第36話3
文字数 711文字
板間に置かれたお盆には金属製のちろりにお猪口が三つ。筒状で下がすぼまり上にはつぎ口と取っ手のついたちろりからはゆるく湯気が上っている。
気を利かせた葵がそれぞれのお猪口に注いでくれた。
ふわりとした香りが立ち上っている。
お酒は薄い琥珀色をしていた。もしかしたら古酒なんだろうか。でも日本酒で古酒なんてわざわざやらないとなるものではない。樽酒みたいに木の樽に入れてあったから色がついたのかな。
目で楽しみ、鼻で楽しんだ。とにかく飲んでみよう。
軽く杯を掲げると二人も倣ってくれた。
舌先に乗せるようにして口に含む。
お米の強い味がする。それから鼻に抜ける豊かな香り。
すっきりとした端麗辛口に慣れていると、この強烈さはびっくりするだろう。
日本酒は原酒だとアルコール度数が二十度近くあるので、それに加水といって水を加えることで十四から十六度ぐらいの飲みやすい状態にする。
現代では酒造メーカーで味を調整して飲みやすい状態で出荷しているけど、江戸時代なんかだと酒の販売店が桶ごと買ってきて適当に混ぜたり水を加えて販売していた。
水で薄めてたくさん売れば儲けが出るので、江戸時代の日本酒は薄かったなんて話もあるぐらいだ。