第17話 姫御子・市の目覚め

文字数 2,616文字

 姫御子は明かりを落とした部屋で目を覚ました。
側にいた神官は、姫御子が目覚めたことに気がついた。

 「ひ、姫御子様! 気がつかれましたか!」
 「・・・・」

 その声の方行に姫御子は顔を向け、神官の方を見た。
神官の安堵を隠せない顔を見て、何をそんなに焦っていたんだろうか?
ボ~っとする頭で考える。

 いや、それよりも私はどこに居る?・・・。
そして、神官は私の何を心配しているのだろう?
まわらない頭を何とか働かそうと、額に手をあてる。

 「姫御子様! 大丈夫ですか!」
 「あ、えええ、大丈夫です・・」

 神官の声に思わず何も考えずに、上の空で答える。

 そうだ・・・私は、宴会の席で目眩がして・・・・。
そうか・・、たぶん、倒れたんだろう。
だとすると、ここは医務所か休憩所だろう。

 額に添えた手をどけ、ゆっくりと上体を起こす。

 「姫御子様、起きて大丈夫ですか?」
 「ええ、大丈夫です。」
 「今、医者を呼んできます。」

 そう言って神官は部屋を出て行った。
その様子を、ボ~っと見ていた。
しばらくすると先ほどの神官が医者をつれて部屋に戻ってきた。
医者は姫御子の横に座り問診を始めた。

 「起き上がって大丈夫ですか?」
 「はい。大丈夫です。」
 「そうですか・・、それでは、問診をしてよろしいですか?」
 「ええ、良いですけど?」
 「それでは、ご自分が誰だか分かりますか?」
 「え・・ええ、分かります。」
 「名前を言ってみて下さい。」
 「市です」
 「ひ、姫様!」

 神官が悲鳴を上げるた。
それを聞いた姫御子は、ビクッとした。
あれ? なんでそんな慌てているの?。
自分の名前を言っただけなのに・・。

 私は・・・、あれ? 私?・・。
市って・・誰だ?
いや、私は姫御子・・名前など持っていない。
育ての親からも、だれからも私に名前など付けていない。
姫御子という官職名が、名前でもあり官職名だ。
名前は、姫御子。
それなのに、何故、市と言ったんだろう?

 そのように、つらつらと考えている姫御子を、口をあんぐりと開け神官は見ていた。
やがて神官は、我に返り慌てて部屋を飛び出した。

 姫御子は、それをボ~っと見ながら、たぶん上役に私が市と名乗ったことを報告しに言ったのだろうと理解した。

 まあ、無理も無い。
名前がないはずの自分が、聞いたこともない名前を答えたんだから。
報告を聞いた上司は、さぞかし驚くことだろう。

 でも、私は姫御子、これは確かな事だ。
でも、いつから姫御子になったのだろう?
いや、しかし・・、私は市だ・・・・。
・・・・。

 姫御子は、自分が姫御子なのか、市なのか分からなくなってきた。

 落ち着きなさい、私!
落ち着いて!

 姫御子のそんな様子を見ていた医者は、姫御子に聞いてきた。

 「何か問題でも?」

 ああ、そうか・・・。
この医者は(いん)の国の医者だから、私に名前がないのを知らないのだ。
でも、今の私は医者に説明するほど冷静になれない。
さて、どうしたものか・・。
そうだ!・・。

 「あの、すみませぬ、すこし休みたいのですが・・。」
 「え?・・、ああ、これは気がつかず済みませぬ。
意識はしっかりしているようですので、大丈夫でしょう。
ゆっくりお休みなされ。」
 「はい、ありがとう存じます。」

 医者は私の言葉を聞くと、部屋から出て行った。
私は横になり、天井を見つめた。
倒れた私にいったい何が起こったのだろう?

 そう思い瞼を閉じた時だった・・。

 「御神託!」

 思わずさけんでしまった。
そうだ、御神託だ。
気を失って夢を見た。
御神託に違いないだろう。
ただ、私個人に対する御神託だ。
どんな御神託だったか・・。
確か・・・。

 そうだ! 私は解脱をするため転生したんだ!

 あれ? でも何で生前のことを覚えているのだろう?
それに解脱のための転生なんて・・なんで?
そう思った時、激しい頭痛が襲ってきて、気を失った。

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 気を失ったのは数分にも満たなかったのだろう。
気がついて目を見開いた。
そして市であった前世と、姫御子である今の自分を思い出した。

 そうだ!
私は市。輪廻転生したんだ。
前世でできなかった、解脱のために異次元であるここに転生をしたんだ。
そして私は姫御子として生を受けたんだ。

 今度こそ解脱をしないといけない。
これは御神託だ。
あれ? でも、なんで前世で解脱できなかったのだろう?
その記憶が無い。
それから、御神託は、なぜ私の解脱なのだろう?
何故なんだろう?

 いや、解脱はしないといけない!
それが私の人生に課せられた課題であり天啓だと理解した。
それが御神託だ。

 ・・・。
でも、何故異次元に生まれ変わったのだろう?


 そのような事を考えていると、神官が上司をつれて部屋に戻ってきた。

 「姫御子様! 市と名乗ったというのは本当ですか!」
 「落ち着きなさい。」
 「え! あ、失礼致しました。」
 「今から説明をします。」
 「・・・。」
 「私は御神託を受けました。」
 「え?」
 「その御神託は私個人のものです。
ですので、貴方達に話す気はありませぬ。」
 「姫御子様!」
 「其方達もわかっておろう?」
 「・・・。」
 「私に対し、悪い御神託でないので安心して下さい。
そして

に関係しない御神託ですので、そのことも安心して下さい。」
 「・・・分かりました。」

 神官長は納得できない顔をしているが、御神託については姫御子が言うとおりなので、どうしようもなかった。

 「それで、私は宴会に出なくてもよろしいのですか?」
 「姫御子様が大事ないようでしたら、出席していただきたいのですが・・。」
 「わかりました。
では、参りましょう。」
 「本当に大丈夫なのですか?」
 「ええ、大丈夫です。」
 「医者にもう一度・」
 「不要です。
参りますので私の側仕えを呼んでください。」
 「畏まりました。」

 そう言って神官達は部屋を出て行った。
しばらくすると側仕えの女神官が部屋に入ってきた。
身だしなみを整えて宴会に向った。
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