第255話 陽の国・裕紀
文字数 2,031文字
「これが陽の国の都なのですね・・。」
目を輝かせ裕紀 は感激の声を上げる。
「これ裕紀、はしゃぐでない!
ま、周りがこちらを見て笑っているではないか!」
「え?!」
「まるで田舎から出てきた者のようで、儂 は恥 ずかしい・・。」
「そうで御座いますか?
でも、建物も人の服装も我が国とは異なり感激せずにはおれません!」
「ううぬ・・、これなら儂ではなく亀三 をお前につけるのであった・・。」
「え? だって亀三と来ようとしたら、養父様が反対したではないですか?
最後まで亀三は一緒に来ようとしていたのに・・。
それに私は養父様の腕前をこの目で見ていないので信用していな・・」
「裕紀・・。」
「あ! えっと、あ、あははははははは。」
裕紀は途中から笑って誤魔化 した。
そんな息子の態度に、養父は少し怒る。
「お前、養父である儂の言葉を信じられないのか!」
「え~・・・っと。」
「なんで目をそらす!」
「あ・・、いえ、あ! あの店を見て下さい!
珍しいお菓子が!」
「バカ者! 見え見えの手を使いおってからに!」
通り過ぎる人のなかには、そんな二人を微笑 んで見ている人がいた。
喧嘩 して歩く二人の様子が、仲のよい親子に見えたのであろう。
そんな二人の格好 はというと、行商人 の姿である。
背中には行商人らしく大きな風呂敷を背負っている。
衣装は猪座 が用意してくれたものだ。
どこからどう調達したのかはわからない。
聞いても教えてはくれなかったのだ。
しばらく大通りを歩いて行くと、見回りの役人に声をかけられた。
「その方ら、他国からの行商人か?」
「へぇ、そうで御座います。」
養父が答える。
裕紀は養父の隣で、軽く頭を下げた。
「道中手形を見せろ。」
「あ、はぃ。」
そう言って懐から道中手形を出して養父は見せた。
役人は道中手形に、なにやら見慣れない道具のような物をあてる。
どうやら偽物か本物かを見分ける道具のようだ。
役人は道具を懐にしまい、念のためであろうかもう一度通行手形の裏表を見た。
そして何度か道中手形を手でなぞる。
手触りも確認しているようだ。
役人は道中手形を養父の前に差し出した。
「うむ・・、よし、行ってよいぞ。」
「へぇ、お勤 めご苦労様で・・。」
養父と裕紀はまたゆっくりと大通りを歩きはじめた。
道中手形は猪座が用意をしてくれたものだ。
道中手形は国が厳重な管理をしており、また発行に際しては吟味 が厳しい。
そう簡単に手に入るものではない。
ましてや猪座はこの国では目をつけられており、なぜ入手できたのかが不思議であった。
なぜなら猪座は殿に捨てられ、重役から命を狙われた過去があるからである。
その猪座が都に二人が発つという日に、何も言わずに差し出したのである。
養父は道中手形を使い、もし何かあれば猪座に迷惑がかかると思い一度は受け取りるのを断った。
だが、猪座は妻ともども命を救われた恩義が返せていないと無理矢理渡してきたのだ。
押し問答の末、養父が折れた。
ありがたく頂くことにしたのである。
おかげで大手を振って、こうして陽の国の都を歩けているのである。
裕紀は楽しそうであった。
理由は簡単である。
霊能力者である裕紀は、そう簡単には他国に旅をすることができない。
それは国から許可がおりないからだ。
それが養父と二人でこうして他国を歩いているのだ。
しかも自国とは異なる文化を目の当たりにしているのだから・・。
だが・・・。
裕紀の心情は複雑であった。
神薙 の巫女 に、一刻も早く会いたいという焦 りがある。
神薙の巫女の顔を思い出すと胸が苦しくなる。
それというのも裕紀には何処にいるのか分からず、また分かったとしても会える保証はないのだ。
そう考えると、この人でごった返している大通りで大声を上げたくなる。
そんな気持ちを紛らわすため、裕紀ははしゃいでいるのである。
養父もそれをわかっており、その事はおくびにも出さない。
やさしい言葉をかけるのは簡単だ。
言葉より知らない振りをしているほうが、息子は気が楽であろうと考えたからである。
年の功 というやつである。
「裕紀よ、今日止まる宿を決めよう。」
「そうですね・・。
これだけ人が多いと、宿も取れるか心配です。」
「なぁに心配には及ばん。」
養父の自信ありげな言葉に、裕紀は首を傾げる。
「懇意 にしている宿でもあるのですか?」
「おお、あるぞ。」
「え?!」
「何を驚いておる?」
「なぜ養父様は、この国で懇意にしている宿があるのですか?」
「あ~、それか・・、まぁ、それは、ひ・み・つ。」
「・・・・。」
「ん? どうした?」
「中年の、それも男に、女子がするような仕草で、ひ・み・つ と言われても・・
気色が悪いです。」
「そうか? これでキュンとする男もおるのだぞ?」
「・・・養父さま・・。」
裕紀から、ため息がでた。
そんな裕紀にお構いなしに、養父は突然立ち止まる。
「養父様?」
「ここが今日泊まる宿だ。」
そこには高級そうな宿があった。
目を輝かせ
「これ裕紀、はしゃぐでない!
