第67話 祐紀・殿と老中への説得 3

文字数 1,722文字

 祐紀(ゆうき)はあくまでも地龍(ちりゅう)などいないという堀田(ほった)の意見を聞き押し黙った。

 堀田は祐紀が押し黙ったのを見て、それみろと思った。
地龍がいることなど証明できるわけがない。
生意気な神主風情が大騒ぎをしおって忌々しい。
さて、この神主にどのような処罰を与えてやろうかと思った。
佐伯、お前もだ。
そう思い、ほくそ()んだ。

 堀田は寺社奉行の佐伯が気にくわなかった。
何かと殿に目をかけられ、自分達より信頼されているのを目の当たり(まのあたり)にしてきた。
いくら幼少の頃、お側付きになったからと言っていい気になりおって。
今回の地龍などというお伽話(おとぎばなし)を、殿の前で話したのはよい機会だった。
地龍などと市井(しせい)を騒がせようとしたかどで佐伯を処罰できる。
佐伯を役職から外し蟄居でもさせるか。
いや、腹を切らせるてもよいだろう。
そうすれば、殿の寵愛(ちょうあい)儂等(わしら)に向くであろう。
これは絶好の機会だと思った。
堀田はニンマリとした。

 そんな堀田を祐紀はジッと見つめていた。
堀田は物思いにふけっていた自分に気がつき我に返った。
そして祐紀と目を合わせる。
ゾッとした。

 なんだ、此奴(こやつ)は!
追い詰められて焦っているかと思えば、なんて冷静な目をしているんだ!
それに、この(りん)とした雰囲気はなんだ!
こ、此奴、はったりを()ませているのではないのか?
いかん、冷静になれ・・。
神主などに(まど)わされてはならん。
しかし、これは・・まずいぞ!
説得力が此奴にはあるかもしれん。
此奴の言うことがまかり通ると、佐伯をさらに殿が重要視するようになる。
それは何がなんでも阻止(そし)したい。
ならば、この場で祐紀を潰す!

 堀田は威圧的に祐紀をたたみかける。

 「どうした祐紀、地龍のいることを証明できなければ・」
 「堀田様、証明できないとは言っておりませんが?」
 「な! では、直ぐに証明してみせたらどうだ!」

 その言葉に祐紀は堀田から目線を外した。
堀田は呆気(あっけ)にとられた。
何故、目線を外す?

 祐紀は堀田から目線を外すと、殿と目線を合わせた。

 「殿様に最初に申しておきたいことが御座います。」
 「なんじゃ?」
 「これから地龍を皆様にお見せします。」
 「「「「な!」」」」

 殿と老中、佐伯までも声を揃えて、目を見開いた。

 「ただ、お見せするのは、私が神から授かった力によるものです。」
 「・・・。」
 「これを見て、疑うのは構いませぬが・・。」
 「何じゃ?」
 「疑うということは、神を疑うことになります。」
 「!」
 「その点をご理解頂きたいのです。」

 この言葉に堀田は()みついた。

 「法螺(ほら)を吹くのもいい加減にせい!」
 「堀田様、ですから信じるも信じないのも貴方次第です。」
 「だからなんだ!」
 「神を信じないというのなら、それなりのお覚悟を。」
 「くだらん! 儂を脅すとは笑止千万(しょうしせんばん)!」
 「いいえ、あくまでも忠告です。」
 「ふん! では証明してみせろ!」
 「分かりました。」

 そう言うと祐紀は深呼吸をした。
ゆっくりと目を半眼にする。
そして印を結んだ。
何やらボソボソと唱え始めた。

 すると外がゆっくりと暗くなり始めた。
老中達は雲が太陽を遮ったかと最初は気にしなかった。
しかし、暗さが戻るどころかさらに暗くなる。
やがて夕暮れ時のような暗さになったときだった。

 突然、ピカッ!と光った。
その直後、轟音が轟く。
ピシ!
ドカン!!

 雷が庭園の大木に落ちたのだ。
雷が落ちた大木は真っ二つに割れ、ゆっくりと別れ傾いていく。
ギギギギギという音とともに。
やがて隣の木によりかかり、ハの字型となり鈍い音がして静止する。
雷により、木の一部が燃えていた。

 しばらくすると小雨がぱらぱらと降って来た、そう思った瞬間、土砂降りに変わった。
雨音が凄い。
殿、老中達は目を見開き庭を見ていた。
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