第120話 さて、再び地獄界に行こうじゃないか・・ その2

文字数 2,213文字

 帝釈天(たいしゃくてん)は、ルート壊滅に自分が呼び出されなかったことに阿修羅(あしゅら)へ抗議をした。

 「お前! それはないんじゃないか?」
 「これは情報部の仕事だ。
お前の出る幕ではない。
それにお前が出たら話しがややこしくなる。」
 「?」

 「お前が神界で動けばどうなる。
神界が焦臭い(きなくさい)ことに周りが感づくであろうが。
そしたらどうなる?」
 「・・・?!」

 「お前が動いたとなると、反勢力で日和見の連中がどうでるか分からん。」
 「うむ、確かにな・・。
俺がプロパガンダに利用されるかもしれんな。
今動かなければ反勢力派が潰されかねんと扇動され、踊らされるバカもいるだろう。
あるいは反勢力派の狼煙(のろし)があがったと考え、過激派が勢いづくかもな。」

 「そういうことだ。
今は

の治世で神界は安定している。
だが、それを良しとしていない者がいるのも確かだ。
だからこそお前は慎重にならないといけない。」
 「分かった、気を付けよう。」

 「それから神界でした処分を教えておく。
神界で次空間爆弾に携わったのは、ある神の側使え数人だ。
その神が関与したという証拠は一切ない。
その側使えだけを処分し、事を丸く収めた。」

 「その神とは誰だ?」
 「お前に教える義務はない。
 それにお前が知ってどうする?」

 「・・・俺はあのお方のボディーガードだ。」
 「だから何だ?
関与したかどうかも分からないのに聞いてどうする?
目が曇るかもしれんぞ。」

 「それは・・そうだが・・。」
 「いいか、俺が教えないという意味を考えろ!
仕方がないから教えるが・・このことを言うなよ?
その神は

に敵対する(かた)ではないのだ。
おそらく濡れ衣を着せようと画策したものがいる。
これが分かったのは細心の注意をはらい調査部が調査した結果だ。
お前一人が調査したなら、グレーに見えただろう。
そうしたらお前のことだ、あの方のことになるとやることは想像できる。
お前の行動を見て、周りの神々がその神を反勢力だと見なしてしまうぞ。」

 「なら、最初からそう言え!」
 「バカかお前は。
そもそもこの情報をお前に教える筋合いはないんだぞ?
情報部は独立した機関だ。
それを忘れているだろう?
今回は牛頭馬頭(ごずめず)の件と関係があった事もあり、教えているにすぎん。
それを忘れるな。」

 「・・・すまん。」
 「まあ、お前の気持ちも分かるが、組織を蔑ろ(ないがしろ)にするな。」
 「わかった。」

 「で、俺がお前の助っ人する件だが・」
 「おい、お前、本当に俺の助っ人をするつもりか?」
 「ああ、そうだ。」
 「お前なぁ・」
 「お前、本当に一人で相手できると思っているのか?」
 「・・・。」

 「お前も分かっているだろう?
彼奴(あいつ)らに神力という存在をお前は教えた。
それがどういう結果をもたらすか考えろ。
奴等(やつら)は、神力という言葉さえ知らないのに使っていたんだろう?
普通は意識し、かつ教えられて使えるようになる。
そういう点でいうなら、彼奴らは天才的な武道家の素質があるんだ。
そして彼奴らは必死だ。
精神力も強い。
神界の武道家の甘ったれた精神などで太刀打ちできぬほどにな。
必死で精神力の強い奴ほど厄介な相手はいない。
お前は、そんな連中に神力の存在を教え、さらに時間を与えたんだ。
今頃はかなりの使い手になっていて不思議ではないぞ?
二人同時に相手ができるという甘い考えは捨てろ。」

 「うむ、確かにそうだな。
だがな・・・。
俺一人で彼奴らをねじ臥さないと彼奴らは言う事はきかないだろう。」

 「まあ、その考えは間違っていないだろう。
だがな・・・
お前、前の決闘の条件がまだ有効だと思っているだろう?
あの条件はその時のものだ。
前回と同じ条件でやるつもりか?
単なる試合形式にしろ。」

 「それでは彼奴らが乗ってこないだろう!」
 「いや、彼奴らは神力でお前と戦いたいと思っているはずだ。
前回の雪辱を晴らしたいはず。
だから、試合形式でもお前と戦えるならと思うだろう。」

 「しかし・・。」
 「だめだ!
俺が審判を行う。
俺が試合を逸脱し死闘とならないように目を光らせる。
いいな!」

 この言葉に帝釈天は理解した。
阿修羅は試合がしたいのでは無い。
俺が怪我を負わないようにしたかったのだ。
死をもいとわない自分の考えを読まれていたのだ。
そして阿修羅の提案なら、相手に重傷を負わせないですむ。
試合形式ならば、こちらも手加減ができるからだ。
それに・・
彼奴らが試合で熱くなったなら、試合ではなく決闘になる可能性が高い。
その時には彼奴らを止める力が必要だ。
それを考えて、阿修羅は今回、俺も混ぜろと言ってきたのだろう。
素直でない奴だ、そう帝釈天は思う。

 帝釈天は頭を下げて、阿修羅に感謝を述べる。

 「わかった。
 ありがとう阿修羅よ。」

 この言葉に阿修羅は一瞬目を見張った。
だが、すぐに帝釈天から目をそらし、そっぽを向く。
そして頬を掻く仕草をし、ボソリと呟く。

 「分かればいい、では行くか。」
 「ああ・・、行こう。」

 二人は同時に次元転送し地獄界に向かった。
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