第9話2

文字数 727文字

体調、本当に大丈夫? 

機巧武者になるとかなり体力を使うって聞くし、人によっては一日は動けないなんて話もあるんだけど。

もう一度、〈手当〉を使っておく?

大丈夫だと思う。

気を使ってくれてありがとう

私にはこれぐらいしかできないから……
……澪?
ううん、なんでもない。

じゃあ、移動しようか。

先導するからついてきてね

わかった

 立ち上がって足を踏み出そうとしたら違和感があった。

 なんだろうと思って足元を見る。

……あれ?

 黒の革靴を履いている。

 いつもはスニーカーだから珍しいと言えば珍しいけどそれはいい。

ぶかぶかだ

 明らかに靴のサイズがあってなかった。それにズボンの丈もだ。足首のあたりに布がとぐろを巻くようにたまっている。

 腕を伸ばすと指先すら袖から出ていなかった。肩も落ちていて体にあってない。

移動の前に、その格好をなんとかしないとね
そうだね

 肩をすくめてみせたら上着がずり落ちた。

 華奢な肩のラインがあらわになる。まるで中学生みたいな体つきだ。


 参ったな。

 どうやら単純に異世界へ転移したわけじゃないみたいだ。

 肉体の変化にはどういう意味があるんだろうか。


 ベルトをきつく締めてズボンが落ちないようにする。裾も上げ、袖もまくった。

 これで歩く分には問題ない。服は皺になるけど仕方がないだろう。

 黒いネクタイは外して胸ポケットに入れる。

 これで僕の準備は完了だ。

あ、待って。襟のところ見てあげる。

んっ、これでよし。

この服、すごくいい生地使ってるんだね。

もしかしてキヨマサ君っていいところの子なの?

そうでもないよ
でもこんなに艶のある黒に染めた生地を使ってるなんてすごいよ。触り心地もいいし。

まさかこれが正絹なのかな

 いや、そんないいものじゃないです。化繊だと思うよ。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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