第48話 権禰宜見習いの来訪:その1

文字数 2,224文字

 祐紀(ゆうき)の神社に書状が届いた。

 書状は青木村(あおきむら)の庄屋からであった。
祐紀の養父でもあるこの神社の宮司(ぐうじ)は、この書状を見て(いぶか)しんだ。

 (まと)めると以下の内容だった。
  青木村に農民のため神社を建立(こんりゅう)したい。
  ひいては権禰宜(ごんねぎ)候補を差し向けるのでご指導ご鞭撻を賜りたい。
  1週間後にそのもの達を差し向ける。
  峠で祐紀と会ったことがある、これも何かのご縁かと思う。
  青木村の宮司を祐紀殿の片手間でよいからお願いしたい。

 体の良い(ていのよい)願い状ではあるが、実質は有無を言わさぬ内容である。
確かに宮司よりは庄屋の方が偉いこともあるが・・。
仮にも国の神事を(つかさど)る神社に対して無礼(ぶれい)とも取れる。

 「まあ、よいか・・礼儀作法や祭礼方法くらいは教えてやらんでもない。」

 しかし、と思う。
仮にも神社の継嗣(けいし)である祐紀に、青木村の神社の宮司になれだと?
一体何を考えているのだろう?
青木村の神社の宮司なら、別の神社の宮司に兼任してもらえばよい。
なのに、なぜここなのだ?
確かに、要請は見当違いではない。
ないが、普通は国の祭事を司る神社になど依頼はしない・・。

 「まあ、よいか・・、祐紀以外については返事をしても。」

 そう呟くと、宮司は返事を(したた)めた。
内容は権禰宜(ごんねぎ)教育は引き受けるが、祐紀は諸事情により引き受けないというものだ。
当たり障りの無い返事であった。

====

 青木村(あおきむら)からの権禰宜(ごんねぎ)の指導を(うけたまわ)りたいという二人がきた。
神主(かんぬし)衣装(いしょう)を着ての来社である。
対応は配下の権禰宜に任せていた。

 宮司は社務所(しゃむしょ)で事務処理を行っていた。
国の祭事を(つかさど)るとなると、かなり多忙な身である。
一分一秒もおしい。
特に祐紀がいなくなってから仕事が増えている。
祐紀はかなり優秀で事務処理も、そつなく(こな)していたようだ。

 そんな宮司に、青木村の権禰宜(ごんねぎ)教育を任せた者が報告に来た。

 「いかがした?」
 「それが・・、その・・。」
 「何じゃ?」
 「教育は宮司様にお願いしたいと・・。」
 「・・・。」

 厚かましいにも程がある。
一瞬、そう思った。
しかし、青木村(あおきむら)からの書状といい、権禰宜(ごんねぎ)見習いといい、何か変だ。
どうにも引っかかる。
たしかに庄屋の力というのは(あなど)れない。
このような要望があっても可笑しくはない。
実際、過去にもこのようなことはあった。
神社として(つな)がりを持ちたいとか、(はく)をつけたいとかの理由で。
だが・・。
何かがひっかかる。

 「お前からみて、権禰宜(ごんねぎ)候補をどう見た?」
 「は?」
 「お前が感じた感想だ。」
 「え?」
 「印象でよい、話せ。」

 「はあ、まあなんというか村人とはいえないような・・。」
 「どういう感じなのだ?」
 「物腰は柔らかく、言葉使いも村人そのものですが・・。」
 「はっきりと申せ。」
 「なんといいますか・・、そう、すこし抑揚(よくよう)が・・。」
 「違和感を感じるのか?」
 「気になるほどではなく、断言できるほどではないのですが・・。」

 「他には?」
 「今まで見てきた権禰宜(ごんねぎ)候補にしては、ちと体躯(たいく)がしっかしてます。」
 「ほう・・。」
 「なんといいますか、神社の修行でできる体躯(たいく)とは違います。」
 「ふむ・・。」
 「まあ、山仕事などしていたのかもしれませんが・・。」

 宮司は腕を組んで考え始めた。
やはり、今までの権禰宜(ごんねぎ)候補を託された様子とは違う気がする。
それに来た初日に宮司に、というのも早急過ぎる依頼だ。
教育課程で、教育係が自分の教える範囲を超えての要請ならわかる。
なぜ、そんなに急ぐ?
まあ、神社を早急に建立(こんりゅう)したいという現れかもしれない。

 しかし・・、神社には神社のやり方がある。
それさえも知らないのか?
いや、そういえば青木村に神社が存在したことは無かったな。
可笑(おか)しくはないかもしれない。
だが・・。
何かが可笑しい。

 申し出を無碍(むげ)にしても問題はない。
しかし・・。

 「分かった、会ってみよう。」
 「では、ここに連れて来ますか?」
 「いや、そうだな・・、今、滝修行(たきしゅぎょう)をしている者はおるか?」
 「いえ、今は誰もいません。」

 「では、その者を滝まで連れて参れ。」
 「え、いきなり滝修行ですか?」
 「うむ、儂が根性をみてやろう。」

 「かの者の荷物は、ここで預かり行かせますか?」
 「まだ受け入れたわけではない。荷物を持ったまま来させよ。」
 「わかりました。白装束(白装束)は用意しますか?」
 「いらんだろう、(ふんどし)一丁でやらせればよい。」
 「それでは、そのように。」

  権禰宜はそういうと戻っていった。

 「さて、久しぶりの滝修行じゃ、儂も着替えていくか・・。」

  そういうと宮司は意味深な笑顔を浮かべた。
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