第36話3

文字数 711文字

ね。だからさ、キヨマサ君っていろいろと謎なのよ
神秘的な男って思ってくれてもいいんだけど
むしろ怪しい人って方向で疑いたいかも
 いや、それはやめてください。すぐにでもボロが出てしまうと思うので。
お待たせしました

 板間に置かれたお盆には金属製のちろりにお猪口が三つ。筒状で下がすぼまり上にはつぎ口と取っ手のついたちろりからはゆるく湯気が上っている。

 気を利かせた葵がそれぞれのお猪口に注いでくれた。

 ふわりとした香りが立ち上っている。

 お酒は薄い琥珀色をしていた。もしかしたら古酒なんだろうか。でも日本酒で古酒なんてわざわざやらないとなるものではない。樽酒みたいに木の樽に入れてあったから色がついたのかな。

 目で楽しみ、鼻で楽しんだ。とにかく飲んでみよう。

じゃあ

 軽く杯を掲げると二人も倣ってくれた。

 舌先に乗せるようにして口に含む。

おっ

 お米の強い味がする。それから鼻に抜ける豊かな香り。

 すっきりとした端麗辛口に慣れていると、この強烈さはびっくりするだろう。芳醇甘口(ほうじゅんうまくち)系の日本酒よりもさらに味が濃いように思う。

うん、これはおいしいなあ
うん、これはおいしいなあ
でしょ? 

ここのはあんまり水で薄めてないから味がしっかりしているの

 日本酒は原酒だとアルコール度数が二十度近くあるので、それに加水といって水を加えることで十四から十六度ぐらいの飲みやすい状態にする。

 現代では酒造メーカーで味を調整して飲みやすい状態で出荷しているけど、江戸時代なんかだと酒の販売店が桶ごと買ってきて適当に混ぜたり水を加えて販売していた。

 水で薄めてたくさん売れば儲けが出るので、江戸時代の日本酒は薄かったなんて話もあるぐらいだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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