第150話 小泉神官の来訪 その2
文字数 2,002文字
来てしまった神薙 の巫女 に、神父は入室の許可をあたえるかどうか一瞬躊躇 した。
だが、ここで入室を許可しないと小泉神官に自分が最高司祭派だと疑われるであろう。
それは悪手だ。
神父は覚悟を決めた。
「入りなさい。」
「失礼します。」
小泉神官は不躾 な視線で入室してくる神薙の巫女の頭の先からつま先まで舐めまわすように見つめた。
そして内心で舌打ちをする。
この小娘、下っ端 の巫女に落ちぶれたというのになんだこの気品は?
嘆 き悲しんでいる姿を楽しみに来たというのに、これでは興醒め ではないか!
惨 めに嘆き悲しんでいたならば優 しい言葉の一つでもかけ、縋 りつくようにさせようと思っておったというのに!
もし縋り付いてきたならば、弄 んで緋 の国に売り飛ばすのは簡単だった。
それが嘆き悲しむどころか、この平然とした様子はどういうことだ?
ふん、まあ、よい。
それならそれで、やりようは別にある。
そう考えた時だ。
「小泉神官様、お久しぶりでございます。
このような辺鄙 な教会に態々 私にお会いに来て下さるなど光栄です。」
そう言って神薙の巫女は頭を下げてきた。
小泉神官が神薙の巫女に声をかけようとしたその時、神薙の巫女の後ろにいる男に気がついた。
ん? なんだ此奴 は?
存在感のない男だな・・・。
神薙の巫女について、この部屋に入って来たであろうが気がつかなかった・・。
「お前は誰だ?」
「へ?儂 でごぜえますか?」
「そうだ。」
「わっしゃ、この教会で神薙の巫女様のお付きのものでごぜえますが?」
「何! 男がお付きの者だというのか!」
そういって小泉神官は思わず神父を見た。
神父はその問いかけに物静かに答える。
「この者は、この教会に修行に来た者です。
歳も若くなく、いまだ修行の身。
本来ならば修行など受け入れないのですが・・。
他の教会からの紹介状もあり邪険にもできませぬ。
そして神父になりたいという事ですので、教育を神薙の巫女に任せました。
それに男手が少ないこの辺鄙な教会では重宝しております。
そういう訳ですので神薙の巫女の護衛をかね神事の手伝いをさせております。」
「この得 たいの知れない奴にか!」
「教会からの紹介状もあり身元は確かです。」
「紹介状を見せろ!」
「え? なぜ小泉神官様に見せる必要が?」
「儂に逆らうか!」
「・・・わかりました。」
神父は自分の机に行き引き出しから書状を出し、それを小泉神官に渡した。
小泉神官は書状を確認する。
「たしかに教会の紹介状だ。
それも片田舎の教会のな。」
そういって書状を乱雑に神父に投げ渡しながら助左に侮蔑 の目をむける。
「お前、その年でまだ修行などしているのか?」
「へ?」
「へ、ではない!」
「はぁ、そうですだ、修行しておりますんで。
頭が弱いもんでなかなか神父に必要なんが覚えられなくてぇ・・。
だども、おらぁ神父にならけりゃ困るんですだ。
村にゃ教会もなく神父もおらんですだ。
そんで、村長がなんとかしたいと儂が選ばれちまって。
いやだってぇ言うのに、酷 え村長だと思いませか神官さまぁ~。
神父なんて簡単にしてくれればええもんをよ~。
あ、そうだぁ神官様、神官様のお力でおらを神父にして下さんねえだか?
そしたらぁ、こんな修行などしなくてもいいずらぁ?
ああ、こりゃいい、そうすっぺ、神官様。」
「バカ者! そんな事できるわけないだろうが!!」
「うひゃ!! こ、怖え! お、怒らんでくだせぇませぇ!
だども中央のお偉いさんでしょ?
そんなこともできねえんですかぁ?」
「できるか! 神官であろうが最高司祭であろうがそんな事できんわ、たわけ!!」
小泉神官に怒鳴られ、助左は縮 こまった。
この様子に神薙の巫女は袖で顔を隠していたが耳まで真っ赤であった。
小泉神官はその様子をちらりと見た。
ふん、お付きの者が恥ずかしすぎるか。
そうだ、恥じをかけばいい、お前なんぞ。
そう思い、小泉神官は神薙の巫女に対する愉悦を味わった。
だが、実際は違っていた。
神薙の巫女は必死に笑いを堪 えていたのだ。
あまりにも助左・・いや宮司の芝居がうますぎ、そして面白すぎたからだ。
笑い声を殺すのに必死である。涙も出る。
顔が真っ赤になるのも当然である。
神父はというと、やれやれ、やり過ぎではないかと内心で溜息をついていた。
小泉神官は助左を相手にするのが馬鹿馬鹿しくなったようだ。
「ああ、もういい!!」
そう小泉神官は怒鳴った。
怒鳴りながら小泉神官は内心でほくそ笑んだ。
こんな田舎の中年男、それも頭が弱く人がよさそうなだけの男だ。
こんな者が神薙の巫女の護衛だとはな。
見た限りこの教会に武芸のできそうな者はいないようだ。
神薙の巫女の拉致で問題になるのは、この村の入り口にある検問所くらいだな。
神薙の巫女は簡単に拉致できそうだ。
これを緋の国のあいつらに伝えれば、ここに来た儂の仕事は終わりだ。
小泉神官は無意識に口の端を少し上げた。
だが、ここで入室を許可しないと小泉神官に自分が最高司祭派だと疑われるであろう。
それは悪手だ。
神父は覚悟を決めた。
「入りなさい。」
「失礼します。」
小泉神官は
そして内心で舌打ちをする。
この小娘、
もし縋り付いてきたならば、
それが嘆き悲しむどころか、この平然とした様子はどういうことだ?
