第154話 忍び寄る影・・・ その2

文字数 2,434文字

 助左(すけざ)に対する対応を思いあぐねた神薙(かんなぎ)巫女(みこ)は対応を決めた。
教会における常識に従って助左に対応することにしたのだ。

 神薙の巫女は助左に近づくと、有無を言わさず頬に平手打ちをした。

 パシッ!

 「いっ、痛ってぇ!! な、何をするずら、巫女様!」
 「控えなさい!!」
 「へっ!! こ、怖え!」
 「助左! 自室に戻り謹慎(きんしん)していなさい!」
 「へ? え?」
 「命令です!」
 「そ、そんなぁ~・・・。」

 「従わなければ、この教会から追い出しますよ!」
 「げっ、そ、それは困るずら!」
 「返事は!」
 「!・・・。」
 「返事をしないさい!」
 「へ、へぇ、わかりやした・・自室に()もりますだ・・。」
 「(よろ)しい。」

 助左は振り向きながらすごすごとその場を去った。
その背中をチラリと見たあと、神薙の巫女は巡礼の女性に謝る。

 「すみません、あの者の無礼をお詫びします。」
 「え? あ、はぃ・・。」
 「このような真似は今後させませんのでご安心下さい。」
 「はぁ・・、そうして頂けば・・。」
 「では、神父様の所にご案内しますね。」
 「え、ええ、お願いします。」

 神薙の巫女は神父の執務室の前まで巡礼の女性を案内した。
そして神薙の巫女はドアをノックする。

 コツ、コツ!

 「誰ですか?」
 「神薙の巫女です。」
 「入りなさい。」
 「あの・・、巡礼の方が神父様にお会いしたいと・・。」
 「分かりました。ではその方と一緒に入りなさい。」
 「はい。」

 神薙の巫女はドアを開け入室した。
巡礼の女性もその後に続く。

 「では、私はこれで。」

 神薙の巫女が退出しようとすると神父が呼び止めた。

 「貴方(あなた)もここに居て下さい。」
 「え?」
 「・・・ああ、そうか・・。貴方は今回が初めてか・・。」
 「え? 何がですか?」
 「この教会では巡礼者に声をかけられた者が、声をかけた人の面倒を見るのです。」
 「え?」
 「ですから巡礼の方の話しの内容により、貴方がこの方の世話をする事となります。
なので一緒に話しを聞いて下さい。」
 「そう・・なのですか、分かりました。」

 神薙の巫女にとっては寝耳に水の事であった。
中央神殿にいたとき、そのような事など聞いたことがない。
地方独特の風習なのであろう。
従うしかない。

 「それで私への面会はどのような用件ですか?」
 「話せば長くなるのですが・・・。」
 「構いませんよ。」

 「有り難う御座います。
まず私ですが、私の母が病気でなくなり母の冥福を祈り巡礼をしております。」
 「そうですか、それはそれは・・・。」

 「私がここに来たのは、母からこの地は祖母が小さき頃にいたそうです。」
 「ほう・・、何という姓ですか?」
 「それが・・祖母の旧姓は分からないのです。」
 「分からない?」
 「ええ、聞いていないのです。ですがこの村にいたと母から聞いております。」
 「そうですか・・。」
 「祖母が懐かしんで話していたこの地を見たいと、母が生前(せいぜん)に申しておりまして。」
 「なるほど、それで貴方が代わりに訪れたと。」
 「はい。」

 神父は巡礼者・鶴から祖母がどのような話しをしたか話をするように言う。
お鶴は母を介して聞いた内容を思い出しながら話す。
神薙の巫女はその話しを聞き、特に不審な点は見いだせなかった。

 「なるほど、貴方の祖母の思い出はこの村の話しと矛盾していませんね。
それで、私への面会の理由はなんでしょうか?」

 「たいへん言いにくいのですが路銀が心元ないのです。」
 「なるほど・・・。」
 「それで困ったときは、これを見せて教会に泊まらせてもらえと言われまして。」

 お鶴はそういうと懐から一通の書状を取り出した。
神父はそれを受け取り、書状を開く。

 「これは・・中央教会からの書状ですね。
貴方はどこの村の出身ですか?」
 「私は南部にあるカザのミムラ村です。」
 「カザというと国境近くにある?」
 「はい。」

 「それにしても中央教会が何故貴方に書状を?」
 「村の教会の神父様が私を心配してお願いしたのです。」
 「それならその村の神父様の紹介状でもよかったのでは?」
 「はぁ、そういうものですか?」
 「・・・その様子ですと、あなたの村の神父様の独断なのですね。」
 「ええ、そう・・なりますか?」

 「分かりました。貴方の滞在を許可します。」
 「有り難う御座います。」

 「神薙の巫女よ、この方の滞在中のお世話をお願いします。」
 「はい。」
 「部屋は使用人の部屋に空きがありましたよね。」
 「はい。」
 「ではそこに案内をして下さい。」
 「わかりました。」

 神薙の巫女はお鶴を連れて神父の執務室から出て行った。
ドアが閉まると神父はまた難しい顔をする。

 「う~む、怪しくないかといえば怪しいが・・。」

 神父は難しい顔をして考えこむ。
お鶴の話しには特に不審な点はなかった。
しかし・・・
どこの村にでも当てはまる景色の説明、どこの地方にもある遊びの思い出などだ。
郷愁を感じるものというにはすこし違和感があった。
とはいえ昔の思いでなど何気ないことを懐かしむのも不思議ではない。
せめて祖母の姓が分かればこの村の出身かどうか分かったのだが。

 それに気になるのは中央神殿の紹介状だ。
神父は地方にいるとはいえ、中央神殿の一部の者とパイプがあった。
とはいえ殆どの中央の神官は、地方の神父と交流など無く知らないのが普通だ。
ましてやあの辺鄙な教会の神父が、中央神殿と繋がりがあるとは思えない。
そして紹介状を書いた人物を、神父は知っていた。
小泉神官寄りではないが、金に汚いという噂がある神官である。
そんな神官に一地方の神父が金を払ってまで、一村人に紹介状をお願いしているのだ。
疑問に思うのは当然だ。
だが、お鶴は美人なので神父と何かしらあるならば納得はできる。
残念ながらお鶴のいる村の神父の人柄は知らないし、(うわさ)を聞いたこともない。

 どうしたものか・・。
お鶴は怪しといえばそうなのだが、怪しむまでもない気もする。
助左の意見でも聞いてみようか、そう神父は思った。
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