第117話 阿修羅、欲求不満をはらす・・

文字数 2,401文字

 阿修羅(あしゅら)は自分の執務室に戻ってきた。

 部屋のドアを開け、室内を見回すと・・・。
執務机で帝釈天(たいしゃくてん)が寝ていた。
書類は一切片付いていない。
どうやら帝釈天は何もせず寝ていただけのようだ。

 阿修羅は怒りで顔が赤くなる。
部屋のドアを乱暴に閉め、帝釈天の元に向かった。

 「おい! 起きろ!」

 大声で怒鳴ったのだが、帝釈天に起きる様子はない。
阿修羅は帝釈天の座っている椅子を蹴飛ばした。

 椅子は慣性の法則に従う。
帝釈天をその場に残し、蹴られて突進して壁にぶつかった。
帝釈天はというと・・。

 ドン!

 椅子がなくなり、そのまま腰を床に打ち付ける。

 「痛っ!!!! な、何だ!!! 何が起こった!」
 「おい、起きたか?」
 「あん?・・、おう阿修羅か・・飯の時間になったか?」

 その言葉を聞いて、阿修羅は満面の笑みを作る。
冷え冷えとする笑顔だ。

 「ほう・・、仕事もせずに飯を食うのか?」
 「え?!」

 帝釈天は思い出した。
牛頭馬頭の調査書を焼き払った後、しばし考え事をしていたのを。
そして、あれこれと考えているうちに寝てしまったようだ。

 そういえば阿修羅の机の書類の処理、何もしてなかったっけ?
そう思い床に打ち付けた尻を撫でながら立ち上がる。
そして執務机の上の書類を確認した。

 「ああっと・・、うん、何も仕事してなかったみたいだな、俺。」

 阿修羅は笑みを崩さず、肯く。
何も言わないのが怖ろしい。

 「まあ、なんだ、お前も帰ってきたことだし後は任せた。」

 阿修羅は笑顔をやめた。
無表情になる。
それを見て帝釈天はヤバい、と、思った。
だが、現状、何を言い訳してもどうにもならないだろう。
帝釈天は開きなおることにした。

 「で、次元転送の研究所の始末は?」
 「俺が失敗でもするとでも?」
 「あ、いや・・、そういうわけでは無いが?」
 「じゃあ、どういう意味だ?」
 「お前、機嫌がよくないな?」
 「いいように見えるか?」
 「・・・見えたら目の病気かな?
 うん、見える、見えるぞ、医者に行ってきていいか?」

 「医者に行くフリをして逃げられると思っているのか?」
 「・・・いや、無理があるか・・、困ったな~。」

 まったく困った様子のない帝釈天に、阿修羅は溜息を吐く。
無表情の顔から、何時もの顔にもどる。

 「俺は今、欲求不満だ。
 次元転送の研究所の始末は手応えがなかった。
 準備運動以前の問題だ。
 まあ、次空間爆弾を持ち出したのは面白かったがな。」

 「何! 次空間爆弾だぁ!
 地獄界に何でそんなものがある!」

 「知るか! 俺も知りたいくらいだ。」
 「まったくどうなっている地獄界は・・。」

 「をぃ! その前に何か言うことはないのか?」
 「?」
 「俺が次空間爆弾を喰らったんだぞ。」
 「だから?」
 「・・・。」
 「お前なら次空間爆弾なんて蚊に刺されたようなもんだろ?」
 「お前なぁ、一歩対処を間違えると死んでいたぞ?」
 「お前が対処を間違えるはずないだろう?
 どうせ余裕で、爆弾を喰らいながら入手ルートでも考えていたんだろう?」

 図星である。
阿修羅はいやな顔をした。
帝釈天はさらに話す。

 「お前のことだ、ふがいない連中の相手で欲求不満だ。
 戻って来て俺をオモチャにしようと考えたんだろう?」

 「良く分かったな。」
 「・・・マジかよ?」
 「ああ、だから俺の相手をしろ。」
 「やだ!」

 「ほう、ほう、ほう・・・。
 俺に次元転送の拠点を片付けさせただけか?
 俺の仕事を全く手伝わないで?
 さらに俺がお前のせいで欲求不満になったというのに?」

 「おぃ待て!
 次元転送の拠点を片付けたいと言ったのはお前だ!
 それで欲求不満になるのは俺のせいではない!」

 「ほう・・。
 では、俺が次元転送の拠点の処理を行っている時にだ・・。
 俺の仕事を全く手伝わなかったお前は何だ?」

 「あ、いや、それは・・・。」
 「それは?」

 帝釈天は言葉に詰まる。
阿修羅は何時の間にか、また無表情になっていた。

 帝釈天は阿修羅の顔を見て、ゴクリ、と、唾を飲み込む。
これは不味い、そう思った。
帝釈天は一度、天井を仰ぐ。
そして、阿修羅の方を向いて答えた。

 「阿修羅、じゃあ俺と遊んでくれ・・。」
 「最初から素直にそう言え!」
 「・・・ああ、悪かった。」
 「じゃあ、これから道場に行くぞ!」
 「あ、おい、待て!」
 「ん?」
 「今日、やるのか?」
 「当たり前だろう?」
 「あ、いや、今日、今日ね~、今日か。」

 阿修羅が目を細めた。
それを見て、帝釈天は両手を突き出して手をアタフタと振る。

 「い、いや、うん、そうだ、そうだよね、今日にしよう。」
 「じゃあ、行くぞ!」
 「あ、まて昼飯にしよう!」
 「だめだ、昼飯は後だ!」
 「えええええ! 腹が減っては戦ができないというだろう?」
 「腹が減って戦ができねば、戦場では殺されるぞ!」
 「え? いや、そういう問題では?」
 「では、どういう問題だ?」
 「・・・。」
 「では、道場に 

!」
 「あ・・、ああ。」

 こうして帝釈天は阿修羅に引っ張られて道場に連行された。
そして昼もとらず業務終了時間、いや、夕飯まで試合をすることとなった。
それも神力での真剣勝負。
一歩間違えると死んでも不思議はない。
そんな激闘であった。
勝負はというと、決着がつかず引き分けである。

 道場から出るとき、阿修羅は充分に満足し満面の笑みであった。
帝釈天はゲッソリとした顔をしていた。
仲の良い二柱であった。
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