第22話 都へ行ってみるか・・、マタギとの遭遇

文字数 1,792文字

 成人の義の翌日、祐紀は神社を朝早く出立(しゅったつ)した。
殿様との面会を行うための下地をつくるためだ。

 宮司は身の安全を心配して、

を付けようとしたが断った。
人数が多くなると目立つし、身動きが遅くなるという理由をつけて。
とうぜん宮司は難色を示したが、なんとか説き伏せた。

 そして、今、祐紀は都を目指して移動中だ。

 馬の手綱(たずな)を握りしめながら、慌てる旅でもないのでユックリと馬に揺られる。
さてと、どうしようか・・。

 祐紀は宮司に、殿様と重臣を集めて()の国に行くことを説得してみせると豪語した。
したのだが・・。
そのためにどうするか、何も考えていなかった。

 「まあ、都に行ってから考えればいいかぁ~・・・。」

 なんともお気楽ともとれる性格である。

 さて、それでは何故無計画に、このような行動をとっているのか、だが・・。
それを説明するためには、祐紀の生い立ちを説明しなければならない。

 祐紀は神社の継嗣(けいし)(跡継ぎ)で(かしず)かれて育った。
しかし、我が儘(わがまま)しほうだいの世間知らず、お坊ちゃまに育ったわけではない。

 神社は信仰を集める組織だ。
信仰は力だ。
過去の歴史では、信者を兵隊にし謀反を起こしたこともある。
宮司などは、ある種の権力者ともいえる。

 では、権力者は何を望むか・・。
神社の権力をより高めることを望むのは自然の理ともいえる。
そのために、他の神社を貶めることもある。
ではどうするか・・。
簡単なのは神社の宮司、特に継嗣を(おとし)めて排除するのが簡単だ。

 そして、権力者になりたいと思うものはどうするのだろうか?
跡継ぎ騒動だ。

  (さいわ)い、祐紀は同い年より傑出した洞察力、記憶力、精神力があった。
それに御神託を受ける能力、そして人には話していないが別の能力も有る。
加えて、祐紀は養子の一人っ子であるため、お家騒動は心配ない。
いや、宮司が親戚を黙らせた、というべきだろうか。

 このような背景から、神社の継嗣は足下をすくわれないように育てられる。
祐紀も当然、そのように育てられた。
その結果、四六時中(しろくじちゅう)絶えず人目がある中でも自分の隙を見せない。
それは神社の英才教育の賜物(たまもの)とも言える。

 しかし、人間、息抜きが必要だ。
原生林ともいえる鎮守(ちんじゅ)の森に一人で入って気分転換をしていた。
祐紀の本当の姿を知っているは、宮司、乳母と一部の近習だけだろう。

 ただし、人なのだから弱さ、悩みは当然ある。

 このような世界で生きていて、祐紀は座右の銘を取得した。
それは、 ”考えても無駄なことは考えない”。

 いくら人より(ひい)でていようが、特殊な能力があろうが、できないものはできない。
しかし、御神託は実行しなければならない。
ならば、どうするか・・。
簡単である。
考えずに、その場に行ってみることである。
そうすると、不思議なことに、不可能だと思っていたことは何とかなってしまう。
それは、その場においての(ひらめ)き、慧眼(けいがん)とでもいうのだろうか・・。
そのため、祐紀はなるようにしかならないと割り切ることにしていた。
ただし、考えを放棄しているわけではない。
考えてもしかたないという結論の時のみである。

 現代の受験生や、仕事で行き詰まっている人達がいたら、うらやましい限りの性格なのかもしれない・・。

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 祐紀が遠乗りや、御神託で来たことのある場所より遠くにきた。
ここまで来ると、さすがに見慣れた風景が無くなり、やがて峠道に入った。
そして、登り道が終わりもうすぐ下り坂に差し掛かろうとしたときだった。

 峠道から外れた林の中を、マタギが歩いて山奥に向っているのが見えた。

 おや?

 祐紀は首を傾げた。
マタギにしてはおかしい。
確かに熊の毛皮を着て、火縄銃を背負い山道を歩いていて一件不自然さはない。

 しかし・・。
何かが引っかかる。

 祐紀は、峠道からすこし外れた大岩の影に馬をつれていき、街道から見えない場所に馬を留め置いた。
そして、マタギの後を慎重に尾行することにした。
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