第101話 対峙 3

文字数 2,130文字

 馬頭(めず)は重い口を開き、帝釈天(たいしゃくてん)に語りかける。

 「そうか・・。
 何を言っても無駄みたいだな。
 だが、俺等(おれら)は犯罪をまだ(おか)しておらん。
 それに犯罪を犯すかもしれないという噂さえ無い。
 そんな俺達の組織を(つぶ)したければ好きにすればいい。
 今日の歓迎は挨拶程度だと思い知ることになるだろう。
 お帰り願おう。」

 馬頭から帰れと言われ、帝釈天は頭を右手で軽く()く。

 「帰れと言われてもな~・・。」

 そう帝釈天が言うと、今度は牛頭(ごず)が帝釈天に話しかける。
顔に笑みを浮かべて。

 「帝釈天様といえども、言いがかりで来たなら・・。」
 「ほう、言いがかりときたか。」
 「そうだ、力ずくで追い返す。」
 「おい、おい、それは穏やかではないな?」

 「良く言う。
 部下から歓迎を受け、逆に部下を可愛がってくれただろうが。」

 そう言うと馬頭(めず)はソファから立ち上がり帝釈天を()めつける。
それを見た帝釈天は、目を少し細めた。

 「ほう・・、馬頭も神力を使うか。」
 「神力? なんだそれは?」
 「?・・・、知らんのか?」
 「聞いたこともない。」

 この言葉に帝釈天はポカンとした。
その様子に牛頭馬頭(ごずめず)は訳がわからず二人して顔を見合わせる。

 「本当に神力というのを知らんのか?」
 「ああ、聞いたこともない。」
 「牛頭(ごず)、お前もか?」
 「ああ・・知らない。」

 帝釈天は二人を交互に見る。
嘘を言っているようには見えない。
帝釈天は馬頭(めず)に言う。

 「お前がソファから立ったとき、俺に神力を向けたのだが。」
 「神力? いや、違う。」
 「?」
 「俺は殺気を(はな)っただけだ。」
 「殺気だと?」
 「ああ、そうだ。」

 「あのな、殺気と神力は違うぞ?」
 「いや、俺は殺気を放ったのだ。
 帝釈天様、貴方を叩きのめすと決め、殺意を向けたのだ。」

 その言葉に帝釈天は目をしばたたかせた。
 そして馬頭(めず)の言葉に独り言(ひとりごと)のように(つぶ)く。

 「ふむ・・無意識に神力を出したか。」

 この独り言に馬頭(めず)が反応する。
 「何を分からん事を言っている。」

 だが、帝釈天はこの言葉を無視し、質問をした。

 「聞きたいことがある。
 お前が今まで殺気を放つと、(ほと)どの相手は怖じ気づいたのではないか?」
 「ああ、そうだ。 俺は強いからな。」

 この質問で帝釈天に分かったことがある。
帝釈天は最初、牛頭馬頭(ごずめず)が神力を意識して隠しているのかと思っていた。
だが、この様子だとそうではないようだ。
おそらく威圧する時、危険を察知したとき、そして戦闘時に無意識に神力を発揮するのだろう。
それも誰に教わることも無く、神力を無意識で使用しているようだ。
天賦(てんぷ)の武道家と言えるのかもしれない。
そう思う帝釈天も、その一人ではあるのだが。

 帝釈天は、唐突(とうとつ)な質問を馬頭(めず)に始める。

 「お前の両親はどうした?」
 「両親だと?」
 「ああ、そうだ。」
 「両親などおらん。 おれは孤児(こじ)だ。」
 「孤児?」

 「そうだ。
 物心ついたときは牛頭(ごず)といた。
 それ以前については記憶がない。
 おそらく捨てられたのだろう。」

 「何歳からの記憶だ?」
 「三歳くらいからの記憶だ。」

 「三歳でどうやって食い物とか得ていたんだ?」
 「知らない大人(おとな)から施しを受け、喰いつないできた。
 それが何だって言うんだ!」

 馬頭は帝釈天からわけの分からない質問をされ苛立(いらだ)った。

 「まあ、落ち着け。
 地獄という場所で三歳くらいの幼児が無事に育ったんだ。
 それも偶然に施しをしてくれた大人が居てな。」

 「それがどうした?」
 「施した大人達を覚えているか?」
 「え? ああ、おぼろげにな。」
 「その大人はどうした。」
 「突然にいなくなった。」
 「ほう・・・何時(いつ)?」
 「俺達が自分達で食い物を得られるようになった頃だ。」
 「ふむ・・。」

 そこで帝釈天は押し黙る。
何かを考え始めたようだ。
そして、また馬頭(めず)に質問を始める。

 「お前の周りで同じ(とし)の子はいたのか?」
 「え?」
 「だから同じ歳の子がいたのか?」
 「・・・いない。」
 「いなかったのだな?」
 「ああ、周りには子供などいなかった。」
 「やはりな・・・。」
 「?」

 牛頭馬頭(ごずめず)の二人は、帝釈天が何を言わんとするかわからなかった。
帝釈天は一人納得(なっとく)していた。

 そんな帝釈天が話しは終わりとばかりに牛頭馬頭の二人に言う。

 「俺の質問の意味がわからなければ気にするな。」
 「いったい何だっていうんだ! わけの分からん質問をしやがって!」

 帝釈天はそれには答えなかった。
そして不適な笑みを浮かべたのだった。
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