第181話 白眉、青陵と遭遇する

文字数 2,192文字

 白眉(はくび)は人に擬態して斎木(さいき)村への道を歩いていた。

 道は一直線に遠くまで続き、道の先に斎木村はまだ見えない。
人一人誰も道を歩いている者はいなかった。
いや、人どころか犬も猫もおらず、小鳥の囀りさえ聞こえてこない。
まるでこの地上には白眉しかいないかのようだ。

 (あゆみ)みを進めていた白眉が突然足を止めた。
そしてそのまま動かず、何も無い前方を見つめる。
すると・・

 「ほう・・、まだ(わし)を探知するだけの神力があるとはな。」
 「青陵(せいりょう)、なぜお前がここにおる?」
 「何故だと?!」

 青陵はそう叫んで、白眉から2m程離れた場所に突然現れた。
それも人に擬態して。

 「儂が何故ここにおるのか分からんとでも言うのか!」
 「ああ、分からん・・。」

 青陵の口からギリっという音が響いた。
奥歯を強く噛みしめたのだ。

 「何をそんなに怒っておる?」
 「貴様! 儂を天界から蹴落としておいてよくも言えたものだ!」

 その言葉に白眉はキョトンとした。

 「儂はお前など蹴落としておらんが?」
 「忘れたとでもいうのか! 儂を地上界に追いやっておいて!」
 「待て青陵!
地上界に追いやったのは神の裁定によってであろう?」

 「よくもヌケヌケと! 
お前が儂を地上界に追放するように神に進言したからであろうが!」

 「何を言っておる?
儂はお前の裁定について口など挟んでおらんぞ?
それに仮に儂が神に進言したからといって神の裁定に影響などするものか。」

 「ふん! 何とでも言い訳をするが良い!」

 そう言うと同時に青陵は龍の姿に変わり、尻尾で白眉をはじき飛ばしたのだ。
あっという間の出来事であった。

 はじき飛ばされた白眉は宙を舞い、500m程はなれた山に激突するかと思われた。
だがそこには洞窟があり、あたかもそこを青陵が狙って弾いたかのようであった。

 白眉は洞窟の中に吸い込まれるように宙を舞い、やがて洞窟内の地面に叩きつけられた。

 「ぐふっ!」

 思わず息が漏れた。
そして何度かバウンドしながら、さらに洞窟の奥に転がっていく。
最後に仰向けになり白眉の体は止まった。

 「ううう・・、手ひどい歓迎をしてくれる。」

 そう白眉は言って、立ち上がった。
人間ならば死んでいたことだろう。

 白眉は服に付いた埃を払う。
服といっても人にはそう見えるというだけだ。
服に見えているのは鱗である。

 白眉は洞窟の入り口に歩いていき、そこから出ようとした。

 バチン!!

 突然弾かれ、数メートル後ろに飛ばされて尻餅をつく。

 「これは・・、結界か?」
 「そうだ。」

 青陵が洞窟の外から声をかけてきた。
洞窟の入り口から顔をのぞかせて。

 青陵は洞窟には入ろうとはしなかった。
どうやら青陵が洞窟に結界を張って、白眉を閉じ込めたようだ。

 「いったい何のつもりだ?」
 「まだ分からないのか? 
これは復讐だ。
その洞窟で朽ち果てるがいい。
長年、結界に閉じ込められていたお前ではその結界は抜けられまい。
己が儂になした事を悔やみながら朽ち果てるがよい。」

 「はぁ~・・・。
青陵よ、逆恨みもいい加減にしろ。
このような事をすれば、お前は本当に神界に帰れなくなるぞ。」

 「はははははははは!
戯言(ざれごと)を言うな!
儂は追放された身。
神界などに帰れるわけがないであろう。
お前の言葉に踊らされるほど馬鹿ではないわ!」

 「戯言? 儂は嘘など言ってはおらんが?」

 「ふん、まだ言うか。
まあ、好きに言っているがよい。
もう逢うこともあるまい。
いや、お前が朽ち果てた頃、その姿を見に来てやろう。」

 青陵は楽しそうに口の端を上げた。

 「いや、このような場所で朽ち果てる気はないが?」
 「強がりか? それは出られたら言うんだな。」

 そう青陵が言ったときだ。

 バン!!
ドゴォォォォォン!!!!

 突然、轟音とともに土砂が青陵を襲い、青陵は土砂もろともに弾き飛ばされた。
数百メートル程宙を舞った後、青陵は地面にたたきつけられた。
龍になっていた青陵がだ。
青陵は立ち上がり、驚きの声を上げる。

 「な! なんだ!! 何が起きた!」

 目の前では砂ぼこりが舞い上がり洞窟の様子が見えない。
やがて少しずつ砂ぼこりが収まってきて、その先に見えたのは地龍であった。

 白眉が結界を洞窟ごと破壊したのだ。
洞窟は吹き飛ばされ、周辺には岩石などが散乱している。
洞窟があった場所は幅広く抉られ断崖に変わっていた。

 「お、お前! そ、その力は!
あ、あり得ん!!」

 「あり得んか・・、まぁ普通はそうだろうな。」

 「いったい何処にそんな力を温存していた!
長年結界に閉じ込められ弱っていたはずだ!
それに(ねぐら)を造るために山を破壊し残り少ない体力をさらに削ったはずだ!
いくら霊山で体力を回復したとしてもあり得んぞ!
あり得ん!
あり得ん、あり得ん、そんな、そんな・・。」

 「まあ、そう思うだろうな・・。
だが、何故かは教える気はない。
で、どうする?
儂とやり合うのか?」

 「おのれぇ!」

 青陵はそういうと同時に、口を大きく開いた。
それと同時に白眉に向かって圧倒的な炎を吐き出す。

 それは一度ではなかった。
口を開けては炎を吐き又閉じる。
それを何度も繰り返した。

 青陵も天界から地上界に落とされ寿命や体力が落ちている。
それなのに、それらを無視して怒りに任せて火を吐き続ける。

 天龍の吐く炎は岩をも溶かす暑さだ。
白眉でもこの炎を浴びたら無事ではすまされない。
そのような炎が幾度となく白眉を襲ったのだ。
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