第160話 拉致された巫女
文字数 1,956文字
「この巫女に対するお前の
「ああ、
「では、よいか
「わかった。」
「一時間以上は待てぬ。よいな?」
「くどいぞ、
いや、
小泉神官は早く
その言葉に、黒装束から
そして抑揚の無い低く冷たい声が放たれた。
「その名を口にするなと言ったはずだが?」
小泉神官はその言葉と
その瞬間、小泉神官の背筋に悪寒が走る。
「す、すまなんだ! つ、つい口が滑ってしまった・・、すまぬ。」
黒装束の男は直ぐには何も言わなかった。
やや間をおいて、物静かな声で小泉神官に囁くように言う。
「前にも注意したはずだ。
儂の
それにお前の勘違いを正しておこう。
たかがこの国の神官が儂に指図できるなどと思わんことだ。
お前の命など、そこらの虫と変わらん。」
「ひっ!」
小泉神官は顔を青くし縮こまる。
「だが、まだ利用価値があってよかったな。」
そう言うと黒装束の男の目が少し細められた。
笑っているのだ。
「だが、もし次に同じ事をしたならば次は無い。
もう同じ事を言うのに飽きた。」
「わ、分かった。肝に銘じよう・・。」
「よく聞け、これももう二度とは言わん。
会話というのは注意したつもりでも、どこで誰が聞いているかわからぬものだ。
儂から見るとお前は感情が高まると、周りへの注意が
お前の不注意から、儂らの存在が漏れるなどあってはならん。
小さな気の
これが分からぬ者など、存在価値などない。
よいな?」
「わ、分かった、分かったから・・。」
黒装束はその言葉に軽く
そして・・
「では短い時間、その巫女を楽しむがよい。」
その言葉を合図に、黒装束の男達は次々と神殿から出て行った。
そして最後の者が、軋む音を立てながら戸を閉める。
戸が閉まると、小泉神官は
そして
ピシッ!!
「う・・・うん・・。」
神薙の巫女は、薄目を開く。
そしてユックリと目を半分ほど開いたところで
そのまま、すこしの間ボ~っとする。
そして、何か違和感を感じたようだ。
突然、身を起こそうとした。
だが、両手両足を縛られていたため体勢を崩して、また倒れ込んだ。
「ふん、いい気味だ、神薙の巫女よ。」
その声に神薙の巫女は驚いて目を見張った。
そして恐る恐る声がした方を振り向く。
目に飛び込んできた小泉神官の姿を見て、驚きの声を上げた。
だが、
「どれ、猿ぐつわを取ってやろう。」
小泉神官は神薙の巫女の猿ぐつわを
「小泉神官様! なぜ貴方がここに!」
その問いに小泉神官はニヤリとするだけであった。
神薙の巫女は答える気がないことを悟り、状況を把握しようとし周りを見回した。
自分の寝所ではない事に気がついたのであろう、目を再び見開き息を飲み込んだ。
そして、恐る恐る小泉神官に今の状況を聞く。
「あの・・、いったい
「分からぬか? お前は
「え?!」
「覚えておらんのか?」
「・・・確か、
「そうだ、それを
「緋の国?!、そ、そんな!」
「わははははははは、どうだ、攫われた気分は?」
「な、なぜ笑うのですか!
そ、それに緋の国に攫われたとして、何故貴方様が
小泉神官はその問いかけに、さらに
その笑みを見て、神薙の巫女は全身の毛が逆立つような恐怖に襲われる。
恐怖に駆られながら、神薙の巫女は考える。
自分は確か寝所に入り寝ようとしたのだ。
そして、やがてウトウトとして・・眠りに入った。
なのに、頬の痛みを感じて目覚めると目の前には小泉神官がいた。
そうだ・・・
寝ている時に、何か
それに、今居る廃墟のようなこの場所に居ると言うことは紛れもない事実だ。
拉致されたと言うことは事実であろう・・・。
それに、小泉神官は拉致したのは緋の国だという。
そして拉致されて連れて来られた場所に小泉神官がいる。
だが、小泉神官は
どういうことだ?
まさか!
ある疑惑が浮かび、神薙の巫女は確かめられずにはいられなかった。