第110話 阿修羅・帝釈天と会うために地獄に行く・・

文字数 2,584文字

 阿修羅(あしゅら)は地獄界に行くことにした。
帝釈天(たいしゃくてん)に会うためだ。

 おそらく今頃は帝釈天(たいしゃくてん)は騒ぎを起こしているはずだ。
牛頭馬頭(ごずめず)に会いに行ったのだろうから。
牛頭馬頭の近くで騒ぎのある場所にいけば、帝釈天と会える、そう思ったのだ。

 情報部の者は、地獄への次元移動は特に許可を必要としない。
そのため阿修羅(あしゅら)は、閻魔大王と別れると即座に次元移動した。

 そして、牛頭馬頭がいる場所に来てみたら面白い光景が目に入ってきた。
帝釈天と牛頭馬頭が対峙していたのだ。

 これは何だ?
決闘か?
そう思った瞬間、牛頭馬頭(ごずめず)と帝釈天がぶつかり合った。

 「ほう・・・。
 牛頭馬頭の二人、それなりにやるではないか。
 まあ、帝釈天の相手にはちょっと物足りないようだが。
 そういえば俺も彼奴(あいつ)と最近、手合わせをしていないな。
 今度、誘ってみるか・・。」

 そう思いながら、対決を見守った。
するとどうしたことか、帝釈天の動きが可笑(おか)しい。
寸止め(すんどめ)と思われる()りを放ったあと、片膝をついたのだ。
それも、寸止めが(わず)かに牛頭馬頭に当たった。
帝釈天にしては、有り得ない状態を()の当たりにしたのだ。

 「おいおい、帝釈天、何をやってやがる?」

 蹴られた牛頭馬頭は地面を()ねながら転がっていく。
やがて静止した。

 牛頭馬頭に立ち上がる様子はない。
どうやら今の蹴りが()いて、動けないようだ。
この状態なら、たやすく帝釈天は息の根を止められる。
それは、彼奴等(あいつら)でもわかるはずだ。

 これなら、俺が出て行っても決闘妨害とは言えまい。
すでに決着がついているのだから。

 そう思い瞬間移動で帝釈天の直ぐ側に移動した。
そして間近で帝釈天を見て、状況が分かった。
どうやら毒を飲まされ、呼吸ができないようだ。

 阿修羅はあきれた。
毒物など飲む前に分かったはずだ。
此奴(こいつ)のことだから、毒だと知っていて飲んだに違いない。
目的はなんだ?
・・・・
まあ、なんとなく彼奴が考えそうなことはわかるが・・。
これは奪衣婆様に報告してお説教を(もら)うべきだな。

 そう思っていると精神干渉で帝釈天が話しかけてきた。

 『阿修羅よ、今、おれは決闘中だ。』
 『ふん、何が決闘中だ。
 三下(さんした)を相手に、決闘も何もないだろう。』

 『そうか? だが、お前は見ていて面白かっただろう?』
 『やはり俺が見ていた事に気がついていたか?』
 『まあな。』
 『で、(とど)めを刺しにいかないのか?』
 『バカかお前は!』
 『バカ? お前には言われたくないな。』
 『ふん、お前に話しただろう?
 母と閻魔大王に、此奴等(こやつら)を生かしておいて欲しいと頼まれたのだ。
 止めを刺してどうする。
 俺は依頼をキチンとこなすだけだ。』

 『はぁ・・、分かったよ、で、どうする?』
 『俺は今、しゃべれん。
 まあ精神干渉で話してもいいが・・。
 彼奴等(あいつら)は、たぶん俺の説得なんか聞かんだろう。
 お前が説得し、負けを認めさせてくれ。』

 『まあ、よかろう。
 で、どのくらい毒に対抗できる?』

 『そうだな・・、あと10時間といったところか・・。』
 『結構強い毒を飲まされたな。』
 『まあな・・。』

 『毒を飲んだことは、奪衣婆(だつえば)様に報告だな。』
 『をぃ! 待て!! それは(ひど)くないか?』

 『心配をかけるような事をしたんだ。
 叱られろ!
 じゃあ、俺は牛頭馬頭(ごずめず)の説得に行ってくるぞ。』

 そういって阿修羅は牛頭馬頭の方に行く。

 帝釈天は、すこし天を仰いだ。
母の説教は身にしみるんだよな・・。
彼奴(あいつ)は絶対に母に言うだろうな。
まあ仕方が無いか、怒られるような事をしたんだ。
母の願いでもあるから、この仕事引き受けたけどなぁ・・。
引き受けた仕事で母に怒られるなんて、割にあわないよな・・。

 そう思った時だ。
阿修羅が牛頭馬頭に向かいながら精神干渉で話しかけてきた。

 精神干渉は、相手の気配を感じる範囲ならどこからでも話せる。
つまり気配を感じる能力により、話せる距離が異なる。
阿修羅なら、地獄界の何処からでも牛頭馬頭と話しができただろう。

 しかし、精神干渉ができない相手に突然話しかけるのはよくない。
話しかけられた相手は、突然頭に響く声にパニックになるだろう。
牛頭馬頭は精神干渉ができない。
これは調査ずみだ。
だから、牛頭馬頭には精神干渉でなく普通に話さねばならない。
そのため阿修羅は牛頭馬頭の所へ歩いて向かっているのだ。

 精神干渉では特定の者、特定者を含めた周囲の者に話すことができる。
普通の会話でひそひそ話と、少し大きな声で周りに聞こえるように話す違いと同じだ。

 つまり、牛頭馬頭には聞かせないで帝釈天とだけ話すこともできる。
阿修羅は牛頭馬頭の元へ歩きながら、帝釈天だけに話しかけてきたのだ。

 『なぜ毒など飲んだ?』
 『いや、なんていうか、それの方が彼奴等から情報が取れやすいかと。』

 『あいかわらず考え無しだな、お前は。』
 『そうでもないぞ、即死はしない毒だからな。』
 『だからと言って毒を飲むのはお前くらいだ!』
 『そうか? だが、有効な方法だろう?』
 『・・・・。』

 『実際、有効な話しも聞けたことだし、褒めていいんだぞ?』
 『やはり、奪衣婆様に怒られるべきだな。』
 『なっ!』
 『二度とバカな真似をさせないためにも必要な措置だ。』
 『・・・お説教は確定事項か?』
 『諦めろ。』

 『・・・諦めろといわれてもなぁ。
 お前も俺の母に叱られたことあるだろう?』
 『ああ、あれは心臓に悪いし、骨身に()みる説教だ。』
 『だからさ・』
 『ダメだ、怒られろ!』
 『・・・。』
 『後で得た情報は聞いてやる。』
 『・・ああ、分かった。』

 そうこうするうちに阿修羅は牛頭馬頭の側に辿(たど)り着いた。
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