第19話 姫御子と祐紀・そして・・

文字数 2,762文字

 

は多生の右往左往はあったが無事に終了した。

 

の後、姫御子(ひめみこ)からの面会要請と、祐紀(ゆうき)からの面会要請の両方がかち合うという珍事が発生する。
成人の義で予定されていなかった面会のため、両国は調整に難航し、面会が行われたのは2時間後であった。
面会時間は1時間ほど取られた。

 祐紀と姫御子、そして二人の立ち会い人が机を挟み談笑をしていた。

 「姫御子様、体調は、もうよろしいのでしょうか?
お帰りの途中で、体調を崩す心配はないですか?」
 「ええ、おかげさまで体調は良くなりました。
帰りの旅も心配ないと思います。」
 「そうですか、それは良かったです。」

 このように二人は表面上の会話を交わした。

 「ところで姫御子様、二人だけで内密にお話したいのですが?」

 それを聞いて宮司は驚き、祐紀を(しか)り始めた。

 「これ祐紀、姫御子様は女性である。
そのような二人だけになることは許されん!」
 「いえ、養父様(宮司)、密室で二人という意味ではないのです。」
 「?」
 「この部屋で、この状態で、二人だけの会話がしたいのです。」
 「・・・どういう意味だ。」
 「話した通りです。」
 「どうやって、そのようなことが?」
 「養父様、そして姫御子様にお付きの方、済みませぬがこの部屋の入り口まで退(しりぞ)いていただけませんか?」

 宮司と、姫御子のお付きの者が同時に声を上げた。
 「え?」
 「これ祐紀!」

 その様子を見て姫御子はお付きの者に、そのようにするよう伝える。
宮司も姫御子が認めたこともあり、仕方なく言われたとおりに入り口に行き、こちらを見る。

 すると祐紀と姫御子がボソリと独り言のように(つぶや)く。
独り言のようだが、数メートルしか離れていないのに、言葉が聞き取れない。
しかし、姫御子と祐紀は笑顔で会話をする。
宮司と、姫御子の側近達は目を見張り、何がおきているか理解に苦しんだ。
その様子を横目で見ながら、祐紀は姫御子に話し始めた。

 「私は貴方の名前を知っている。」
 「どうしてですか?」
 「それが分からないのです。」
 「そうですか・・。」
 「ところで姫御子様、貴方をどちらの名前でお呼びすればよいですか?」
 「姫御子でも、市でもどちらでもかまいませぬ。」
 「そうですか・・。」
 「もし、迷うようでしたら姫御子でよろしいです。」
 「ええ、では、そのように。」

 「姫御子様、貴方は私と三途の川で会ったといいましたよね?」
 「ええ。」
 「それは確かですか?」
 「はい。」
 「・・・」
 「祐紀様は、信じて下さっているんですよね?」
 「はい。何故かそうだと確信しています。」
 「でも、記憶がない?」
 「はい。」

 「祐紀様、私には生前の記憶があります。
それも、この成人の義の日に突然(よみがえ)りました。」
 「もしかして、御神託を受けて、それからですか?」
 「はい。」
 「そうですか、その記憶の中に私の記憶があるのですね。」
 「はい。」

 「私も姫御子様と同じように、今日、御神託を受けました。」
 「やはり、そうですか・・。」
 「ええ、お気づきでしたか。」
 「ただ、私は最初、祐紀様が倒れたのは御神託だと思っていませんでした。」
 「・・・」
 「でも、私は今は御神託だったと確信しておりますし、それしか考えられません。」
 「そうですか・・。」
 「たぶん、私は御神託を授かるために意識を無くしたようです。」
 「・・・」
 「そして、私は御神託により貴方の名前を知っているようです。」
 「・・・」
 「ただ、、それが何を意味しているのかは、わからないのです。」
 「・・・」

 「でも、同じ日に姫御子様も御神託を受けたのです。
しかも私の成人の義で。
ですから、私の御神託と、姫御子様の御神託は関係していると感じます。」

 「私の御神託、聞いていただけますか?」
 「よろしいのですか?」
 「はい。」

 そういうと姫御子は一度、目を伏せた。
しばらく考えてから口を開いた。

 「前世で私は解脱に失敗しております。原因はわかりません。」
 「・・・」
 「そして、私は御神託により解脱をせねばなりません。」
 「・・・」
 「現世での解脱の失敗は、許されないように思えます。」
 「なぜですか?」
 「わかりません。ただ、そうだという思いがあります。」
 「なるほど、神様の意向が働いているのかもしれませんね。」
 「たぶん・・、そうだと思います。」

 「私に協力させてください。」
 「え?!」
 「そのための御神託だったような気がします。ただ、確信は持てません。」
 「あの・・、なぜそのように思うのですか?」
 「貴方の前世の名前を御神託でうけたのは、貴方を手伝えという事だと思います。」
 「それで、私の解脱を助けて下さると?」
 「はい。
ただ私も解脱とはどういうものなのか分かっておりません。
それでもよければ、お手伝いをさせて下さい。」

 姫御子は祐紀の申し出はありがたかった。
姫御子自体も解脱とは何か、どうすればよいか、それが分からなかったからだ。
姫御子は、祐紀について語り継がれている奇跡や、祐紀が御神託を受けている件について姫御子は聞き及んでいた。
そのような祐紀が手助けしてくれるのは心強い・・だが・・。

 「あの・・」
 「何でしょうか?」
 「私は()の国に帰らねばなりませぬ。」
 「分かっております。」
 「でも、そうするとどのように、協力してくださるのですか?」
 「簡単です。
私が陽の国にいけばいいのです。」
 「えっ!」
 「私が留学、または姫御子様の元で研修をするという事にすればいいのです。」
 「・・・」

 姫御子は口をあんぐりと開けた。
そんなことが出来るとは思えなかったからだ。
祐紀は御神託を受けられる(いん)の国にとってはかけがえのない人物だ。
そのような人が陽の国に来たら、国家間の問題になる。

 「私が

に行くのは迷惑で嫌ですか?」
 「あっ! いえ、そういう訳ではなく、陰の国から貴方がいなくなるのは・・。」
 「ああ、そういうことですか・・、まあ、なんとかなるでしょう。」

 あっけらかんという祐紀に、姫御子は呆れた。
それはそうだろう、国にとって重要人物が外遊ならぬ海外に行ってしまうのだ。
それも、期間が分からない。
解脱なんて、そうおいそれと出来ることではない。
期日なんてわかる訳がない。
しばし姫御子は呆然と祐紀を見つめていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み