第159話 襲撃

文字数 1,914文字

 そして今日の深夜、ついに行動を起こしてきた。

 助左は寝床から音を立てないよう、ゆっくりと立ち上がる。
布団を片付けて、押入を開け奥に隠し持っていた木箱を取り出した。

中に入っていたのは刀だ。
それを取り出し、助左は部屋の真ん中に座る。
左横に刀を置き、目を静かに閉じて時を待つ。
 
 夜の()()()が耳に痛い。
 
 やがてどこからか(かす)かな足音が響く。
おそらく神薙(かんなぎ)巫女(みこ)拉致(らち)されたのであろう。
だが、誰も騒がない。
どうやら神薙の巫女が拉致された事に気がついた者はいないようだ。
やがて曲者(くせもの)達が外に出た気配がした。

 助左はそっと窓を少し開け、外の様子を伺う。
 
 曲者は5人・・・。
そのうちの一人が巫女を肩にのせ(かつ)いでいる。
どうやら神薙の巫女を気絶さたまま運ぶようだ。
まあ、そうせざるを得ないであろうな・・、そう助左は思った。

 「さて、ではちょっと散歩でもするか・・・。」
 
 気軽な口調で独り言を言い、助左は音を立てずに部屋を出た。
 
 
  新月が終わったばかりの鋭い猫の爪のような月が、冴え冴えとした空に浮かんでいた。
助左はそんな月を見上げた。
そして深呼吸をすると、闇の中、音を立てずに走り始めた。

 前方には視認ができる限界の距離に、黒装束の男が音も立てずに走っているのが見えた。
やがて村の入り口にある検問所が見えてきた。
その検問所に別の黒装束の5人組が立っているのがかすかに確認できる。
おそらく検問所にいたこの国の軍の精鋭は始末されたのであろう。

 検問所にいた5人は、草薙の巫女を攫ってきた5人組と合流し駆けだした。
この者達の(わず)かな衣擦れ(きぬずれ)の音と、かすかな足音が闇に吸い込まれて消えていく。
まるで物の怪(もののけ)が闇から現れ消えていくかのようだ。

 やがて黒装束の行く先の道が二つに分かれる。
黒装束の軍団は右手に折れ、一糸乱れず駆けていく。

 助左はその分岐点まで辿り着くと、一度近くの木の陰に身を隠した。

 「ふむ・・・、山越えか。」
 
 そう呟くと助左は口に手を当てフクロウの鳴き声を出す。
すると盗賊が走って行った方向と逆の道の林の中からフクロウが鳴いた。

 助左はフクロウの鳴き声がした方向に少し歩き立ち止まる。
すると林から黒装束の男達が助左の元にきた。
そして黒装束の頭と思われる者が一歩出て助左に話しかけた。

 「ここにいる者は・」
 「自己紹介などいらぬ。儂もする気がない。」
 「分かった。」
 「彼奴(あいつ)らを追うぞ。」
 「分かった。」
 
 助左は黒装束が去って行った街道に戻り後を追う。
その後を同じように先ほど合流した黒装束が追う。

 教会から12キロほど離れた場所で、神薙の巫女を攫った集団は一度立ち止まる。
そして辺りを一度警戒した。

 そして街道から横道にそれた。
そこには神社があった。
荒れ放題の境内に、小さな今にも朽ちそうな神殿がある神社だ。

 黒装束の一人が、神殿の扉を開ける。

 ギギギギギ・・・

 建て付けが悪く、今にも扉が外れそうであった。
そんな神殿の中に黒装束は消え、再び扉が閉まる。

 神殿は屋根の一部が朽ち果て、そこから星空が見える。
黒装束の頭とおぼしきものが、突然声を出した。

 「出てこい。」

 その声に物陰から誰かが現れた。
それは小泉神官であった。
小泉神官は星明かりの中、黒装束の男達に笑顔を向ける。
 
 「予定通りの刻限に来られましたな。」
 「ふん、それがどうした。」
 「まあ、私が苦労して情報を与えたのですから当然でしょうけどね。」
 「苦労しただと? 遊びがてら村の教会に行って簡単に調べられた事がか?」

 「それは心外ですな。」
 「儂等はお前の情報の全てを信用しておらん。」
 「な! 何ですと!」
 「ふん、まあよい、報酬を受け取れ。」
 
 そう男が言うと、別の黒装束の男が懐から何かを出して渡す。
 
 「これはこれは、御喜捨(ごきしゃ)、ありがたく頂きましょう。」
 「では、約束は果たした、じゃあな。」
 「ちょ、ちょっと待て!!」
 「なんだ?」

 「それでは約束が違う!」
 「ん? ああ、そういえばそうだな。
おい!、そいつを降ろせ。」
 
 そう男が言うと神薙(かんなぎ)巫女(みこ)(かつ)いでいた男が肩から降ろす。
 
 「小泉神官よ、1時間くらいは遊ばせてやる。
 それにしても神官ともあろう者が、巫女を(もてあそぶ)ぶとはな・・・。」

 「なんとでも言うがいいさ、俺はこの小娘を泣き叫ばせなければ気が済まないのでな。」

 「よいか、一時間だけだ。
だが、その巫女に怪我を負わすなよ。
多少の痣や軽い傷程度ならよい。
だが、御神託に支障をきたすような状態にしたならば、分かっておるであろうな?」

 「ああ、分かった。儂はこの巫女が泣き叫ぶ姿が見たいだけだ。」

 そう言って小泉神官は、気絶している神薙の巫女に歪んだ笑顔を向けた。
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