第186話 祐紀・佐伯のタラレバに途惑う

文字数 2,188文字

 どのくらい佐伯(さえき)は押し黙ったままであったろうか・・。
佐伯は(おもむろ)に目を開くと同時に祐紀(ゆうき)に問いかける。

 「もし、お前が()()()に行けたとしてだ・・。」
 「?」
 「神薙(かんなぎ)巫女(みこ)様が無事であったことを確認した後はどうするのだ?」
 「どうする・・とは?」
 「そのまま陽の国で、神薙の巫女と暮らしたいのか?」
 「え?!」

 佐伯は真っ直ぐに祐紀を見つめ返事を待つ。
祐紀は狼狽(うろたえ)えた。

 「わ、私は姫巫女(ひめみこ)、いや、あの、神薙の巫女様と一緒に暮らすなど考えおりませぬ!」
 「お前は神薙の巫女に逢いたいのであろう?」
 「はい、逢いたいというか助けたいのです。
もし身に危険が迫っていたり、危機に(ひん)しているようならば。
ですが、無事が確認できれたなば直ぐに戻ります!」

 「では、危険にさらされていたとしたならばどう助けるのだ?」
 「そ、それは・・。」

 祐紀は押し黙った。
だが、佐伯はそれを追及する。

 「危険にされされたり、身に危険が迫っていたらどうするのだ?」
 「お救いしたいと・・。」
 「異国でお前に協力をし神薙の巫女を救う者がおるのか?」
 「いませぬ、ですがそれでも救いたいと思います。」
 「どうやって?」

 祐紀は一瞬言葉に詰まった。
だが・・・。

 「佐伯様だから申し上げます・・。」
 「?」
 「佐伯様は私の神力をご存じでありましょう?」

 その言葉に佐伯は押し黙った。
祐紀が城でみせた地龍の過去の映像を思い出したのだ。
あの人外の力を。
そして神が落としたあの雷を。
もし祐紀が雷を落とせる力を持っていたとしたならば・・・。
そうか、そういう事かと理解した。

 その力をもってすれば、武力としては強力過ぎるほどである。
ただその力が強大すぎて、数人を相手にするようなものではない。
おそらく相手側は甚大な被害を受けるであろう。
それに、その力で神薙の巫女を危険から救ったとしたならば・・・。

 「お前の人外の力で神薙の巫女を救出できたとしよう。
お前にそのような力があったと知った陽の国は、お前を国外に出してはくれまいぞ。
お前を欲すると思った方がよい。
お前がこの国の国境をまたぐまで、陽の国は必死に捕縛しようとするだろう。
いくら人外の力があっても、他国で四六時中多勢に狙われれば逃れることは困難だ。」

 「佐伯様、佐伯様は私が陽の国に捕らわれるのと、その場で自害するのとどちらが宜しいですか?」
 「!」
 「私は自害をいたします。自分に雷を落とすのは簡単です。」
 「・・・そうか。
そこまで覚悟があるというのか。
お前が陽の国で捉えられたとしたならば、儂はお前の答えと一致した事をお前に言うであろう。」

 「答えが合っていてよかったです。」

 そう言ってさも自分の命などなんでもないという祐紀に、佐伯はなんとも言えない顔をする。
祐紀はそんな佐伯に笑顔を向ける。

 佐伯はその顔を見て確信した。
此奴・・冗談ではなく本当にそうするつもりだ。

 そう思い佐伯は祐紀を知恵のある子供という認識から、一人の武士として捉えなおした。
何時いかなる時も、信念に従い生き、信念に従い死ぬ覚悟で生きている。
己のためでなく仕える者、あるいは為政者として民のために死ねる武士(もののふ)の覚悟と同じだ。

 まったく彼奴(あやつ)は、たいした養子をもったものだ。
佐伯は腐れ縁でもある祐紀の養父をうらやましく思った。

 佐伯は気を取り直して祐紀にさらなる質問をする。

 「神薙(かんなぎ)の巫女を無事救えたとしよう。」
 「?」
 「陽の国がお前を捉えず自由にさせたならば、お前はどうする?」
 「救出した後で・・で御座いますか?」
 「そうじゃ。」
 「国に戻ります。」
 「陽の国がお前の自由を保障しようと言っていおるのにか?」
 「はい。」
 「そうか、この国に戻る意思が強いか。」
 「当然の事ではないですか?」

 「では、神薙の巫女様が引き留めたらどうする?」
 「戻ります。」
 「泣いて(すが)ってもか?」
 「そのような事はないかと思いますが?」
 「あったらどうする?」
 「あったとしても、私は国に戻ります。」

 「ならば神薙の巫女がお前に付いて陰の国に来たいと言ったならば?」
 「え?」

 「来たいと言ったならばどうすのだ?」
 「あり得ません。」
 「あったとしたならば、だ。」
 「そ、それは・・。」
 「それは?」
 「陽の国に留まるように説得します。」
 「泣いて縋ったらどうする?」
 「え?!」
 「泣いて縋ったらどうすると聞いておるのじゃ。」

 祐紀はそれを聞き、目を伏した。
そして間をおいて、深呼吸をしたあと答える。

 「陽の国にいるよう説得し、それでもだめなら・・。」
 「だめなら?」
 「置き去りにして私一人で帰ります。」
 「なぜじゃ? かよわい巫女が其方に縋っているのだぞ?」

 「佐伯様、そもそも姫巫女(ひめみこ)、いや、神薙の巫女様がそのような事はしません。」
 「儂は例えばの話しをしておる。」
 「・・・・。」

 「どうした? なぜ答えん。」

 「先ほど話した通りに私はします。
そうしないと国と国との争いになってしまいます。
そのような事があれば、民が戦争に巻き込まれます。
あってはならない事です。
民が不幸になるような事など望んでおりません。」

 そう言って祐紀は真っ直ぐに佐伯の目を見つめる。
佐伯も見つめ返す。

 どのくらいその状態が続いたであろうか?
佐伯が目を反らした。

 「そうか、それがお前の考えか。」
 「はい。」

 祐紀は迷うことなく即座に答えた。
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