第228話 裕紀・養父に会う その1
文字数 2,218文字
少し腹を立てた裕紀 であったが、それと同時に疑問もわいた。
それは野宿の準備を裕紀が言わなかったからと言って、亀三 が黙っているとは思えないからだ。
だとすると、あえて野宿の準備をしようと言わなかったのではないか?
それは何故か?
裕紀はそれを考える。
だが・・
野宿の準備をしなければならないタイミングで、こちらが言わなければ普通は聞いてくるものではないだろうか?
そう思うと、亀三の言いぐさに腹が立ってきた。
裕紀は少しふてくされる。
だが、亀三はというと、そのような裕紀を横目で見ても気に留める様子はない。
裕紀は一つため息を吐いて亀三に話しかける。
「亀三、野宿の準備を今からしよう。」
「いや、もう少し後にしましょう。」
「?・・。」
怪訝そうな顔をしている裕紀に、亀三はその理由を話し始めた。
「今夜は幸いにも満月です。
雲も厚くないため、雲を通して月明かりが届きます。
それに、ところどころ雲の切れ目があり星が見え始めております。
これなら雲の合間から月が見え隠れをし、さらに明るいはずです。」
「そうか・・。確かに太陽が山陰に隠れたとはいえ明るく感じる・・。」
「もう少し歩きましょう。
それに、満月の明るさなら薪など探すのも苦労はしませぬ。
むしろ心配なのはオオカミです。」
「オオカミ?! 生息領域から外れていたのではないのか?」
「ええ、確かにこの辺りはオオカミの生息地から外れてはおります。
ですが、風向きしだいで彼奴らに気づかれないとはいえませぬ。
ですからもう少しここを離れたい。」
「離れるといっても、どこまで行くのだ?」
「ここからでは木に隠れて見えにくいのですが、もう少し行くとこの山の頂上に出ます。
その頂上を境に風の方向が変わります。
山頂を越えると、オオカミの生息地の方向に風が流れないのです。」
裕紀はその言葉に頷いた。
亀三は裕紀が頷くのを確認すると歩き始めた。
裕紀は亀三の後を付いて黙々と歩き始める。
満月が山から昇り始めた時に二人は山頂に立った。
すると以外な物が目に入った。
明かりが見えのだ。
その明かりは山頂から500m程先にあった。
粗末な山小屋が1つだけあり、その窓から明かりが漏れていたのだ。
「これは・・、亀三・・・。」
「ええ、まさかこのような山奥に小屋などとは・・・。
マタギが猟をするための中継の小屋でしょうか。
いや・・・。
それにしてはしっかりとした作りに見えるが・・。」
「そうなのか?
私から見ると家畜小屋を改造したような、粗末なあばら家とも見えるが?」
「裕紀様、ここは山奥もいいところですぞ?
そのような場所にしては、よくできた作りです。」
「そう・・なのか?」
「ええ・・、ただ、なぜ、このような場所に・・。
それに、この時期に猟などしているとは思えませぬ。
樵 だとしても、このような時期に仕事とは思えませぬ。
なのに人がいるというのも・・。」
「亀三・・、もしかして養父様は・・。」
「ええ、あそこにいる可能性が高いですな。」
「養父様の存在を確認をしに行こう。」
「いえ、養父様の件は伏すべできでしょう。」
「・・・。」
「相手がどのような者かわかりませぬ。
裕紀様のことですから、それとなく聞くつもりでしょうがやめるべきです。
相手が敵で、それに感づいた場合の危険性を考えるべきです。」
「・・・では、あの山小屋をここで見張るべきか?」
「いえ・・、この山で見つけた唯一の小屋です。
今日の一夜の宿をお願いしましょう。
道に迷ったことにして、一夜だけ泊めてもらいましょう。」
「泊めてくれるだろうか?」
「このあたりの杣人 は人が良く、困っている人には親切にしてくれます。
なんらかの敵であっても、地域性から外れるような事はしませぬ。
そのような事をすれば、怪しまれてしまいますから。
ですから大丈夫でしょう。」
「そうか・・・。
では亀三のいうように一夜の宿をお願いしよう。
野宿はやらないにこした事はないしな。」
二人は頷きあい、その小屋に足を進めた。
小屋まで100メートル程に近づいたときである。
小屋の戸が開き、人が出てきた。
その者は裕紀達が小屋に向かっていたのを、かなり前から察知していたようだ。
裕紀と亀三は緊張をした。
だが、二人は互いに顔を見合わせ頷くと、その者に向かって歩き始めた。
そして、その者との距離が2m程になったとき、その者が声を先にかけてきた。
「裕紀殿、よくぞお越し下された。」
その言葉に裕紀は息を呑む。
亀三はというと、何気なくそっと懐に手を入れた。
短刀を掴んだのだ。
だが、その所作は短刀を掴んだようには見えない。
殺気も無く、あまりにも自然な動きであったからだ。
裕紀はというと、自分の名前を呼ばれたことで一瞬驚いた。
だが、直ぐに小屋から出てきた者に頭を下げた。
「養父がお世話になっております。
このような時間に申し訳けございませぬ。
迎えに参りました。」
裕紀は相手が自分の名前を知っていることから、養父はこの者に迎え入れてくれるようお願いしたのだろうと察したのだ。
亀三も裕紀にならい、頭を下げた。
「堅苦しい挨拶はやめましょう。
外は寒いですから、どうぞ中にお入り下さい。」
「ありがとうございます。」
山小屋から出てきた者は、背を向け小屋の中に入っていった。
裕紀はそれに続き、開け放たれていた戸から山小屋に入る。
亀三もそれに続いた。
だが、亀三は懐 に再び手を入れ、一瞬たりとも気を抜かなかった。
それは野宿の準備を裕紀が言わなかったからと言って、
だとすると、あえて野宿の準備をしようと言わなかったのではないか?
