第125話 牛頭馬頭との決着 その3

文字数 2,665文字

 牛頭(ごず)は気絶した馬頭(めず)に慌てて駆け寄る。
そして、馬頭を庇うようにして、帝釈天を睨んだ。

 すでに勝負が付いている馬頭に蹴りをいれて気絶させたことに抗議をした。

 「帝釈天(たいしゃくてん)様! 何をする!」
 「ん? ああ、転がり回っていれば治療ができんだろう?」
 「え?」
 「そこを退()け。」

 そういって帝釈天は馬頭の前に立ちふさがった牛頭を退けた。
馬頭の側にしゃがみ込み、(ふところ)から何やら取り出した。
明るい黄色の綺麗な布だ。
それを馬頭の膝を巻くように巻き付け縛りつけた。

 「牛頭よ、このまま1時間ほど安静にしておけ。
一時間ほどで膝の皿なら、元通りに治る。」

 「え? あ、ああ・・、礼を言う・・。」

 帝釈天は阿修羅を呼ぶ。

 「おい、阿修羅、牛頭の治療を頼む。
おれの治療用キットはもうない。」

 阿修羅は何も言わずに牛頭の側に来ると、帝釈天が出した布と同じものを出す。
そして牛頭の右手首に巻く。

 阿修羅は牛頭に布を巻きがら注意をする。

 「牛頭、お前の骨折なら30分もあれば充分だ。
それまで安静にしろ。」

 「・・・ありがとう、ございます。」
 「ああ、それとその布な、使い捨てだ。
次に使おうとしても、使えん。」

 牛頭は自分の右手に巻かれた布を暫く眺めていた。
布が巻かれたら痛みも治まった。
添え木もないのに手首が安定している。
変な角度や向きにもなっていない。
今すぐでも動かせそうだ。

 牛頭は帝釈天の方を向き、尋ねる。

 「帝釈天様、俺達は神力を習得したと思っていた。
なのに、子供をあしらうかのように負けたのは何故なんだ?」

 それに阿修羅が帝釈天が答える前に言う。

 「牛頭よ、理由は教えられん。
神力とは、神界における武道の基礎だ。
そもそも、それを帝釈天が教えることが可笑しいのだ。」

 「・・・。」

 牛頭は何も言わず、(うなず)いた。
そんな牛頭に阿修羅は付け加える。

 「よいか牛頭、ここで神力を使うのはかまわん。
だが、過ぎたる威力はそれに耐える器が必要だ。
だからお前の手は、馬頭の神力の拳で骨折したのだ。
言っている意味が分かるか?」

 「神でない俺達が、その力を使うと体が耐えきれなくなる、と。」
 「そうだ。」
 「肝に銘じよう。」

 「で、牛頭よどうする?」
 「・・負けを認める。完敗だ。」
 「では、分かっているな?」
 「・・・もう次元転送に手は出さん。」
 「それでいい。」

 阿修羅は帝釈天に目配せをした。
帝釈天は肯く。

 「じゃあ、阿修羅、帰るか。」
 「ああ。」

 そう言って帰ろうとしたとき、阿修羅は牛頭に思い出したかのように話しかけた。

 「ああそうだ、牛頭よ、試合前に話した噂のことだが・・。」
 「・・やはり・・、罰として流すか・・。」

 「勘違いするな、噂は流さない。
その代わりにだ・・。
お前らの(ねぐら)はお前らの対抗勢力により襲撃され大打撃を受けた。
だがお前らが、そいつらを殲滅したということにする。」
 「え?」
 「不満か?」
 「あ、いや・・、感謝する。」

 阿修羅と帝釈天はその言葉を聞くと、その場から消えた。
その消えた場所に牛頭は深々と頭を下げた。


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 阿修羅は神界に戻ると、帝釈天に疑問を投げかける。

 「お前、どのくらいの実力なんだ?」
 「何のことだ?」
 「先ほどの試合、圧倒的に強すぎる。」
 「そんなことはない。
彼奴らに怪我をさせるつもりはなかったんだ。
だが、結果として重傷を負わせた。
そうしなければ、危なかったからな。
特に、あの胸を狙った膝蹴りはな。」

 「いや、あの蹴りならば軽く避けられたはずだ」
 「・・・。」
 「神力をあまりつけさせないよう考えたんだろう?
神力が絶対ではないと、すり込んだんだろう?
敢えて彼奴の膝の皿を割って。」

 「バレバレか・・。
まあ、お前も神力には見合った器が必要だとか言わなかったか?
俺の考えを読んでさ。」

 「まあ、お前がワザと膝の皿を割ったから分かったのだが。」
 「さすがだな阿修羅は。」
 「おべっかはいらん。」
 「いや、おべっかなどではない。」
 「ふん、おだてても何も出さんぞ。」

 そういって互いに軽く笑う。

 「なあ阿修羅よ、牛頭馬頭なのだが・・・。
神力が防御に使える事が分かっていないと思うか?」

 「ん? ああ、そう思うが?」
 「彼奴ら、防御にも使用していたんだ。」
 「?!」
 「だが、使い方がまったくなっていなかった。
攻撃は天才的なのに、防御はからっきしだ。
だから、お前でも気が付かないと思ったんだ。」

 「そういうことか・・。
だから敢えて膝の皿を割ってまで神力を戒めたか。」

 「まあな・・。
防御まで完全に使いこなすとまずい。
地獄界でも気がつく者がでるだろう。
神でもないのに神力が使えるとな・・。」

 「彼奴ら、防御まで神力が使えるようになると思うか?」
 「さあな・・、だが、神力を使う相手はあの地獄にはいないだろう。」
 「なるほどな、使う相手がいなければ育たないか。」
 「そうだ。彼奴ら同士で神力は高めることはもうないだろう。
俺という目標がなくなったんだ。
それに地獄界に彼奴ら以上に強い奴はおらんだろう。」

 「そうだな・・。」
 「ただし、次元転送を諦めていなければ、だが。」
 「ふん、次元転送してまでお前にリベンジでもしてくるとでも?」
 「まあ、本当の武芸者ならしかねんな。」
 「なら、次元転送はしないだろうな。
彼奴らは自分達の組織が欲しいだけだ。
武芸者になど興味はないだろうな。」

 「俺もそう思う。」
 「そうか、なら心配ごとは無くなったな。」
 「ああ、そうだな。」

 そう言って二人は笑いながら頷いた。

 「じゃあ、俺は閻魔大王と、母に一件落着したことを伝えてくる。」
 「分かった。じゃあな。」
 「おお、またな。」

 そういって帝釈天は阿修羅と別れた。
その直後であった。

 「あ! しまった! あの野郎!」

 阿修羅は、大声を上げた。

 「あの野郎、自分の実力を明かさずに帰りやがった!」

 そう言って地団駄を踏む阿修羅であった。
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