込みは威勢のよい声を旅人にかけていた。

 そんな時、突然、太陽が隠れ急に暗くなる。
晴れていたのに、あれよあれよという間に黒い雲が空を覆う。
するとどこからともなく地龍が現れた。
地龍は急降下すると、旅籠のある道を歩くかのように道に沿って飛ぶ。
その時、地龍は口を開け道を歩く人々を次々と飲み込み、噛み砕いて駆け抜けた。
後には幾ばくかの千切れた手や足が残っただけだ。
喰われた人々は悲鳴すら上げる暇もなかった。
あれ程いた人々は一瞬で往来から居なくなった。
その直後、その様子を家の中や、路地にいて見た人々から悲鳴が上がった。

 しかし、惨事はこれで終わらなかった。
次の瞬間、雷鳴が轟いたと思ったら、宿場町の彼方此方(あちらこちら)に幾つもの雷が落ちる。
落ちる度に旅籠などが木っ端みじんに砕け散り跡形もなくなる。
そして雷の落ちた所から火災が発生した。
やがて地龍が戻って来て、雷で壊れなかった家々に突っ込み破壊をする。

 その光景を見て
 「止めろ!」
思わず誰かが叫んだ。

 その叫び声が合図となり、何時の間にか城中に戻っていた。
殿を始め、老中、佐伯は広間で呆然とした。
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