ま、周りがこちらを見て笑っているではないか!」
「え?!」
「まるで田舎から出てきた者のようで、
「そうで御座いますか?
でも、建物も人の服装も我が国とは異なり感激せずにはおれません!」
「ううぬ・・、これなら儂ではなく
「え? だって亀三と来ようとしたら、養父様が反対したではないですか?
最後まで亀三は一緒に来ようとしていたのに・・。
それに私は養父様の腕前をこの目で見ていないので信用していな・・」
「裕紀・・。」
「あ! えっと、あ、あははははははは。」
裕紀は途中から笑って
そんな息子の態度に、養父は少し怒る。
「お前、養父である儂の言葉を信じられないのか!」
「え~・・・っと。」
「なんで目をそらす!」
「あ・・、いえ、あ! あの店を見て下さい!
珍しいお菓子が!」
「バカ者! 見え見えの手を使いおってからに!」
通り過ぎる人のなかには、そんな二人を
そんな二人の
背中には行商人らしく大きな風呂敷を背負っている。
衣装は
どこからどう調達したのかはわからない。
聞いても教えてはくれなかったのだ。
しばらく大通りを歩いて行くと、見回りの役人に声をかけられた。
「その方ら、他国からの行商人か?」
「へぇ、そうで御座います。」
養父が答える。
裕紀は養父の隣で、軽く頭を下げた。
「道中手形を見せろ。」
「あ、はぃ。」
そう言って懐から道中手形を出して養父は見せた。
役人は道中手形に、なにやら見慣れない道具のような物をあてる。
どうやら偽物か本物かを見分ける道具のようだ。
役人は道具を懐にしまい、念のためであろうかもう一度通行手形の裏表を見た。
そして何度か道中手形を手でなぞる。
手触りも確認しているようだ。
役人は道中手形を養父の前に差し出した。
「うむ・・、よし、行ってよいぞ。」
「へぇ、お
養父と裕紀はまたゆっくりと大通りを歩きはじめた。
道中手形は猪座が用意をしてくれたものだ。
道中手形は国が厳重な管理をしており、また発行に際しては
そう簡単に手に入るものではない。
ましてや猪座はこの国では目をつけられており、なぜ入手できたのかが不思議であった。
なぜなら猪座は殿に捨てられ、重役から命を狙われた過去があるからである。
その猪座が都に二人が発つという日に、何も言わずに差し出したのである。
養父は道中手形を使い、もし何かあれば猪座に迷惑がかかると思い一度は受け取りるのを断った。
だが、猪座は妻ともども命を救われた恩義が返せていないと無理矢理渡してきたのだ。
押し問答の末、養父が折れた。
ありがたく頂くことにしたのである。
おかげで大手を振って、こうして陽の国の都を歩けているのである。
裕紀は楽しそうであった。
理由は簡単である。
霊能力者である裕紀は、そう簡単には他国に旅をすることができない。
それは国から許可がおりないからだ。
それが養父と二人でこうして他国を歩いているのだ。
しかも自国とは異なる文化を目の当たりにしているのだから・・。
だが・・・。
裕紀の心情は複雑であった。
神薙の巫女の顔を思い出すと胸が苦しくなる。
それというのも裕紀には何処にいるのか分からず、また分かったとしても会える保証はないのだ。
そう考えると、この人でごった返している大通りで大声を上げたくなる。
そんな気持ちを紛らわすため、裕紀ははしゃいでいるのである。
養父もそれをわかっており、その事はおくびにも出さない。
やさしい言葉をかけるのは簡単だ。
言葉より知らない振りをしているほうが、息子は気が楽であろうと考えたからである。
「裕紀よ、今日止まる宿を決めよう。」
「そうですね・・。
これだけ人が多いと、宿も取れるか心配です。」
「なぁに心配には及ばん。」
養父の自信ありげな言葉に、裕紀は首を傾げる。
「
「おお、あるぞ。」
「え?!」
「何を驚いておる?」
「なぜ養父様は、この国で懇意にしている宿があるのですか?」
「あ~、それか・・、まぁ、それは、ひ・み・つ。」
「・・・・。」
「ん? どうした?」
「中年の、それも男に、女子がするような仕草で、ひ・み・つ と言われても・・
気色が悪いです。」
「そうか? これでキュンとする男もおるのだぞ?」
「・・・養父さま・・。」
裕紀から、ため息がでた。
そんな裕紀にお構いなしに、養父は突然立ち止まる。
「養父様?」
「ここが今日泊まる宿だ。」
そこには高級そうな宿があった。