第99話 対峙

文字数 2,190文字

 帝釈天(たいしゃくてん)はドアから感じる神力に(しば)し考え込んだ。

 「ふむ・・。
 今まで神力を抑えていたか。
 なるほど、神力を制御できる使い手がいるということか・・。
 ならば閻魔大王(えんまだいおう)が言っていた事が理解できる。
 もしかしたら俺と互角以上にやり合えるかもしれんな。
 それにしても神力を使えるとなると神の系列ということになるな・・。」

 帝釈天はすこし思案にくれる。
神力が使えることは阿修羅でさえ把握していない。
そして閻魔大王は神力が使える事を知っていたとしか思えない。
疑問はそれだけでない・・。

 「神の系列だとすると、何故ここにいる?
 地獄にいるのは何故だ?
 神の系列なら、ここに隔離されるのはおかしい・・。」

 帝釈天は洞察する。
閻魔大王や、奪衣婆(だつえば)牛頭馬頭(ごずめず)に配慮している理由を。

 だが、やがて帝釈天は考えるのを止めた。
会って直接聞くことにしたのだ。
ここで考えるより当の本人に聞くのが一番だ。
とはいえ閻魔大王も奪衣婆も言わないことだ。
牛頭馬頭が素直に話すとは思えないのだが・・。

 帝釈天は、念のため神力をすこし発動させた。
薄いバリアのようなものを張ったのだ。
本気モードではなく、相手を試すためである。

 帝釈天はゆっくりとドアに近づいた。
そしてドアを開ける。

 部屋はかなり広かった。
20畳ほどの広さであろうか。
その一番奥に、重厚な机があった。
そこに腰掛けて、物静かにこちらを見ている者がいた。

 帝釈天はそれを確認すると笑顔を作った。
そして、声をかける。
だが、声をかけたのは前にいる人物にではない。

 「なあ、俺の後ろに居ても面白くないだろう?」

 そう後ろを振り返らずに帝釈天は声をかけたのだ。
これに対し、くぐもった笑いが後ろから聞こえてきた。
そして・・。

 「なるほどね、神となるとお見通しか。
 では、済まないが私を先に部屋に入れてもらえないだろうか?」

 「そうか、これは失礼をした。」

 そういうと帝釈天はドアから退いた。
後ろにいた者は、帝釈天の横を通り部屋に入るとそのまま進んだ。
そして机に座っている者の横に立ち帝釈天と対峙する。

 帝釈天は部屋に入ると、机の前にあるソファーまで行った。
そしてドカリと腰掛ける。
一息吐くと、机にいる者と視線を合わせた。

 しばし二人は見つめ合う。
やがて帝釈天は声をかける。

 「なあ、こっちに来て腰掛ければ?」
 「ふむ、そうだな。
 私は貴方を客と考えてよいのかな?」
 「まあ、それは話し合いによるな。」
 「そうか・・、まぁ、お茶くらいは出そう。」

 そういうと手元にあった鈴を取り鳴らした。
そして椅子から立ち上がり、帝釈天の正面のソファに腰掛けた。
そしてもう一人も、その隣に腰掛ける。

 帝釈天にとって、これは意外であった。
ソファには座らずに横で控えていると思ったからだ。
だが、帝釈天はそれを口に出さなかった。
おそらく二人は対等の関係なのだろう。
対等ではあるが腕に覚えがありボディガードを請け負(うけお)っていると理解した。

 帝釈天が話しかけようとしたとき、後ろのドアがノックされる。

 「入れ。」
 「お茶をお持ちしました。」
 「ああ、ご苦労。」

 お茶がテーブルに置かれる。
三人分のお茶だ。
帝釈天は思った。
あれほど廊下や階段で敵対した者にお茶を入れてきたのだ。
それも何も指示されていないのにお茶だと分かっている。
だが、この男は執事ではないだろう。
動作から察すると武芸者だと思われた。
優秀な人材を集め統制された組織だと改めて認識をする。
お茶を持って来たものは無言で帝釈天に礼をすると出て行った。

 正面にすわる者が帝釈天にお茶を勧める。

 「お茶をどうぞ。」
 「ああ、頂こう。」
 「何か入っているか心配ですか?」
 「まあ、そういう考えも否定はせん。」
 「では・・。」

 そういうと自分のお茶と帝釈天のお茶を交換した。
そして、そのお茶を躊躇(ちゅうちょ)することなく一口飲む。

 「ふむ、やはり彼奴(やつ)の入れるお茶はうまい。」

 そう言ってニッコリと微笑んだ。
帝釈天はその笑顔に隠された顔を垣間見た。
だが、帝釈天は相手の誘いに乗ることにした。

 お茶を取り一口含む。
芳醇なお茶だ。
雑味がない。
一見、毒が入っているという味ではない。
だが、第六感が何か可笑しいと(ささや)く。

 しかし、それを敢えて無視し飲み込んだ。
ここで茶を飲まないと、相手の話しが聞けないと判断したのだ。
帝釈天は笑顔を作る。

 「美味(うま)い茶だな。」

 帝釈天は、そう言って正面に座った者に問いかける。

 「あんたが牛頭(ごず)か?」
 「そうだ、よく分かったな。」
 「まあな、当てずっぽだがな。」
 「ふふふふ、面白い奴だな。」
 「それはどうも。」

 二人は互いに微笑みあう。
馬頭(めず)がそんな二人に割り込んできた。

 「で、何処(どこ)のどいつか知らんが、何のようだ。」

 「ああ、これは失礼した。
 俺は帝釈天だ。」

 この答えに牛頭馬頭の二人は息をのんだ。
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