ふん、まあ、よい。
それならそれで、やりようは別にある。
そう考えた時だ。
「小泉神官様、お久しぶりでございます。
このような
そう言って神薙の巫女は頭を下げてきた。
小泉神官が神薙の巫女に声をかけようとしたその時、神薙の巫女の後ろにいる男に気がついた。
ん? なんだ
存在感のない男だな・・・。
神薙の巫女について、この部屋に入って来たであろうが気がつかなかった・・。
「お前は誰だ?」
「へ?
「そうだ。」
「わっしゃ、この教会で神薙の巫女様のお付きのものでごぜえますが?」
「何! 男がお付きの者だというのか!」
そういって小泉神官は思わず神父を見た。
神父はその問いかけに物静かに答える。
「この者は、この教会に修行に来た者です。
歳も若くなく、いまだ修行の身。
本来ならば修行など受け入れないのですが・・。
他の教会からの紹介状もあり邪険にもできませぬ。
そして神父になりたいという事ですので、教育を神薙の巫女に任せました。
それに男手が少ないこの辺鄙な教会では重宝しております。
そういう訳ですので神薙の巫女の護衛をかね神事の手伝いをさせております。」
「この
「教会からの紹介状もあり身元は確かです。」
「紹介状を見せろ!」
「え? なぜ小泉神官様に見せる必要が?」
「儂に逆らうか!」
「・・・わかりました。」
神父は自分の机に行き引き出しから書状を出し、それを小泉神官に渡した。
小泉神官は書状を確認する。
「たしかに教会の紹介状だ。
それも片田舎の教会のな。」
そういって書状を乱雑に神父に投げ渡しながら助左に
「お前、その年でまだ修行などしているのか?」
「へ?」
「へ、ではない!」
「はぁ、そうですだ、修行しておりますんで。
頭が弱いもんでなかなか神父に必要なんが覚えられなくてぇ・・。
だども、おらぁ神父にならけりゃ困るんですだ。
村にゃ教会もなく神父もおらんですだ。
そんで、村長がなんとかしたいと儂が選ばれちまって。
いやだってぇ言うのに、
神父なんて簡単にしてくれればええもんをよ~。
あ、そうだぁ神官様、神官様のお力でおらを神父にして下さんねえだか?
そしたらぁ、こんな修行などしなくてもいいずらぁ?
ああ、こりゃいい、そうすっぺ、神官様。」
「バカ者! そんな事できるわけないだろうが!!」
「うひゃ!! こ、怖え! お、怒らんでくだせぇませぇ!
だども中央のお偉いさんでしょ?
そんなこともできねえんですかぁ?」
「できるか! 神官であろうが最高司祭であろうがそんな事できんわ、たわけ!!」
小泉神官に怒鳴られ、助左は
この様子に神薙の巫女は袖で顔を隠していたが耳まで真っ赤であった。
小泉神官はその様子をちらりと見た。
ふん、お付きの者が恥ずかしすぎるか。
そうだ、恥じをかけばいい、お前なんぞ。
そう思い、小泉神官は神薙の巫女に対する愉悦を味わった。
だが、実際は違っていた。
神薙の巫女は必死に笑いを
あまりにも助左・・いや宮司の芝居がうますぎ、そして面白すぎたからだ。
笑い声を殺すのに必死である。涙も出る。
顔が真っ赤になるのも当然である。
神父はというと、やれやれ、やり過ぎではないかと内心で溜息をついていた。
小泉神官は助左を相手にするのが馬鹿馬鹿しくなったようだ。
「ああ、もういい!!」
そう小泉神官は怒鳴った。
怒鳴りながら小泉神官は内心でほくそ笑んだ。
こんな田舎の中年男、それも頭が弱く人がよさそうなだけの男だ。
こんな者が神薙の巫女の護衛だとはな。
見た限りこの教会に武芸のできそうな者はいないようだ。
神薙の巫女の拉致で問題になるのは、この村の入り口にある検問所くらいだな。
神薙の巫女は簡単に拉致できそうだ。
これを緋の国のあいつらに伝えれば、ここに来た儂の仕事は終わりだ。
小泉神官は無意識に口の端を少し上げた。