それは何故か?
裕紀はそれを考える。
だが・・
野宿の準備をしなければならないタイミングで、こちらが言わなければ普通は聞いてくるものではないだろうか?
そう思うと、亀三の言いぐさに腹が立ってきた。
裕紀は少しふてくされる。
だが、亀三はというと、そのような裕紀を横目で見ても気に留める様子はない。
裕紀は一つため息を吐いて亀三に話しかける。
「亀三、野宿の準備を今からしよう。」
「いや、もう少し後にしましょう。」
「?・・。」
怪訝そうな顔をしている裕紀に、亀三はその理由を話し始めた。
「今夜は幸いにも満月です。
雲も厚くないため、雲を通して月明かりが届きます。
それに、ところどころ雲の切れ目があり星が見え始めております。
これなら雲の合間から月が見え隠れをし、さらに明るいはずです。」
「そうか・・。確かに太陽が山陰に隠れたとはいえ明るく感じる・・。」
「もう少し歩きましょう。
それに、満月の明るさなら薪など探すのも苦労はしませぬ。
むしろ心配なのはオオカミです。」
「オオカミ?! 生息領域から外れていたのではないのか?」
「ええ、確かにこの辺りはオオカミの生息地から外れてはおります。
ですが、風向きしだいで彼奴らに気づかれないとはいえませぬ。
ですからもう少しここを離れたい。」
「離れるといっても、どこまで行くのだ?」
「ここからでは木に隠れて見えにくいのですが、もう少し行くとこの山の頂上に出ます。
その頂上を境に風の方向が変わります。
山頂を越えると、オオカミの生息地の方向に風が流れないのです。」
裕紀はその言葉に頷いた。
亀三は裕紀が頷くのを確認すると歩き始めた。
裕紀は亀三の後を付いて黙々と歩き始める。
満月が山から昇り始めた時に二人は山頂に立った。
すると以外な物が目に入った。
明かりが見えのだ。
その明かりは山頂から500m程先にあった。
粗末な山小屋が1つだけあり、その窓から明かりが漏れていたのだ。
「これは・・、亀三・・・。」
「ええ、まさかこのような山奥に小屋などとは・・・。
マタギが猟をするための中継の小屋でしょうか。
いや・・・。
それにしてはしっかりとした作りに見えるが・・。」
「そうなのか?
私から見ると家畜小屋を改造したような、粗末なあばら家とも見えるが?」
「裕紀様、ここは山奥もいいところですぞ?
そのような場所にしては、よくできた作りです。」
「そう・・なのか?」
「ええ・・、ただ、なぜ、このような場所に・・。
それに、この時期に猟などしているとは思えませぬ。
なのに人がいるというのも・・。」
「亀三・・、もしかして養父様は・・。」
「ええ、あそこにいる可能性が高いですな。」
「養父様の存在を確認をしに行こう。」
「いえ、養父様の件は伏すべできでしょう。」
「・・・。」
「相手がどのような者かわかりませぬ。
裕紀様のことですから、それとなく聞くつもりでしょうがやめるべきです。
相手が敵で、それに感づいた場合の危険性を考えるべきです。」
「・・・では、あの山小屋をここで見張るべきか?」
「いえ・・、この山で見つけた唯一の小屋です。
今日の一夜の宿をお願いしましょう。
道に迷ったことにして、一夜だけ泊めてもらいましょう。」
「泊めてくれるだろうか?」
「このあたりの
なんらかの敵であっても、地域性から外れるような事はしませぬ。
そのような事をすれば、怪しまれてしまいますから。
ですから大丈夫でしょう。」
「そうか・・・。
では亀三のいうように一夜の宿をお願いしよう。
野宿はやらないにこした事はないしな。」
二人は頷きあい、その小屋に足を進めた。
小屋まで100メートル程に近づいたときである。
小屋の戸が開き、人が出てきた。
その者は裕紀達が小屋に向かっていたのを、かなり前から察知していたようだ。
裕紀と亀三は緊張をした。
だが、二人は互いに顔を見合わせ頷くと、その者に向かって歩き始めた。
そして、その者との距離が2m程になったとき、その者が声を先にかけてきた。
「裕紀殿、よくぞお越し下された。」
その言葉に裕紀は息を呑む。
亀三はというと、何気なくそっと懐に手を入れた。
短刀を掴んだのだ。
だが、その所作は短刀を掴んだようには見えない。
殺気も無く、あまりにも自然な動きであったからだ。
裕紀はというと、自分の名前を呼ばれたことで一瞬驚いた。
だが、直ぐに小屋から出てきた者に頭を下げた。
「養父がお世話になっております。
このような時間に申し訳けございませぬ。
迎えに参りました。」
裕紀は相手が自分の名前を知っていることから、養父はこの者に迎え入れてくれるようお願いしたのだろうと察したのだ。
亀三も裕紀にならい、頭を下げた。
「堅苦しい挨拶はやめましょう。
外は寒いですから、どうぞ中にお入り下さい。」
「ありがとうございます。」
山小屋から出てきた者は、背を向け小屋の中に入っていった。
裕紀はそれに続き、開け放たれていた戸から山小屋に入る。
亀三もそれに続いた。
だが、亀三は