第175話 白眉・緋の国へ
文字数 2,099文字
地龍である白眉 は、霊峰にある塒 で眠っていた。
眠ると言っても仮眠である。
霊山の霊気を受け体力の回復を行っていたのだ。
やがてこれ以上の回復が望めないと分かると、山を下りることにした。
龍の姿では目立つので人の姿に擬態する。
緋 の国に行き自分を貶 めた者達を探すつもりだ。
白眉は山を駆け下りる。
と、いっても地面での移動ではない。
人の目に触れぬように、高い木の天辺付近の枝を足場に跳躍し木から木へと移っていく。
一見、猿のように見えるかもしれない。
だが、猿とは似ても似つかない動作だ。
姿勢を正し、ゆっくりとした動作で木々を渡っていくのだ。
散歩をするかのように、立っている木の梢から片足をゆっくりと前にだしたと思った瞬間、次の木の枝の上にいた。
木と木の間は10mを超えているというのに。
不思議な光景であった。
気配に敏感なマタギがすぐ傍にいたとしても、高い木の上を音も無く素早く渡っていく白眉に気がつく事は無いだろう。
やがて白眉は緋の国の国境近くの麓で地上に降り立った。
霊山と違いここならば人の行き来がある。
人に擬態した自分を見つけても、怪しまれないだろうと判断したからだ。
村の集落につづく一本道を歩いていくと、こちらに歩いてくる村人がいた。
白眉に気がつき村人が話しかけてきた。
「あん? おめえさん、どっからきただか?」
「私かい?」
「あたりめえでねえだか、ここにゃ、おめえ様とオラしかおらんで。」
「それもそうか・・。」
「道に迷ってきただか?」
「まあ、そんなところだ。」
今の白眉の姿はというと、服を着ていない。
だが、村人は白眉の服装より見慣れない余所 者くらいの認識のようだ。
それというのも神獣(地龍)が擬態し人の形をとると、人はそれを見ても違和感を感じないのだ。
そしてその姿は、人々の記憶に曖昧な姿でしか残らない。
目撃した10人に人相風体 を聞いたとしても、誰一人として同じ人相を言う者はいないだろう。
これは神が地上に神獣を遣わすことがあるためだ。
もし実在する者と人相風体が一致したら、その者に迷惑がかかる。
そのため、神が配慮して与えた能力である。
今、村人には白眉が何処か山里に暮らす者に見えているようだ。
おそらく薄汚れた粗末な物を着ているように見えているのであろう。
白眉をこのような村人として捉えるのには訳がある。
白眉が来た方向にある森は”迷いの森”と呼ばれている。
高い木々は遠方の高山を隠し、森の中にこれといった目印になるものがない森だ。
特徴のある木や、洞窟、大岩などが全くない。
そのような森に、山を隔てた余所の部落の薪拾 いの者が迷いこむことがある。
この森に入ってしまうと方向感覚を無くし森の中を彷徨う ことになる。
そして運が良ければ、白眉がいるこの場所に出てくることがあった。
そのため村人は森で迷って出てきた村人をイメージしたため、白眉がそう見えたのだ。
白眉は村人がどう見えているかは気にせずに、道を聞いた。
「私は皇帝のいる都に行きたいんだが、道を教えてくれないか。」
「はぁ? 薪拾いで迷ったのではなかったんか・・。
だとすると道から外れてよ迷 い の 森 に入るなんて方向音痴もいいとこずら。
”迷いの森”から出られ運がいい奴だなぁ、おめえさんは。」
「そうかい?」
「それにしても、その粗末な恰好で帝都にいくんかい?」
「そうだが?」
「ふ~ん・・、道中手形とかあんのか?」
「ああ、道中手形ね。」
村人は帝都にいくには、粗末な服装に疑問を感じたようだ。
おそらく村人には白眉がボロボロの粗末な服を着ているようにみえているのであろう。
帝都のような場所に、普通はそんな恰好ではいかない。
物乞いと間違われ、帝都に入れるはずもない。
そもそも、そんな恰好の者に道中手形など、お役所が出すはずはないのだ。
怪しいと思い、道中手形があるか聞いたのであろう。
白眉は懐に手を入れる素振りをし、出した右手を村人に見せる。
村人は何もない手をじっくりと見た。
「あんりゃぁ、確かに道中手形をもっちょる。」
「何か疑っておったのか?」
そう言って白眉は手をひっこめた。
「まぁ、そんな恰好で帝都に行くってきいたらぁ、そうなるべ?
でも、ここから帝都にいくっちゅうてもな~・・・。
ここから昼夜歩きどおしで10日もかかる距離ずらに。」
「近いな。」
「近い?!」
村人は旅をするには荷物が少ない白眉をマジマジと見て怪訝な顔をした。
まるで日帰りでもするかのような軽装である。
だが、これ以上はよそ者にあまり構う気はないようだ。
「帝都はな、この道を真っ直ぐ行くとやがて二股にわかれとるがや。」
「ふむ・・。」
「左の道をそのまま行きゃあ、次の宿場町につくからそこでまた道を聞きゃいいがや。」
「そうか、ありがとう。」
白眉は礼をいうと歩き始めた。
その後ろ姿を見送りながら、村人は首を傾げた。
「次の宿場町まで距離も聞かんとはのう~・・。
今からだと今日中にぁ着かんがぁ?
