第39話 姫御子の動揺 : 緋の国の野望・・

文字数 2,419文字

 「()の国の巫女と神官については分かったな?」
 「はい。」
 
 「さてと、次は緋の国と(いん)の国の関係だ。」
 「関係、ですか?」
 「ああ、そうだ。それが祐紀(ゆうき)殿にかかわってくる。」
 「?」
 
 姫御子(ひめみこ)はポカンとしてしまった。
神社関係者である祐紀様に、国どうしの(いさか)いが関係あるとは思えない。
そう思い眉間(みけん)(しわ)を寄せた。
養父は姫御子の顔を見て、苦笑いをした。

 「まあ、聞きなさい。」
 「え・・、はい。」

 「緋の国なのだが陰の国を欲しているのだ。」
 「それは何故ですか?」
 「緋の国では自然災害が度々発生し、作物が不足しているのだ。」
 「でも、それは自業自得であり、陰の国は関係ないではないですか?」
 「まあ、理屈ではそうなる。」
 「理屈・・では、ですか?」

 「よく考えてみなさい。」
 「?」
 「自分の家が貧しく食べるものがなかったとしよう。」
 「はい・・?」
 「隣の家では食べきれないほど、食べ物があったとする。」
 「・・・。」
 「自分の家は武勲にすぐれ、隣の家はひ弱で力でなんとでも出来たとしたらどうする?」
 「え? まさか力ずくで食べ物を奪い取るとでも?」
 「人とはそういうものだ。」
 
 「そして、緋の国と陰の国がまさにその関係なのだ。」
 「しかし国と国どうし、そんな簡単に戦争などするわけがないかと・・。」
 「そうだ、今はな。」
 「?」
 「ただ陰の国には戦争をする理由はないが、緋の国にはある。」
 「それは自分勝手な理由じゃないですか?」
 「そうだ、それが人間であって国なんだ。」
 「・・・」
 「ただ、陰の国も馬鹿ではない。緋の国の動向はわかっているであろう。」
 「・・・」

 「では、お前が緋の国の為政者(いせいしゃ)ならどうする?」
 「それは、戦争をしたい場合ですか?」
 「そうだ。」
 「そんな・・。」
 「考えてみなさい。」

 姫御子は仕方なく()の国について考えてみた。
戦争を行うには、相手国に戦争をするための理由が必要だ。
ならば、どうする?
陰の国が緋の国に戦争をしかけるとは思えない。
ならば、陰の国が緋の国を貶めたとか、戦争をしかけたという嘘を吐かなければならない。
いや、そう見せなければならない・・。
なら、どうする?

 姫御子は考える・・。
そういえば祐紀様の話をしていたんだっけ・・。
なのに緋の国の話しを養父様はし始めた。
なんで緋の国の話しを交えているのだろう?

 祐紀様が()の国に来ることでさえ大事(おおごと)だ。
もし、祐紀様が緋の国に行ったとなると・・。
あ!

 「父上、もしや祐紀様が絡んできますか?」
 「そうだ。」
 「例えば祐紀様が緋の国に捕らえられ、緋の国が陰の国に亡命してきたのだと言ったら?」

 「・・続けなさい。」
 「陰の国には、そのようなことが納得できるとは思いません。」
 「うむ。」
 「陰の国が何と言おうが、緋の国が祐紀殿を返さないならば・・。」
 「正解だ。戦争となっても不思議はない。」
 「そんな恐ろしい事を本当にするものなのでしょうか?」
 「疲弊した緋の国ならやっても可笑しくはないだろう。」
 「人とは、いえ、国とは恐ろしいものですね・・。」
 「そうだな・・。」

 「もしかして小泉神官は、緋の国を手伝っているのですか?」
 「たぶん、そうだろう。」
 「何のメリットがあるのでしょう?」
 「わからないが、おそらく金銭、そうでなければ緋の国の爵位(しゃくい)かもしれんな。」
 「緋の国の爵位?」
 「ああ、緋の国が陰の国を手中に収めたら、陰の国の一部を与え爵位も貰うとかだ。」
 「・・・」

 「もしかして陰の国が私を貶め(おとしめ)たという噂も小泉神官が?」
 「おそらくそうであろう・・。」
 「なぜ、そのような噂を?」
 「陰の国を貶めて、緋の国をよい国に見せる。世論操作の下地であろうな。」
 「そんなことをしても陽の国にメリットはないではないですか?」
 「陽の国にはないが、小泉神官にはある。」
 「えっと・・、それは緋の国へ協力をしたという事でですか?」
 「そうだ、それ以外にもある。」
 「?」

 「もし、姫御子が噂を気にしていた場合、その噂対策をすると持ちかけて恩もうれる。」
 「・・・確かに、それと思われる行動が・」
 「あったのか!」
 「え、ええ・・。」
 「なんでそれを言わん!」
 「すみません、持ちかけられましたが振り切れましたので・・。」
 「そうなのか!・・、まぁ、そうであればよい。小泉神官に言質さえ取られなければな。」
 「はい。」

 「小泉神官から接触があった場合の対策を考えんといかんな・・。」
 「え?・・。」
 「まあ、よい、それよりも気を付けなければならないことがある。」
 「・・・それは何ですか?」
 「祐紀殿がこちらに来た時に、小泉神官が祐紀殿を緋の国に連れ去ることだ。」
 「なっ! そ、そのような事!」
 「さっきお前が言ったではないか、緋の国が陰の国と戦争をするための筋書きを。」
 「あ!」

 姫御子は青ざめた。
私の御神託の手伝いに来て下さった場合、危険にさらしてしまうなんて!

 まずい、どうすればいい?
祐紀様には事情を話して、こちらに来るのをやめてもらおう。
御神託は私だけの力でなんとか乗り切ればいいだけの話しだ。
祐紀様に迷惑はかけられない。

 「養父様、祐紀様にはお越しの件、お断りの(ふみ)を送ります。」

 それを聞いた養父は別に驚かなかった。
国と国との問題に陽の国を巻き込むわけにはいかないからだろう。
いくら私の御神託のためとはいえ。
そう思ったのだが・・。
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