第224話 裕紀・密入国をする・・ その6
文字数 2,526文字
覚悟を決めた瞬間、走馬燈のように色々な思いが駆け抜ける。
まったく勝てない相手に出会って、己を見つめ直した事・・。
弟子になり諸国を武者修行をする傍ら、神一郎に相手をしてもらったこと。
だが、結局、一度も勝てなかった。
それを思い出し、思わず呟いてしまった。
「一度くらいは、勝ちたかったな。」
亀三を取り囲んでいる者の一人が、その言葉を聞いて思わず口を開く。
「何?! 何をいっておる!
儂らに囲まれて勝ちたいなどとは。
儂らは国では知られた剣客揃いだ。
儂らから逃れられると思うな。」
「ほう・・、知られた
「な! 何故、緋の国だと分かった!」
「ふん、語るに落ちたな、自分から認めるとはな。」
「ぐっ! カマをかけたのか!」
「カマ? いや、おおよそ察しはついておったがな。」
「!?」
「で、
あの者を今更狙ってどうするのだ?
過ぎたことは元には戻らぬぞ?
まさか同僚の敵討ちなどとは言うまい?」
助左とは神一郎が陽の国で使った偽名である。
亀三は神一郎が陽の国に行くときに、目的と名乗る偽名を聞いていたのだ。
それを聞いた黒装束の男は目を見張った。
そして・・。
「そうか、お前はやはり助左の関係者か。」
「そんな事はどうでもよい。
助左は宮司だぞ、神官なぞつけ回す程、緋の国の侍は暇なのか?」
「助左が宮司だと!」
「そうだ。」
「ばかを言え、あのような武芸者が宮司である筈はない。」
「そうか?」
「宮司などと、それは変装した姿であろうが!」
亀三はニヤリと笑う。
そして遠くに隠れている裕紀にちらりと目を向け視線を直ぐに外した。
亀三は、この黒装束に囲まれたとき、逃げ道を探すため周りを見回した。
その時に裕紀が隠れてこちらを見ているのに気がついたのだ。
裕紀を見かけた時、亀三はヒヤリとした。
この者達に見つかれば裕紀など簡単に捕まり始末されてしまう。
だが・・、この黒装束の者達は間者とは少し違う。
おそらくは暗殺部隊ではなかろうか・・・。
だから、追跡や武芸に
それが裕紀にとっては幸いしている。
それにしても逃げて隠れろと言った裕紀が、自分らの後をつけてくるとは・・。
無茶をしよる。
だが、今の会話で裕紀は察したであろう。
これで儂が死んだとしても無駄死ににはならぬ。
後は裕紀にまかせるしかない。
痕跡の追跡は裕紀なら、おそらくできる事であろう。
うまくいけば神一郎の居場所を裕紀が此奴らより先に見つけられるやもしれぬ。
命に関わる無茶だけはしないで欲しいものだが・・。
後、儂にできるのは此奴らを一人でも多く減らす事だ。
そう亀三は思った。
黒装束の男が亀三に詰問をしてきた。
「助左の居所を教えてもらおうか。」
「さあて、何処だろうな・・。
お前達は助左の痕跡を追跡してきたのであろう?
なら、儂に聞かずに追跡すればよかろうに。」
「ふふふふふ、言う気にはなれぬか?」
「言うも何も、儂も知らんのだ。
むしろ知っていたら教えてくれぬか?」
「しらを切るか・・・。
ならば吐かせるのみ。
お前ら、生け捕るぞ!
腕の一本くらいは切り捨てて構わぬ!」
「おいおい、それは
「余裕をかませよって! かかれ!」
亀三を取り巻いていた黒装束の輪が徐々に縮まる。
やがて亀三の後ろに居た男が
亀三は後ろを見ずに、軽くそれを
それを見て、先ほど亀三に話していた男が感心した声を上げた。
「ほう・・、かなり出来るな。
お前、名前は何と言う?」
「普通、人に名を聞くときは自分から名乗るものだろう?
そんな常識さえ緋の国の武家は知らんのか?」
「・・・武家だと? ばれるとはな・・。」
「当たり前だ、この構えと太刀筋・・・。
緋の国・
上流武士でしか習えない流派だ。
武家で黒装束・・・。
緋の国も黒い組織があったものだ。
まだ、賊の方が可愛いというものよのう。」
「ふん、まぁよい、名を名乗る気はないのだな?」
「そうだな、へのへの
「言う気はないか・・、まぁよかろう。
流派はなんだ?」
「流派だぁ?
そんなもんはない。
あえていうなら、
「あくまで
このような奴は拷問にかけようが口は割るまい。
殺せ!」
黒装束の雰囲気が一斉に変わる。
全員からの殺気に亀三の雰囲気も変わる。
そして互いに全く微動だもしない。
まるで時が止まり人の彫刻が林の中にたたずむかのようだ。
やがて一陣の突風が吹いた。
それを合図にしたかのように、静寂を破り突然に金属音が響く。
キン! ガキン、カン!
数
「そうか、この動きは・・・。」
そう黒装束の男は呟いた。
そして・・。
「お前らの里の者が、陽の国に雇われておったか・・。」
「何のことだ?」
「とぼけなくてもよい、雇われの間者であろう?」
「はて・・、儂はそのような者ではない。」
「・・・。」
「何か勘違いをしているようだな。」
「・・同じ里の助左の消息を追っているのではないのか?」
「だから違うと言っておろうが。儂と助左は師弟関係だ。」
「師弟関係?
そうか、あの里には師弟という関係はないと聞いている。
とぼけている可能性もあるが・・。
だが、そもそもあの里の者が師弟などという言葉などプライドがあり使わぬか・・。
儂の勘違いやもしれぬな。
では、お前が助左の師匠か。
ならば助左が強いわけだ。」
「何を勘違いしておる? 儂は弟子だ。」
「は?! 師匠の間違いであろう?」
「だから、弟子だと言っておろう?」
「・・・助左の方が若いはずだが・・。」
「だからどうした?」
「・・まぁよい。お前と話していると疲れる。」
「そうか、それは良かった。」
「良くはない!」
その時だ、亀三の死角にいた者が口を