どうするつもりずらかね?
あの服で野宿なんかしたら、凍え死ぬかもしんねえのに・・。
まあ、オラには関係ないがぁ・・。」
そう言って村人は踵 を返し歩き始めた。
眠ると言っても仮眠である。
霊山の霊気を受け体力の回復を行っていたのだ。
やがてこれ以上の回復が望めないと分かると、山を下りることにした。
龍の姿では目立つので人の姿に擬態する。
白眉は山を駆け下りる。
と、いっても地面での移動ではない。
人の目に触れぬように、高い木の天辺付近の枝を足場に跳躍し木から木へと移っていく。
一見、猿のように見えるかもしれない。
だが、猿とは似ても似つかない動作だ。
姿勢を正し、ゆっくりとした動作で木々を渡っていくのだ。
散歩をするかのように、立っている木の梢から片足をゆっくりと前にだしたと思った瞬間、次の木の枝の上にいた。
木と木の間は10mを超えているというのに。
不思議な光景であった。
気配に敏感なマタギがすぐ傍にいたとしても、高い木の上を音も無く素早く渡っていく白眉に気がつく事は無いだろう。
やがて白眉は緋の国の国境近くの麓で地上に降り立った。
霊山と違いここならば人の行き来がある。
人に擬態した自分を見つけても、怪しまれないだろうと判断したからだ。
村の集落につづく一本道を歩いていくと、こちらに歩いてくる村人がいた。
白眉に気がつき村人が話しかけてきた。
「あん? おめえさん、どっからきただか?」
「私かい?」
「あたりめえでねえだか、ここにゃ、おめえ様とオラしかおらんで。」
「それもそうか・・。」
「道に迷ってきただか?」
「まあ、そんなところだ。」
今の白眉の姿はというと、服を着ていない。
だが、村人は白眉の服装より見慣れない
それというのも神獣(地龍)が擬態し人の形をとると、人はそれを見ても違和感を感じないのだ。
そしてその姿は、人々の記憶に曖昧な姿でしか残らない。
目撃した10人に
これは神が地上に神獣を遣わすことがあるためだ。
もし実在する者と人相風体が一致したら、その者に迷惑がかかる。
そのため、神が配慮して与えた能力である。
今、村人には白眉が何処か山里に暮らす者に見えているようだ。
おそらく薄汚れた粗末な物を着ているように見えているのであろう。
白眉をこのような村人として捉えるのには訳がある。
白眉が来た方向にある森は”迷いの森”と呼ばれている。
高い木々は遠方の高山を隠し、森の中にこれといった目印になるものがない森だ。
特徴のある木や、洞窟、大岩などが全くない。
そのような森に、山を隔てた余所の部落の
この森に入ってしまうと方向感覚を無くし森の中を
そして運が良ければ、白眉がいるこの場所に出てくることがあった。
そのため村人は森で迷って出てきた村人をイメージしたため、白眉がそう見えたのだ。
白眉は村人がどう見えているかは気にせずに、道を聞いた。
「私は皇帝のいる都に行きたいんだが、道を教えてくれないか。」
「はぁ? 薪拾いで迷ったのではなかったんか・・。
だとすると道から外れてよ
”迷いの森”から出られ運がいい奴だなぁ、おめえさんは。」
「そうかい?」
「それにしても、その粗末な恰好で帝都にいくんかい?」
「そうだが?」
「ふ~ん・・、道中手形とかあんのか?」
「ああ、道中手形ね。」
村人は帝都にいくには、粗末な服装に疑問を感じたようだ。
おそらく村人には白眉がボロボロの粗末な服を着ているようにみえているのであろう。
帝都のような場所に、普通はそんな恰好ではいかない。
物乞いと間違われ、帝都に入れるはずもない。
そもそも、そんな恰好の者に道中手形など、お役所が出すはずはないのだ。
怪しいと思い、道中手形があるか聞いたのであろう。
白眉は懐に手を入れる素振りをし、出した右手を村人に見せる。
村人は何もない手をじっくりと見た。
「あんりゃぁ、確かに道中手形をもっちょる。」
「何か疑っておったのか?」
そう言って白眉は手をひっこめた。
「まぁ、そんな恰好で帝都に行くってきいたらぁ、そうなるべ?
でも、ここから帝都にいくっちゅうてもな~・・・。
ここから昼夜歩きどおしで10日もかかる距離ずらに。」
「近いな。」
「近い?!」
村人は旅をするには荷物が少ない白眉をマジマジと見て怪訝な顔をした。
まるで日帰りでもするかのような軽装である。
だが、これ以上はよそ者にあまり構う気はないようだ。
「帝都はな、この道を真っ直ぐ行くとやがて二股にわかれとるがや。」
「ふむ・・。」
「左の道をそのまま行きゃあ、次の宿場町につくからそこでまた道を聞きゃいいがや。」
「そうか、ありがとう。」
白眉は礼をいうと歩き始めた。
その後ろ姿を見送りながら、村人は首を傾げた。
「次の宿場町まで距離も聞かんとはのう~・・。
今からだと今日中にぁ着かんがぁ?
どうするつもりずらかね?
あの服で野宿なんかしたら、凍え死ぬかもしんねえのに・・。
まあ、オラには関係ないがぁ・・。」
そう言って村人は