第119話 さて、再び地獄界に行こうじゃないか・・

文字数 2,428文字

 邸宅の外に出たところで、阿修羅(あしゅら)が話しかけてきた。

 「お前、牛頭馬頭(ごずめず)のところに行く気だろう。」
 「・・・。」
 「組織の壊滅を今日一人で行うつもりか?」
 「・・・。」
 「まあ、組織の壊滅はお前一人で問題ないだろう。
だが、牛頭馬頭の説得はどうする?
お前の言うことを聞いて、地獄で大人しくできると思っているのか?」
 「・・・。」
 「たぶんお前のことだ、牛頭馬頭と決闘をしてねじ伏せることで言うことをきかせるつもりだろう?」

 全てお見通しの阿修羅に、帝釈天(たいしゃくてん)はなんとか誤魔化(ごまか)そうとする。

 「何を言っているんだ、お前。」
 「俺に(とぼ)けるのか?」

 阿修羅は目を細め無表情となる。
帝釈天は、その顔を見て諦め(あきらめ)た。
この時の阿修羅に逆らうと碌な事(ろくなこと)が無い。

 「本当にお前は(かん)がいいな・・。」
 「ふん、お前の考えることは勘ではなく分かる。」
 「?」
 「お前は、単純で分かり安い。」
 「た、単純! お、おい、それはないだろう!」
 「能筋のお前が考えた事で、単純でなかった事があったか?」
 「ううぬ・・」

 帝釈天は言葉に詰まる。
あまりに思い当たる事が多いからだ。
阿修羅は帝釈天を睨み(にらみ)ながら言う。

 「なぜ俺に断りもいれずに行くつもりだった?」
 「・・お前に言うと、お前も行くと言うだろう?」
 「当たり前だ、こんな面白い事に参加しないわけがないだろう!」
 「・・・だろうな・・。
 ところで、だ・・。
 お前、朝から何しに俺の所に来たんだ?」

 帝釈天は阿修羅の手を借りるかどうかの前に、阿修羅が来たことが気になった。
阿修羅の性格上、朝食の時間帯に訪ねる事などはしない。
普段なら気を(つか)い、そのような時間帯を避ける。
その阿修羅が朝食中に(たず)ねて来たのだ。
よほど知らせておいた方がよいことが発生したに違いない。

 帝釈天の言葉に、阿修羅は真面目な顔になった。
仕事モードの顔だ。
だが、阿修羅は直ぐに話そうとしなかった。
どうやら、慎重に話さねばならない事案のようだ。
帝釈天は話せと、顎を振り催促する。

 それでも直ぐには答えず、少し時間を置いてから阿修羅は話し始めた。

 「次空間爆弾の入手先が分かった。」
 「ん? やけに早くわかったな。で?」
 「神界から地獄界に送られたようだ。」
 「なんだと!」
 「それに、なにやら神界が(きな)臭い。」
 「!」
 「神界から次空間爆弾が送られた時期、あの

の反対勢力に不審な動きがあった。」

 「不審? どのような動きだ?」
 「それは調査中だ。 お前には言えん。」

 帝釈天は顔を顰め(しかめ)た。
確かに情報部の極秘調査内容を帝釈天に簡単に教えるわけはない。
それも調査中の情報をだ。

 情報部は組織の中でも秘密が多い組織だ。
言うまでも無く諜報活動が主体となるからだ。
構成員、調査内容など一切外部に漏らすことはない。
そして調査内容は、情報部から他部署に直接情報を流すことなど無い。

 では、情報部の集めた情報をどうするか・・。
通常、情報部が確証を得た物だけ、神々の上層部に報告を入れる。
必要に応じて上層部は、その情報を各部門に情報を流すのだ。
つまり、上層部が情報をコントロールしている。
帝釈天は上層部の構成員ではあるが、そこまでの地位ではない。
よって帝釈天に情報部の全ての情報が開示されるわけではない。

 では、何故阿修羅が帝釈天に調査内容の一部を知らせたのか・・。
緊急性のある例外事項に該当したからだ。
場合により天界の一大事になる可能性がある。
帝釈天は

のボディーガードを行う立場にあったのだ。
そのため阿修羅は状況を帝釈天に教えたのだった。

 余談であるが、帝釈天は情報部ではない。
軍部だ。
だが、情報部では特殊な位置にいる。
それは、帝釈天が情報部の諜報に手を貸すことがあるからだ。
諜報活動には、かなり危ない諜報活動がある。
武術に優れ、機転が利き、情報収集のうまい者がそれを行う。
だが、天界といえど、そのような者は少ない。
そのため、帝釈天が狩り出されることがある。
当然、任務の後は報告と、書類が必要となる。
つまり、帝釈天は情報部に(たま)に出入りし、事務仕事を行うのだ。
場合により阿修羅の事務仕事が多忙なら手伝うこともある。
とはいえ、自分が調査した事意外の機密情報には触れることはできない。
そういう立場であった。

 阿修羅の報告を聞いて、帝釈天は思案をする。
そして阿修羅に確認を行った。

 「まさか、神界でクーデターでも起こすつもりか?」
 「その可能性は否定せん。」
 「!・・。」

 帝釈天は息を呑んだ。
天界が平定されてから長い年月平和が保たれていた。
たしかに、

の権力を羨む(うらやむ)上位の神々がいる。
だが、今の世をひっくり返してまで権力を望む神がいるなどと思えなかったからだ。
とはいえ阿修羅が判断したことだ、可能性があるのだろう・・。

 帝釈天は、静かな声で阿修羅に質問をする。

 「不穏な動きの目的と、証拠は押さえたのか?」

 「それが狡猾で、神々は証拠を何も残していないのだ。
だから目的もはっきりとしない。
だが、最悪はクーデターだ。
状況からそう判断できる。
残念ながら、あやしい神々への追求はできないだろう。
何分にも証拠がないのだからな。」

 「で、どうする?」
 「次空間爆弾の入手ルートは既に潰した。」
 「え?」
 「お前が大人しくしているうちに片付けた。」

 「お前! それはないんじゃないか?」

自分も暴れたかった帝釈天は阿修羅に抗議をした。
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